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ロボット機種変

『キャピキャピ型』

蓮人は電話をしている。

蓮人「もうすぐですか?わかりました。あ、その時新しいやつは?…はい、ではお待ちしてますので」

蓮人は携帯を切ると元気よくえみりがやってきた。

えみり「ねーねーねーねーねー、れんとー。今日何する、何する、何する?」

蓮人「え?別に何もしないよ」

えみり「えー」

えみりはツイストを踊りながら言う。

えみり「何かしようよ、何かしようよ」

ツイストは続行中。笑顔で元気よくツイストを続行中。

えみり「見て見て。ツイスト」

蓮人「…うん」

えみり「薄い!反応薄い。えみりがツイスト踊ってるんだよ」

蓮人「何?どうすりゃいいの?」

えみり「蓮人も一緒にツイストでしょ?いくよ」

えみりは蓮人の全く乗っていない気持ちを無視して、笑顔で元気よくツイストを踊った。一方、無理矢理踊らされている蓮人の顔は無である。そして、えみりは踊ってる最中に止まるのである。

蓮人は安堵のため息をついた。固まったえみりをソファーに座らせた。

それからしばらくしてインターフォンがなった。紅茶を飲んでいた蓮人は玄関に向かった。オーナーとお菊が入ってくる。

蓮人「お待ちしてました。どうぞ」

オーナー「お邪魔しますね」

スーツがビシッと決まっているオーナーは止まっているえみりを見た。

オーナー「あれ?故障ですか?」

蓮人「いや、ちょうど電池が切れたとこです」

オーナー「そうなんですか。じゃあちょうどよかったですね」

蓮人「ええ」

オーナーは書類を出して、話しを続けた。

オーナー「では、機種変ということでよろしいですか?」

蓮人「はい」

オーナー「で、こちらがTRJ2の清楚型です」

お菊「お菊と申します」

綺麗な和服を着たお菊が一礼をした。蓮人の目は輝きを取り戻した。

オーナー「どうです?」

蓮人「清楚でいいですね」

お菊「いえ、私なんて、とんでもございませぬ」

蓮人「その謙遜的な感じもいいです」

オーナー「今流行ってますからね、清楚型は」

お菊「あ、蓮人様。お肩におゴミが」

そう言って蓮人の肩についていた糸くずを取り、ズルっと食べた。

蓮人「ありがとう」

お菊「いえ、とんでもございませぬ」

オーナー「どうです?気に入ってもらえました?」

蓮人「はい。もうお菊ちゃんでお願いします」

オーナー「わかりました。ではそう手続きさせてもらいます。ちなみにですね、これアンケートみたいなもんなんですが、機種変の理由を教えてもらってもいいですか?あれはTRJ2のキャピキャピ型ですね?」

オーナーはえみりを指した。

蓮人「そうですね。最初は明るくていいなーと思ったんですけど、段々それがうざいというか、面倒くさいというか。まともに会話ができないんですよね。何かといってはツイスト踊るし。僕には合わないかなーと思いまして」

オーナー「そうですか。わかりました。では、こちらにサインをもらってよろしいですか?こちらにサインをしたら、TRJ2清楚型はあなたの物になります。そしてTRJ2キャピキャピ型は廃棄物になります」

蓮人「え?」

蓮人の顔が曇った。

オーナー「じゃあサインをお願いします」

蓮人「あのーちょっといいですか?」

オーナー「何か?」

蓮人「えみりはどうなっちゃうんですか?」

オーナー「どうとは?」

蓮人「持って帰った後ですね」

オーナー「ああ。スクラップします」

蓮人「…スクラップ。再利用とかされないんんですか?」

オーナー「中古は売れないんですよ。後、今はキャピキャピ型は流行ってないんでね。だからまあ、プレス機でガチャンと。さあ、サインして下さい」

お菊「蓮人様、これからよろしくお願いたもう申しあげまつりいたしましる」

蓮人「あ、はい」

別にただのアンドロイドだ。プレスされても痛いとかそんなのはないのだ。そう蓮人は思った。

オーナー「あ、そうだ、忘れてました。オールリセット押してもらってもいいですか?」

蓮人「オールリセット?」

オーナー「一応、廃棄する時にデーターを全て消去しないといけない決まりになってますんで。首のところにボタンがありますんで、それを押して下さい」

蓮人はえみりの首を見た。可愛い首だった。

オーナー「ありますでしょ?」

蓮人「あ、はい」

オーナー「それを押して下さい」

蓮人「あのー」

オーナー「はい?」

蓮人「これを押したら、えみりは全ての記憶を失くしてしまうんですか?」

オーナー「そうです」

蓮人「僕のことを忘れてしまう?」

オーナー「まあ、はい。でも失くすもなにもスクラップされるんで、一緒なんですけどね」

蓮人は何かスイッチが入ったようだった。

オーナー「あのー、どうされました?早く押して下さい」

お菊「蓮人様、ボタンをお押しになられたもうまつりあげましる」

蓮人「押せません」

オーナー「え?」

蓮人「えみりは確かにうるさいし、うざいし、バカさ全開です。ただ、この世から消滅させるのは何か違うと思う。だから押せません」

オーナー「あのー、蓮人さん。それでは困るんですよね。オールリセットをしてもらわないと、TRJ2清楚型は渡せないんですけど」

蓮人「だったら結構です。僕はこのまま、えみりと一緒にいます」

オーナー「あなたおかしな事言いますね。あなたから変えてくれって言ったんですよ?」

蓮人「はい。でも、これは違います。いくらアンドロイドだからといって、こんな簡単に排除するなんて、僕にはできません。それに、今ようやくわかりました。えみりの大切さを」

そう言って蓮人はえみりの背中にある電池パックを変えようとした。

蓮人「えみりを戻す」

オーナー「待ちなさい。それをやったら契約は成立しませんよ」

蓮人「構いません。さあ、えみり」

しかし、えみりは動かない。

蓮人「あれ?えみり?何で?電池も変えたよ。えみり?どうしてだよ、えみり。何で動かないんだよ。…ごめん。僕が間違ってた。僕にはえみりが必要だ。だから動いてくれ。キャピキャピ型だろ?動かないなんてありえないだろ?」

蓮人は後悔した。涙が溢れた。

えみりは目を開けた。にっこり笑った。

えみり「蓮人。そんなにも思ってくれてありがと。えみり、かなり嬉しい」

えみりは笑顔で元気よくツイストを踊った。

蓮人も笑顔で元気よくツイストを踊った。

蓮人「あのー申し訳ないですけど、今回は機種変なしということで。お菊ちゃんもごめんなさい。そういうことなんで、僕はやっぱり、えみりじゃなきゃダメだという事を…」

蓮人は止まった。

オーナーは蓮人にリモコンを向けていた。

えみり「ちょっと何で止めるの?今えみり、褒められるとこだったのに」

オーナー「ダメだ、失敗作だ」

お菊「そうですか?意外と情に厚いアンドロイドだと思われましたけど」

オーナー「いや、人間の心を持ち過ぎだ。これでは、いつか嫉妬や妬みも持ち出す。そして人間に害をもたらすだろう」

お菊「人間様には危害は加えないと思われますけど」

オーナー「いや、私が埋め込んだ、機種変をするというプログラムに反発した。いつか制御が効かなくなる。そうなる前に排除だ」

えみり「あーあ、蓮人残念」

雨が降っているのに傘を持っていないくらいの感じで言うえみり。そんな楽観的なえみりを見てオーナーが呟いた。

オーナー「お前くらいがちょうどいい。よし、行くぞ」

えみり「はーい。蓮人バイバイ」

蓮人は嬉しそうな顔で止まっている。

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