五郎劇ハガキ

まえに書いたもの その2 『出会いの順番』

以前、三か月に一度のペースで連載していた読売新聞大阪版コラム
『女のミカタ』 2016.6.27 掲載のものをば。
※ゲラで直した部分など、実際の紙面とは少し異なる場合があります。

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うちの先生・落語作家の小佐田定雄は、けっこう前から定期的に鍼に通っている。仕事柄パソコンの前にいることが多く、肩こりが激しいのだ。

鍼の先生は昔からの知り合いで、「鍼医」と「ブルースシンガー」という、まったく異なる二つの顔を持つ男。なぜか落語会のお手伝いや主催もしておられ、私もよく存じ上げている。

ある落語会の打ち上げの席で、その先生に
「わたしも肩や背中がこるんですよー。肩甲骨をパカッと開いて、筋肉を直接グリングリンとほぐしたいぐらい」
と話すと
「ほないっぺんうちおいでぇな。治療したげるやん」。

あ、ほたらお願いします、と言いかけて「まてよ?」となった。

これ、いざ治療となったらわたし、この人の前でペロンと上着脱いじゃうのか? 肌身をさらしちゃうのか? 

はじめっから「鍼の先生と患者」という関係ならなんとも思わないけど、「鍼の先生」の前に「知り合いのおっちゃん」やからなぁ…ちょっと恥ずかしいよなぁ。というわけで、丁重にお断りさせていただいた。

出会いには順番がある。「鍼の担当の先生が落語会を見に来た」のと「落語会で知り合った人に鍼を打ってもらう」のとは、似ているようでもやっぱり違う。

「これってわたしが気にしすぎなのかな」「自意識過剰なのかな」と考えてみたけれど、そうではなくって、お互い、どの立場ではじめに出会うかによって、その後のお付き合いもずいぶん変わってきてしまうのだろう。

もしかしたら、今ちょっと「苦手だなー」と思っている人も、出会いの順番が違ってたら仲良くなれたのかも、と思うと、肩の力が抜けてふーっと、気が楽になったのだった。


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