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吾輩は猫でR-絵描きの見習い-

ご主人は絵を描く。
絵といっても、たいそうなもんじゃない。
葉書と同じ大きさの白い紙に、ちょっと変わったペンで描く。
どうも吾輩の絵を描いているようだが、似ても似つかない。

人間というものは、自分の好きなことをやっている時、非常にイイ顔をする。吾輩はご主人が楽しそうな顔で絵を描いているのを、書棚の上で眺めているのが好きだ。

ご主人が吾輩の絵を描き始めたのは、10年以上も前のことだ。
子供の頃から絵を描くのが好きだったようだが、本格的に絵を学んだことはない。学校のクラスの友人に
「ベルバラのマリーアントワネットを描いて」
と言われれば、嬉々としてデカイ目の中に星を入れて描き、
「宇宙人描いて」
と言われれば、自分の勝手な想像で宇宙人らしきものを描いた。
描いた絵を誰かが喜んでくれることが、ご主人は好きだったようだ。

ある日、ご主人はデパートの一角にある画材売り場に足を踏み入れ、そこで「COPIC」というペンに出会う。ずらりと並んだカラフルなペンの前で立ち止まり、暫く眺めていた。長らく吟味した結果、7色のペンを買い求めた。

それからご主人は時間があれば同じ店に足を運び、3本5本とまだ持っていない色を買い求め続け、今では30色以上のペンが網カゴにぎっしり収まっている。

COPIC

ご主人の描く絵の色彩感覚は、ちと変わっている。
カラフルといえば聞こえはいいが、ハッキリ言って色キチだ。
ただ、吾輩らしき猫の色だけは、それなりに猫らしい。
紫色の猫でなかっただけでもありがたい。
ただ、似ても似つかないが。

FLY
MUSIC
MERRY CHRISTMAS
STUDY

気分が乗り出すと、一日に何枚も何枚も描く。
ちょっと気に入らないと、メリメリと丸めては、ポイっとする。
気に入ったものと、さっきゴミ箱行きになったもの、どこが違うのか吾輩には全く区別がつかない。ご主人にしか分からない合格ラインがあるのだろう。

描いたら誰かに見せたくなるというのが人間の心理。ご主人は描いた絵をハガキファイルのようなものに丁寧に入れ、職場に持っていった。
嬉々として帰宅すると、ご主人はまた猫の絵を描き始めた。どうやら職場の人間にたいそう褒められたらしい。

そこまでならまだ良かったのだが、ご主人は何を勘違いしたのか知り合いの画家先生のところに猫の絵を持っていった。画家先生は個展開催前日の忙しい時だというのに、ご主人の絵を丁寧に見てくれたという。
そしてまた、ご主人は嬉々として帰宅した。

ご主人は吾輩の顔を両手で押さえ、ウニウニしながらこう言った。

「自分で描いた絵で、自分で書いた物語で、本をつくるの」

そして、その出来上がった本を吾輩に読んで聞かせてくれるのだと言う。何だかよく分からないが、ご主人が嬉しそうにしているなら吾輩も安泰だ。温かく見守ってやろうじゃないか。

そしていよいよ、ご主人の夢であった「本」が完成した。
恥ずかしながら真ん中で寝ているのは吾輩でR。白いのは吾輩の天敵、クー猫だ。タロットカードとやらを描いたものらしい。

TAROT CARD -THE WORLD-

ただ、ご主人の絵を見るといつも思う。
どの絵の吾輩も寝ているのは、いかがなものかと。
17歳にして若々しく煌めく吾輩の瞳を是非描いて欲しいものでR。


そういえば、今ふと気づいたのだが。
「猫」と「描」という字は、よく似ている。

猫を描く。

(ΦωΦ)ふふふ・・・・


(2016年7月作)

高い所が好きなみいちゃん

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