パイルとユリア
「いたぞ!あの2人を追うんだ!」
その日、小さな街が敵国の襲撃に遭った。
この街で出会い、愛し合ったパイルとユリアの2人は、互いの手を強く握りしめ、息を切らしながら走った。
「ユリア!ここからは一人で逃げてくれ!僕がなんとかここで足止めする!」
森までやってきたパイルは、腰に据えた短剣を取り出すと、ユリアにそう告げる。
敵兵の数はあまりにも多い。このままではいずれ見つかり、捕まって殺されてしまう。
「ダメよパイル!あなたが逃げないなら私も逃げない!」
パイルを絶対に離さないと言った様子で、両手で彼の手を握りしめるユリア。
「ユリア……心配はいらない。僕は必ず、君の元に戻ってくると約束する」
「そんな守れない約束なんてしないで!お願いだから、一緒に遠くへ逃げましょうよ!」
「分かってくれ。キミだけでも絶対に守りたいんだ。一緒にいるとキミを守れるか分からない。それだけは避けたいんだ」
「あなたのいない人生を送るくらいなら、私もここで死ぬわ!お願いだから、私を離さないで!」
膝をついて子供のように喚くユリア。
そこへ、一本の矢が2人に向かって飛んでくるのをパイルは察し、両手を広げた。
そしてパイルの胸元に、矢が深々と突き刺さった。
「パイルッ!」
「早く、早く逃げるんだ!」
更に、二本目の矢がパイルの首を貫く。
「絶対にキミを助ける。そして生きて帰る!だから信じてくれ!」
そして、数十本もの矢がパイルの全身に突き刺さる。
「そして、ここを乗り切ったら、結婚して温かい家庭を……」
「ねえ、ちょっと待って?」
我慢できずにユリアも立ち上がる。
「どうしたんだいユリア?」
「いやいや、死亡フラグ立てまくってるけど、あなた今の自分の状況分かってる?ハリネズミみたいになってるわよ?」
全身に矢が突き刺さってもなお、涼しい顔で話し続けるパイルに、流石のユリアも突っ込まずにはいられなかった。
「……あっ、いつの間に!?」
「いや気付きなさいよ。そもそも一本目の矢が心臓貫いてるんだから、普通死ぬわよね?なんで生きてるのよ?」
「……あ、愛の力さ」
「そんな強い力の愛があるわけないでしょ。あなた、何者なの?」
ユリアがそう尋ねると、パイルは「実は今まで黙っていたが……」と意を決したように切り出す。
「僕はこの世界の人間じゃない。機械都市『ソラネット』から突如としてこの世界に召喚された不死身のサイボーグなんだ」
「サイ……ボーグですって?あなたが?」
あまりに衝撃的な告白に、ユリアは目を見開く。
「そうだ。だから、こんな矢くらい何本刺さったところで何ともない」
体中に突き刺さった矢をスポンスポンと引っこ抜いていくパイル。
信じられない話だが、パイルの様子を見るとそう考えざるを得ない。
「そんな……そんなことって……」
「おらぁあっ!!」
ユリアが驚愕のあまり遠い目をしていると、草むらから敵兵が飛び出し、ユリアを槍で貫いた。
「へへっ……やってやったぜぇ」
「しまった!ユリアッ!!」
「大丈夫よ」
「へ?……うぉ……うわぁああっ!!」
ユリアは敵兵の握る槍を掴み上げ、いとも簡単に体から引き抜く。
「私も『ソラネット』から召喚された不死身のサイボーグだもの」
「お前もだったのか……!」
槍ごと遠くに放り投げ、ユリアは気まずそうにパイルを見上げ、
「隠しててごめんなさい。私はソラネット製の防衛型サイボーグ。いざとなればバリアくらい簡単に張れるから、一緒にいてほしかったの」
「そうだったのか……僕は攻撃型だからキミには遠くに逃げてもらって、敵兵を木っ端微塵にしようと思っていたんだ」
「じゃ、じゃあ……別に私たち、逃げる必要なかったのね?」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「な、なんだあの2人!?矢が何本も突き刺さっているのに、微動だにしないぞ!?」
「ば、化け物か!?もっと矢を放て!」
ぐさぐさと2人はハリネズミのように矢が突き刺さるが、2人は不死身のサイボーグ。恐れるものは何もない。
「……反撃開始だ」
「OK!一網打尽にしてやるわ」
パイルはそう言うと短剣を捨て、右手を火炎放射器、右手をマシンガンに変形させ、迫り来る敵兵を一方的に打ち払う。
「襲った街が悪かったわね、敵兵さん」
ユリアは四つん這いになり、背中から銀色の翼を生やして飛び上がり、顔をロケットランチャーに変形させる。
「な、なんだよそれ!?ずるい!勝てるわけな……ふぎゃぁああああっ!!」
こうして、ユリアとパイルの活躍により街は救われ、ついでに敵国を降伏させ国には平和が訪れた。
パイルとユリアは、お互いがサイボーグだと判明しつつもその愛は変わらず、いつまでもいつまでも、具体的には数百年くらい幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
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