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ロシアンルーレット生配信
「YouTuberの事情」
〇部屋
生放送配信するチェン&キンポ―。
キンポ―「みなさん、こんにちは。チェン&キンポ―です。今日の配信はですね、なんと生放送でお送りします。ねえ、チェン?」
チェン「…うん、そうだね」
キンポ―「いつもはね、撮って編集して配信なんですけど、今日はチェン&キンポ―にとって新しい試み。ねえ、チェン?」
チェン「…うん、そうだね」
キンポ―「ですから、今初めて見ている皆さん、ぜひチャンネル登録の方をお願いします。ねえ、チェン」
チェン「…うん、そうだね」
キンポ―「うんこしたいの?」
チェン「え?いや、別にうんこはしたくないよ」
キンポ―「お腹痛いならトイレ行って。大変な事になっても、これ生放送だから編集できないからね」
チェン「ここでしないから。それはちゃんとトイレ行くから。で、うんこじゃないからね」
キンポ―「じゃあ何?テンション低くて。あ、緊張か。皆さんすいません。なんせ初の生放送なんで、ちょっとチェンが緊張してまして。ただですね、今からやる企画。非常に緊張感のある企画でして。何をやるかと言いますと」
キンポ―はリボルバー式銃を画面に見せる。
キンポ―「これです。本物です。先ほど一発だけ弾を入れてシャッフルしました。今から二人でロシアンルーレットをします。チェン、どっちからいく?」
チェン「…やっぱりやめないか」
キンポ―「は?」
チェン「ロシアンルーレットはやばいだろ」
キンポ―「お前がもっとフォロワー数増やしたいって言ったんだろ?」
チェン「そうだけど、でもこれは」
キンポ―「フォロワー数いくつか言ってみろよ」
チェン「え?」
キンポ―「フォロワー数いくつだ?」
チェン「3」
キンポ―「3だぞ。半年やって3だぞ。そのうちの2は俺とお前だぞ。残る1は幼馴染の玲ちゃんだぞ。実質0だぞ。そしたら命懸けなきゃフォロワー数なんて増えねーだろ」
チェン「…そうだな。これくらいやらなきゃな」
キンポ―「よし、じゃあどっちからやる?」
チェン「言い出しっぺから」
キンポ―「…わかった」
キンポ―は銃をこめかみに当てる。
キンポ―「皆さん、チャンネル登録お願いします」
カチッと乾いた音が鳴った。セーフ。キンポ―は一息つき、画面を見る。
キンポ―「すげー増えてるぞ」
キンポ―はチェンに銃を渡す。チェンは不安な表情。
チェン「…キンポ―、やっぱり止めないか」
キンポ―「何言ってんだよ。一回で止めたら一緒だろ」
チェン「次、俺死ぬかも知れないんだぞ」
キンポ―「なあチェン、ユーチューバーで有名になるんだろ?だったらこれくらいやらなきゃ」
チェン「でもいくらなんでもこれは」
キンポ―「今までの企画言ってみろよ」
チェン「え?」
キンポ―「今までの企画言ってみろよ」
チェン「風呂のお湯全部飲む」
キンポ―「どんな企画だ。お風呂のお湯を全部飲んで何が面白いんだ」
チェン「でも、池の水ぜんぶ抜くって人気あるだろ」
キンポ―「全然違うだろ。池の水全部抜く、風呂のお湯全部飲む、やってる規模が違うわ。ちびちびちび飲んで、画変わりなしの11時間だぞ。編集したら1分だぞ。再生回数2回だぞ。俺とお前だぞ。幼馴染の玲ちゃんすら見てないんだぞ」
チェン「わかった、やるよ」
チェンは銃を取る。そしてチェンはこめかみに当てた。
カチッと鳴った。セーフだった。
チェン「やった。…やったよ、俺」
画面を見る。
チェン「増えてる。キンポ―、フォロワー数増えてる」
キンポ―「ああ。よし、もう1ターン行こう」
チェン「え?いや、何言ってんだよ」
キンポ―「まだ行けるって。まだ4分の1だ。大丈夫だ」
チェン「待てって。もう充分だろ」
キンポ―「せっかくフォロワー数増えてきてるんだ。ここで止めたら、また逆戻りだ」
チェン「だからって、死んだら終わりなんだぞ」
キンポ―「なあ、チェン。お前はまたお湯を飲みたいのか」
チェン「…もう二度とお湯は飲みたくない」
キンポ―「だったら…」
チェン「わかったよ。でも、キンポ―。何かちょっとでも嫌な感じしたり、何か変な違和感があったら、やめるんだぞ」
キンポ―「ああ」
キンポ―はこめかみに当てる。
キンポ―「皆さん、チャンネル登録お願いします」
キンポ―撃った。バンッ。キンポ―は倒れた。
チェン「…キンポ―…え?…キンポ―。キンポ―」
キンポ―「なんてね」
キンポ―はむっくり起き上がった。
チェン「…」
キンポ―「ウソだよ。どっきりだよ」
チェン「…どっきり?」
キンポ―「そうだよ」
チェン「…え?でも銃声」
キンポ―はスマホを出した。
キンポ―「これで鳴らしたんだよ」
チェン「…なんだよー。引っかかったよ。なんだウソかよ。お前がロシアンルーレットやるっていう企画出した時、おかしいと思ったんだよ。なんだよー」
キンポ―はチェンに銃を渡す。
キンポ―「はい」
チェン「え?」
キンポ―「次、チェンだろ?」
チェン「え?いや、どっきりだろ?」
キンポ―「どっきりだよ」
チェン「何でやるの?」
キンポ―「いや、さっきのは、弾が発射されたっていうどっきりだよ」
チェン「え?」
キンポ―「この銃は本物だよ。弾も一発入ってるからね」
チェン「ん?…ロシアンルーレットがどっきりじゃないの?」
キンポ―「あ、ちがうちがう。さっきのは、一回目俺がやって出なくて、二回目お前がやって出なくて、三回目も出ないとなるとちょっと視聴者飽きるかなと思って、弾が出るっていうどっきりをやったの」
チェン「え?…待って…じゃあ…ほんとに弾が出たかもしれないってこと?」
キンポ―「そう考えると、よく俺どっきりなんて仕掛けたな。…じゃあ、はい」
キンポ―は銃を渡す。
チェン「いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って。じゃあ、このロシアンルーレットはほんとって事?」
キンポ―「そうだよ。…はい」
キンポ―は銃を渡す。
チェン「いや、もう無理だって。どっきりの、ウソだったテンションなっちゃったもん。今さらここから命懸けられないよ」
キンポ―「いや、ここで終わるのは意味わかんないだろ。俺2回やってんだぞ。お前一回だろ?」
チェン「でももう3分の1だろ?それはちょっともう、できないよ。これだけフォロワー数増えたんだからいいじゃん」
キンポ―「それはおかしいだろって。俺だけ2回やってんだぞ」
チェン「もういいだろ、それは」
キンポ―「…じゃあ名前変えてくれ」
チェン「????…名前?」
キンポ―「俺がチェンでお前をキンポ―にしてくれ。最初から気に入らなかったんだ。何で俺がジャッキーじゃなくてサモハンなんだってずっと思ってたから。だから名前変えてくれ。そうしてくれたら、ここで終わりでいいよ」
チェン「わかったよ。やればいいんだろ」
チェンは銃を取る。チェンはこめかみに当てた。
バン。チェンは倒れた。
キンポ―「…チェン。おい、チェン。チェー--ン!なんてね」
チェン「なんてね。びっくりした?びっくりした?」
チェンは画面に語りかけた。
チェン「どっきりだから。最初から全部どっきりだから。ロシアンルーレットを配信するなんてやるわけないじゃん。だって本物の銃を持ってる時点で犯罪だからね。騙されるんだからー。考えたらわかるじゃん。ねえ、キンポ―」
キンポ―「…」
チェン「キンポ―?」
キンポ―「とうとう最後の一回ずつだ」
チェン「ん?」
キンポ―「もっと早く決まると思ったんだけど」
チェン「キンポ―どうした?」
キンポ―「本当は、フォロワー数を増やす目的でロシアンルーレットをやろうと言ったわけではないんだ」
チェン「…じゃあ何?」
キンポ―「懺悔だよ」
チェン「懺悔?」
キンポ―「2週間前、玲ちゃんが自殺した。遺書があったわけじゃないから理由はわからないが、原因は恐らくお前の浮気だ」
チェン「…」
キンポ―「絶対お前のせいだけど、だけど、浮気相手をお前に紹介してしまったのは俺だ。俺が紹介しなければお前は浮気なんてしていない。だから俺にも責任はある。…ロシアンルーレットをやろうと思ったのは、神様に決めてもらおうと思ってな。死んで玲ちゃんに謝りに行く方を」
チェン「…まさか、その銃、もしかして」
キンポ―「ああ。玲ちゃんが自殺した銃だ」
チェン「…わかった。やろう。どっちからいく?」
キンポ―「このまま俺から行く」
チェン「いいのか?2分の1だぞ」
キンポ―「ああ」
最後の一回ずつ。キンポ―はこめかみに当てた。
銃声が鳴り響いた。キンポ―は倒れた。
チェン「…やっぱりおかしいよ。死ぬのはお前じゃねーだろ。絶対俺だろ。…神様、こんなのおかしいよ。なあキンポ―。…ウソだよな。…なんてねって言えよ、キンポ―!」
キンポ―「なんてね」
チェン「なんてね。びっくりした?どっきりだから。玲ちゃんビンビンに生きてるから。すぐ騙されるんだから。あ、フォロワー数増えたかな?今回は面白かったから、かなり増えたでしょ。あれ?」
パソコンの反応がない。
キンポ―「あ、そうそう。配信してないから」
チェン「え?配信してない?…え?いつから?」
キンポ―「最初から」
チェン「え?ちょっと待って。意味わからないんだけど」
キンポ―「お前は騙しているつもりだったかも知れないけど本当は違う。騙されたのはお前の方。どう?騙された気分は」
チェン「…何なのこれ?」
キンポ―「まあいいや。じゃあ続き」
キンポ―はチェンに銃を向けた。
キンポ―「次は、お前の番。始めから弾は最後に出るように仕組んだんだ」
チェン「…ちょっと何言ってんだよキンポ―。それ偽物だろ?」
キンポ―「教えてやる。ずっとお前を殺すためにやってきた」
チェン「またまた。ウソだろ?…俺を殺すって何だよ」
キンポ―に電話がくる。
キンポ―「もしもし。玲ちゃん。…うん。ごめん、まだなんだ。…うん。今からやるから。…やったらまた電話するね。…ばいばい」
電話を切る。
キンポ―「玲ちゃんはな、浮気されて、それはそれはひどく落ち込んでたよ。本当に自殺しちゃうんじゃないかってくらい。いっぱい泣いてたな。だから俺は玲ちゃんにハンカチを渡した。玲ちゃんの涙でぐっしょり濡れたハンカチを、俺はジプロックで保管した。それを毎晩嗅いだなー。そのにおいを嗅ぐ度に、お前への怒りがこみ上げてくる」
キンポ―はジプロックをあけてにおいを嗅ぐ。キンポ―は臭いを噛みしめた。
キンポ―「殺す!殺す!殺す!お前は玲ちゃんを裏切った。よくも俺の玲ちゃんを騙してくれたな。だから、お前も騙されて死んでいけ」
キンポ―は撃った。銃声とともにチェンは倒れた。
キンポ―は電話する。
キンポ―「あ、玲ちゃん。…うん、殺したよ。大変だったよ。でも俺、玲ちゃんのために頑張ったよ。だからさ…、…そのー…、俺は玲ちゃんの事、絶対裏切らないし、絶対幸せにするからさ、…俺とさ、そのー…、付き合っ、なんてね」
チェン「なんてね。びっくりした?配信してるから。だって今見てたでしょ?で、浮気してないしね。そもそも玲ちゃんなんて子いないしね」
キンポ―「チェン&キンポ―だしね」
キンポ―は自分をチェンだと言う。
チェン「それはチェン&キンポ―だから」
キンポ―「いいじゃん。それは変えてよ」
チェン「ダメ。あ、フォロワー数すげー増えてる。みなさん、チャンネル登録ありがとうございます。これからチェン&キンポ―、面白い動画配信していきますので、応援よろしくお願いします。本日はご視聴ありがとうございました」
チェンは放送を止める。
真っ暗な画面の中、銃声が鳴り響いた。
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