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おすそわけ日記 161「芳年を見る〜川崎浮世絵ギャラリー編」

「芳年の浮世絵『月百姿 玉兎 孫悟空』を見たい!」

太田記念美術館の月岡芳年展で絵葉書をみつけ、

見られなかったことを、じたんだ踏んで悔しがっていた私ー

なんと、川崎浮世絵ミュージアム『月岡芳年 月百姿』展のチラシを見つけてしまったのである。

チラシミュージアムという、たまにチラ見するアプリで。


今、まさに後期展示を開催中。

またも前期に間に合わなかったかとがっくりしたものの、

『月百姿』の作品百点が五十点ずつ展示されるとのこと。

それも、私が見たいと叫んでいる『月百姿 玉兎 孫悟空』は後期に含まれている。

奇跡!僥倖!神の恵み!

折角だから十五夜の芋名月にかけて、まさに今日、母を誘って川崎へ。


『月百姿』は、謡曲や歌舞伎、昔話など、色々な題材と月を絡めた浮世絵のシリーズ。

前回の日記で取り上げた『風俗三十二相』とはまた趣が異なり、

こちらは「あ、あのシーンね」と見ている人が人物と物語を頭に浮かべられる。

と言っても、私には、これ知らないなーと思う物が結構あり、これまたお恥ずかしい限り。


知らない話でも、描かれた人物の心中がひしひしと伝わって来る。

様々な物語に題を取っているので、武張った話もあれば、色恋ものもある。

月が描かれていても(暗示だけで月が描かれていない作品もある)

一枚一枚、雰囲気はまるで異なる。

躍動感が溢れていたり、静謐そのものであったり。

全ての作品で、描かれたものの想いと場面の空気感が、面差し、佇まいから漂ってくる。

五十編の物語を読んでいるような見応えだった。


私が特に心惹かれたのは、以下の三作。


『月百姿 南海月』

荒磯に座す観音菩薩のお姿。

観音様のすっとしたお顔立ちが美しく、

月よりも輝かしく見えるように刷られたと云う光輪、白い衣の浮き出し方にうっとり。

ありがたいなぁと見入ってしまった。


『月百姿 月のものぐるひ 文ひろげ』

夫が亡くなり物狂いになった女が、

橋の上に立ち、手にした文を口にする、切ない情景。

描かれた女の横顔の滑らかな美しさが、より悲しみを増す。

高く低く文を読む声が聞こえてきそうな一枚。


『月百姿 名月や来て見よがしのひたい際 深見自休』

ド派手な花柄の黒の羽織り、足袋は紫で立つ後ろ姿が、わかりやすくかっこいい。

昔の私だったら、傾(かぶ)きすぎでしょーと言ったと思うのだけれど、

前回書いたように、今の私は「様式美も美しい」と思う自分にOKを出したので。

いいですね、振り切ってて。


さらに、この羽織り、一見すると地色は黒だが、

見る角度を変えると、市松模様に艶が出ているのがわかる。

正面刷りと云う技法だそうな。

私が絵を見ている時に、そばにいらした学芸員さんが親切に教えてくださった。

ありがとうございます。

摺りに惚れるなぁ。


肝心の『月百姿 玉兎 孫悟空』も良かったものの、

思わぬ伏兵が素晴らし過ぎた。

いや、全て素晴らしくて、正直、甲乙つけがたい。


前期の展示も見たかったなぁとまたも溜息をもらしつつ、

芳年の作品を、今日も堪能出来て、満足。


帰りの電車の中、窓越しに見上げる十五夜も絵のようで、

これからもずっと、美しいものを見ていたいと願う。


*こちらは「芳年を見る」の後編です。よろしければ、前編も合わせてご覧頂けましたら、嬉しいです。

【今日の一枚】川崎浮世絵ギャラリーで購入した、月岡芳年『月百姿 玉兎 孫悟空』の絵葉書。月と西遊記好きな私には堪りません。こちらのギャラリーは初めてお邪魔したのですが、作品の解説文がわかりやすく、受付の方も学芸員さんも皆さん親切で、私の質問にも答えてくださいました。どうもありがとうございます。

【#つづく日々に】のタグをつけて、日常で心ときめいたことを投稿する企画をはじめました。日常のよろこびをみんなでシェアしあって、笑顔が増えたら嬉しいです。

今日もおつきあい頂いて、ありがとうございます。

毎日、書く歓びを感じていたい、書き続ける自分を信じていたいと願っています。