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地獄の中でも良い鬼

『地獄の中でも良い鬼』

私は地獄の鬼です。
地獄の鬼というと、人間の罪人を拷問したり、苦しめたりする悪い存在だと思われがちですが、私は違います。
私は地獄の中でも良い鬼です。
私は人間の罪人に優しく接したり、励ましたり、慰めたりすることが好きです。私は人間の罪人に救いの手を差し伸べたいと思っています。

私はなぜこんなにも人間の罪人に寄り添おうとするのか、自分でもよく分かりません。
私は生まれながらにして地獄の鬼でした。
私は地獄の王である閻魔大王の息子です。
私は父の跡を継いで、地獄の支配者になるべき運命でした。
私は父や他の鬼たちから、人間の罪人を厳しく裁くことや、地獄の秩序を守ることを教えられました。
私はそれに従うべきだと思いました。

しかし、ある時、私は一人の罪人に興味を持ち始めました。
5人を殺した男です。
その男には妻がいました。
妻は銀行の受付をしていました。
そこに入ってきた5人の強盗。
5人の強盗は見せしめにいきなり一人殺しました。
それが男の妻だったのです。
強盗の計画は完璧で、素早くお金を取り逃亡しました。
容疑者としてその5人の名前は上がりましたが、証拠はなく、警察にはつかまりませんでした。
その5人を男は殺したのです。
そして自殺して地獄にきました。
私はその男に興味を持ったのです。

私は父や他の鬼たちには内緒で、人間の罪人に優しく接するようになりました。火あぶりの刑の後で。
私は人間の罪人に水や食べ物を与えたり、傷を手当てしたりしました。皮剥ぎの刑の後で。
私は人間の罪人に笑顔を見せたり、励ましの言葉をかけたり、抱きしめたりしました。鉄の針の串刺しの刑の後で。
私は人間の罪人に幸せになってほしいと思ったからです。

だから、地獄から脱出する方法も教えたりしました。

しかし、私は父や他の鬼たちには裏切り者と呼ばれました。
逆に火あぶりや皮剥ぎや鉄の針の串刺しの刑をやられました。
そして思ったのです。
こんなにも痛いのかと。
私はこんなことをあの男にやっていたのかと。

だから、地獄からの脱出を私もあの男と共にしたのです。

私と男は、地獄の鬼から逃げる生活が始まりました。

男のやったことは確実に地獄行きです。
そして私は地獄に住む鬼です。
そんな二人が地獄から出ていいのでしょうか?

しかし私は思ったのです。
鬼に追われることは、地獄のようなものだ。

そう私は男に言った。
我々二人は笑った。


一人舞台「十人百色」
出演 浦上力士
作・演出 赤岡典明
02/16 23:59までアーカイブが残ります。

https://apofes.stores.jp/items/65420db67f5ecd01f30c1bb1

「十人百色」冒頭7分間です。


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