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輪舞曲 ~ジロンド①~

あらすじ
19世紀パリ、街の片隅でひっそりと探偵業を営む男・ユーグのもとには、毎回奇妙な依頼が来る。今回の依頼も「叔父から譲り受けた屋敷にある古い人形を調べてくれないか」という妙なものだ。依頼人によると、その人形は動き回ることが出来るらしく誰かを探しているようだということだ。ユーグの特殊な能力により分かる、人形の数奇な運命とは・・・




 男が控えめに呼び鈴を鳴らしたのは、部屋の主が探し人かどうかの不安であって、決して今日来たことを後悔しているわけではない。

 19世紀のパリ・・・一目で高級と分かるアパルトマンが立ち並ぶなか、男は帽子を深く被り、早足で目的のアパルトマンに入った。服の仕立ては悪くないのだが、布地は少しくたびれていて毛羽立っている。それが場違いのように感じられて居心地が悪い。幸いなことにアパルトマンの中には住民の姿は無く、じろじろと見られることはなかったが、逆に誰もいないことにやや不安を感じる。男は手紙を見て住所を確認すると、3階にある一室の呼び鈴を鳴らした。
 静かに扉が開くと、やや年配のメイドが顔を出した。彼女が無表情で「どちらさまでしょう」と聞くので、「ルカ・リュベール」とだけ答えた。メイドはルカを家に入れると、黙って部屋に案内した。さすが高級住宅地のアパルトマンだけあって、貴族が住んでいてもおかしくない家だった。花の活けてある花瓶は上品で趣味が良く、廊下は掃除も行き届いている。
 「初めまして。」
メイドが奥の部屋の扉を静かに開け、「お客様がいらっしゃいました」と伝えると、中にいた男が立ち上がってにこやかに挨拶した。着ている上着は皺ひとつなく、彼の少し痩せている身体によく合っていた。
「初めまして。先日手紙を書きました、ルカ・リュベールです。」
「勿論手紙は読ませていただきましたよ。私がユーグ・ガルニエです。」
 ユーグと名乗った男が客人をソファに座らせると、先ほどのメイドが温かい紅茶を置いた。
「よろしければ、是非。私の好きな茶葉なので、お口に合うといいのですが。」
 そう言ってカップを持つ仕草は、どこからどう見ても洗練されていて貴族のようだった。つられるように紅茶を味わったルカは、その高級感のある香りに驚く。それは今まで味わったことのない味だった。
 彼の表情を見ていたユーグは、先ほどのメイドは楽しい話は出来ないけれどお茶を淹れるのが上手くてね、と言って笑った。
「それで、手紙に書いてあった頼みごと、というのは?」
「・・・ムッシュ、私の友人のピエールから、あなたは探偵の中でも変わった能力があると聞きました。もしかしたら、あなたにならこの悩みを解決できるかもしれないと思ったのです。」
「そうですか。私のような者を探偵と呼ぶべきかは分かりませんが、世間の人が思う探偵とは違いますね。私は複雑なトリックを見破ることは出来ませんから。」
「そのような事件ではないのです。ただ、警察に相談するほどでもないのですが。あなたでしたら、この悩みも解決するかもと思って手紙を書きました。」
「なるほど。解決するかどうかはわかりませんが、話だけでも聞かせてもらいましょう?」
「はい。ただ、今から話すことは、嘘ではなくすべて本当のことなのです。」
 ルカはゆっくり息を吐いてから、静かに話し始めた。


 苗字からもお分かりになるでしょうが、私は貴族の血を引く者です。一族には、代々伝わる美術品なども多くあります。しかし、時は流れ私たちの代になると、一族に生まれた者が一生遊んで暮らせるほどの財産は無くなりました。私たち一族は、涼しい顔をして必死に金を稼ぎ、なけなしの金を使って他の貴族たちと付き合っていかなくてはなりません。大変金はかかりますが、仕方ありません。代々受け継いできた美術品なども、売ってしまったと知られたら「あそこは落ちぶれた」と散々噂されることでしょう。貴族というのは名ばかりで、自分たちの名誉を守るために、時には兄弟であっても争わなければならないというのは、何だかやりきれない思いがするものです。
 私は4人兄弟の3番目に生まれました。兄たちは頭もよく、また商才もあったので裕福な暮らしをしています。下の妹は数年前に結婚して家を出ました。私は小さなころから取り立てて優秀ではなく、特に秀でたものもありませんでした。父の勧めもあり、何とか試験に合格して文官として働いています。私の給料では、代々受け継いできた屋敷や美術品の維持が難しいことは分かっていましたので、小さな絵画や少しの宝石を分けてもらい、それらを子孫に残していくようにと言われました。
 そんな小さなころから目立つわけでもない私が、先日、何年も会っていない叔父に呼び出されたのです。


(以前に投稿したものを改稿して投稿しています。改稿前の作品は「小説家になろう」でも投稿しています。)

1話 https://note.com/akari_toudo/n/n6e17b70096d0
2話 https://note.com/akari_toudo/n/n07089e51d198
3話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n4d39d7f91e40
4話 
 https://note.com/akari_toudo/n/ncf3770945400
5話 
 https://note.com/akari_toudo/n/nd52d9fcffe1b
6話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n69f2715c6e61
7話 
 https://note.com/akari_toudo/n/na68ccb3c5eab
8話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n755a678d6e1e
9話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n4a5200e371bb
10話 
 https://note.com/akari_toudo/n/na9524544082b
11話 
 https://note.com/akari_toudo/n/nefb1707fe3d7
12話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n5695d45927d3
13話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n7865309109de
14話 
 https://note.com/akari_toudo/n/n50497297e539
15話(完結) 
 https://note.com/akari_toudo/n/ne16b38ad71fe 


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