【赤の少女と白い虎】 3夜. 宮殿会議
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人々は一斉に不安な言葉を放った。
「この国は一体どうなってしまうんだ」「こんな日にどうして・・・」
国王は、禁断の奥の院を解放し、高僧たちのティーチングとチャンティングを誰もが受けられるようにした。
人々はこぞって入れ替わり立ち替わり、寺院へ向かった。
老人は足をひきずりながら、赤ん坊は母親に抱かれながら、完全なる清い空間で、光の言の葉を浴びて安堵した。
宮殿では、特例召集がかけられた。
「何が起きているというのだ」
国王は厳しい表情でいった。
「隣国、そして海の向こうからも同じ白い男が現れたとの伝令が届きました」
「なんということ・・・」妃が眉をひそめた。
国王は妃を見て小さくうなづき、隅にひっそりと佇んでいた、宇宙の風読み師に話しかけた。
「そなたにはどのように見えるだろうか? 風読み師よ」
「はい」
宇宙の風読み師は、目をふせたまま答えた。
「この国自体は盤石です。めくるめくいのちが開いては閉じる巡りのもと、調和がゆき届いております。ただ、外側の世界は混沌としていく巡りに入りました。その中で、どの道を選び、進むかが、問われるのみ」
「混沌とはどういう意味だ。はっきりと申せ」
少し苛立った大臣が、風読み師をにらんだ。
「はい、今までは目に映っておらずとも、常にそこにあったであろう意図が、目に見えるかたちとなって現れる時空間に入るのです」
「はっきり申せといっておる! それは争いが始まるということなのか」
宇宙の風読み師は続けた。
「宇宙の風は、目には見えずとも、そこかしこに流れて巡るもの。言の葉にした瞬間に、その情報の多くは失われるもの。刻一刻と風向きは変わります。
争いになるか、対話になるか、そこには我らの意志もまた、風に大きくかかわるのでございます」
「そして、そこには相手の意志もかかわる、ということなのだな」
国王の言葉に、宇宙の風読み師は深く頭を垂れた。
「武力を備えねばなるまい」大臣はいまいましくつぶやいた。
「もうひとつ、ございます」
ひときわ凛と響く声で、宇宙の風読み師は顔を上げた。
「我々が、民の心がどうあるか、どう生きるのか。何が大切で何が大切でないか。その確固たる在りようを育むことです。
老いていようが幼子であろうが、国が違おうが、本来の人の望みというものはそれほど変わりません。
この国にはもう長いこと争いもなく、見えずともその心の光は強い輝きを放っております。
その光を道しるべに、我々の道を歩むことが寛容です。その在り方が、これからの国の未来をどんな時にも照らすことでしょう」
国王はじっと風読み師を見つめて言った。
「それは王子たちのことを言っておるのだな」
風読み師は黙って頭を下げた。
もうひとつ、いわなかったあることを、胸に秘めながら。
翌日、宮殿の中庭で白い虎と遊んでいる姫がいた。
そこにふと、渡り廊下を宇宙の風読み師が歩く姿が見えた。
「風読みよ、どこへいくの?」
つづく。
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