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《読書感想文》 江國香織さんの「神様のボート」を読んで。

 視点切り替えの、ママと娘の物語。

 二人の視点で交互に物語は織られていく。まず、その立体感に感激してしまった。二人の生活の空気がそこにリアルに存在するし、なにしろ江國さんの文章は豊かだ。

 心情と状況をなぞるのが小説だと言うけれど、本当になぞられている。心と共に物理的感覚が丁寧に。

 だから、そこに人生がある感覚になる。

 私は、そういう静かな生活をなぞるような文章がすごく好きなんだと思う。あちこちで、「あ、わかる」と、些細な出来事と心境に共感してしまうと感激して、先が読めなくなる。

 だから、読み終えるのに1年以上かかった。

 娘の心情を読んでいると、「子供のときは、寛容だった気がする。ママを許せた」という感覚を思い出し、母親の心情を読んでいると、「大人になると、許してもらいたくてしょうがない子供のような部分がある」と思ったり。

 とにかく矛盾するような、その人間の年齢に応じた心情の変化の描写に、一番感激した。

 解説に江國さんは、子供のような部分と大人の部分があって、それを2つ持ち合わせていないと、この作品は書けないという説明があった。

 確かにそうだ。

 あとがきには、江國さんの人柄、旅行のエピソードが書かれていた。江國さんは少女のような大人だ。可愛い。

 魅力的な大人は、子供のような無邪気さを持っていると思う。そして、やっぱりそういう人間の魅力が文字には滲み出るんだなと思った。




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