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面接官が遅刻した物語
『100敗目の信念』
就活真っ最中。
今日も面接だ。よし、今度こそ受かるぞ。
そう思いながら、タケルはネクタイを締めた。
タケルの面接の成績は0勝99敗。
記念すべき100敗まであと1敗。
傍から見たらそれを期待するが、それだけは避けたい。
その気合いはいつもより強く、ネクタイを締めすぎて倒れそうになった。
イヤな予感しかしない。
そしてタケルは面接に向かった。
15分くらい少し早く来すぎてしまった。
どうしようか入口で悩んでいると、そこの会社の人に見つかってしまった。
タケルは面接に来たことと、早く来すぎてしまったことを伝えた。
しかしその人は、快く控室に通してくれた。
お待ちくださいと言われた。
タケルは緊張しながら、100敗目は避けようとどんな質問にも返せるように答えをブツブツ言いながら練習した。
タケルはハッとして時計を見た。
没頭して今何時かわからなくなったのだ。
時計を見ると面接時間ちょうどだった。
タケルは気合いを入れなおした。
さあ、来いと心の中で叫び、ドアが開くのを待った。
…。
さあ、来い。
…。
15分が過ぎた。
タケルは時間を間違えたのか確認した。
確かに時間は合っている。
じゃあなぜ来ない?
連絡した方がいいかな?
何て言うの?
「今、何時だと思ってんだ!」絶対落ちるでしょ。
30分が過ぎた。
何これ?
試されてるのかな?
もう面接始まってる?
タケルは色んなことを思った。
その時だった。
面接官が普通に入って来た。
そして普通に始めた。
タケルはどぎまぎしてしまって、あんなに練習した答えがうまく言えなかった。
そして何の手応えもなく面接は終わった。
何だったんだろう。
数日後、案の定、タケルは面接に落ちた。
タケルはなんか段々腹が立ってきた。
こんな消化不良で記念の100敗目を喫してしまった。
それもこれも遅れてきた面接官がおかしい。
文句言ってやろうと思った。
遅れくるのはいいが、遅れる連絡くらいは入れるべきではないかと。
あなたは逆の立場でも連絡しないのですか?いや、絶対するでしょ?人を見て行動を変えるのは僕は大嫌いですと。
しかし、タケルはすぐ辞めた。
なぜなら落ちて文句言うのはカッコ悪いからだ。
その辺のプライドはタケルにはあった。
冷静に考えて言うべき時はあった。
●時間より10分過ぎた辺りで、連絡するかここまで通してくれた人に聞いてみるか。
●面接官が入ってきた時に言うか。
●面接が終わって言うか。
●面接に受かって言うか。
面接に落ちて言うのは一番ない。だったら言わない方がいい。
こうしてタケルの100敗は決まった。
しかし、学びはあった。
今度は言うべきタイミングで言おう。
それより大きな学びは、自分は意外と信念持っているんだなとわかったことだった。
100敗はしたけど、自分の正義というかそうものはあったことは、タケルにとって喜びであり、記念すべき100敗目になった。
試合には負けたけど勝負には勝った、いや、勝負には負けたけど試合には勝った、いや、別にどっちでもいい。
とにかくタケルは自分自身を前向きに捉えられた。それで十分だった。
そうなると自ずとチャンスというのはやってくるのだ。
もう一度、面接したいという連絡が来たのだ。
なぜかわからないが、100敗を免れるかもしれない。
タケルは今度こそと再び乗り込んだ。
慣れた手付きで、先導される前にあの控室に向かった。
そして答えをブツブツ言って待った。
…。
…。
面接予定時間の15分が過ぎた。
前と一緒だ。
ここは言わないといけない。タケルは思った。
そして20分過ぎた時だった。
ドアが開いて、この前の面接官が入ってきた。
タケルは言った。
「あのー、ちょっと遅くないですか?」
「あ、すいません」
「すいませんじゃなくて、遅れるなら連絡入れた方がいいですよ」
「あ、すいませんでした」
凄い空気になった。
タケルはその後の記憶はない。
なんで再び呼んだのか?
自分はどう答えたのか?
全く覚えていない。
ただ、落ちたことは確かだった。
信念ってなんだろう?
タケルは自分が悪かったのか、面接官が悪かったのか、わからなくなった。
正直者は馬鹿を見る。
そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
調子が良い者の方が成功する。
そんな言葉が耳に響いた。
信念って意味あるのだろうか?
タケルの記念すべき100敗目は更なる混乱で終わった。
APOCシアターにて来年2024年1月21日14時30分~、2月3日17時30分~にひとり芝居をやります。
僕は脚本・演出で、浦上力士君が演じます。
40~50分くらいのオムニバス一人芝居です。
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