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水族館その1:南海道いい田舎編。

水族館の魅力について、お話しします。


名古屋港水族館(愛知県名古屋市)
横浜・八景島シーパラダイス(神奈川県横浜市) 

わたし、水族館が好き・・・。
動物園よりも、水族館が好きなの・・・。
 
その理由の第一に、やはり分類学の理論を実践できる場であるということ。
人間は脊椎動物のことが大好きなので、現代の動物園はそういう場所となっていると思う。
もちろん水族館においても、数多くの魚類をはじめとした怒涛の展示数、水棲の両生類・爬虫類はユニークな形態で興味深く、ペンギンなど鳥類やイルカといった人気者の哺乳類など海獣の展示は大迫力で、これはこれでとても良い。

青森県営浅虫水族館にて(青森県青森市) マボヤ (Halocynthia roretzi)
上越市市立水族博物館うみがたりにて(新潟県上越市)サンゴノフトヒモ (Neomenia yamamotoi)

しかし、脊椎動物は地球上の生命史の、ほんの一欠片でしかない。
少し視点を変えてみると、同じ脊索動物の血を分かつホヤなどの尾索動物、遠くには刺胞動物や軟体動物、そして地球上最大の繁栄を誇る甲殻類など無脊椎動物の展示は、人類が歴史を育むはるか以前から続く進化の歴史を眼前に見せてくれる。
そんな地球のスケール感を再度実感できるのが、水族館なのです。
 
第二の理由として、その土地ならではの生態系や地元文化についての展示があり、まさに非日常の場所にいるのだと実感できること。
さて水族館には、①地域の観光名所としてそこそこ前に建てられたランドマーク型、②最近の流行りとして街ビル内などに建設される都市型、③大学付属あるいはそれに類する機関の派出所的役割を持つ研究型、に三分できると、私は勝手に思っています。
そうしたタイプの枠に限らず、どんな水族館も、こうした展示はある。
何を目的としてその旅の中で水族館を訪れるのかは様々だが、いつでも水族館への期待感・ワクワク感は、ここに源があるのではないでしょうか。

サケのふるさと千歳水族館(北海道千歳市)

その他、ラテン語(生物の学名はラテン語、正確には少し違いますが)を日常的に見ることができる数少ない場所、というのも加点要素です。
教会のミサですら畢竟ラテン語なんて耳にしないですからね、こんにちでは。
 
そんなステキな旅の想い出、水族館。
今回は田舎の旅の想い出を語りながら、その彩として、僭越ながらいくつか紹介してみましょう・・・。


むろと廃校水族館(高知県室戸市)

〇展示内容:☆☆☆☆☆
〇入館料:☆☆☆☆
〇アクセス:☆☆
〇周辺施設:☆☆☆
〇眺望:☆☆☆☆☆
〇学名表記:あり(半々くらい)

おはようございます。
土佐くろしお鉄道の終点駅からここは、朝の高知県安芸郡奈半利町。
そしてこちらは、旧魚梁瀬森林鉄道の軌道跡を散歩していて出会った、蠢惑的な雰囲気を醸し出している法恩寺跨線橋。
穏やかな朝の日差しに似合う美しき石造構造物、いいですね・・・。
さて、ここからはバスに乗り国道55号を北上、徳島県海部郡海陽町を目指します。

砂岩泥岩互層

バスで室戸市に入り、室戸岬周辺を散策。
さすがはジオパークというべきか、室戸岬は歩いていて見どころが多すぎる地質学スポット。
壮大な火山質海岸段丘、数々の奇岩、そして太平洋のまぎれもないオーシャンビュー。
なんとこの日は蜃気楼まで見えちゃうというラッキーデーで、今日の気分はうきうきなのだ!

国道55号沿いを北上

ほんとにステキな散歩道ですね・・・。
海辺の国道沿いを歩いているだけで楽しい。気分がよく乗る。
でも怒らないで下さいね 
観光地無しの観光で8kmも歩くってバカみたいじゃないですか
というわけで、そろそろ目的地の水族館へ向かいます・・・。
 

な…なんだあっ
廃校が水族館に!?なんというプレッシャーとワクワク感・・・!
これぞ非日常の醍醐味ですねぇ!
というわけで入場。

う ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ
さ、魚と亀が25mプールを練り泳いでいる
私、水族館好きを自称する者としていろいろな水族館でいろいろな展示方法を見てきたつもりですが、さすがにこれは初めての形式です。
生物との距離が近い!あまりにも斬新すぎて目が離せない!!
生のこの・・・水しぶき感覚・・・いいじゃないですか

ここは誰がどう見てもあからさまな理科室。そう、理科室。
理科室の机にいい具合に水槽が配置されており、なんだか不思議な雰囲気。
これでも面白いのですが・・・なんとさらに、シンクがすごいことになっていた。
水が張ってある。するとそこに生き物がいる。
ほんとに???となるような、常識が破壊されていくパラダイムシフト。

同じく手洗い場もこんな具合である。まさかのタッチプール化。
ウーン衝撃的だァ・・・。
いつもなら分類学の知識をごちゃごちゃ考えている私ですが、ここではなんだか子どもに戻った気分。
まさに学校にいるような、幼き日の、あのワクワク感が蘇ってきますね・・・。

海の駅東洋町付近
阿佐海岸鉄道DMV

その他にも見どころ満載なこちらの水族館と、室戸岬周辺。
語り尽くせない細かな工夫もたくさんあるため、ぜひ一度ご来場をお勧めです。
決して大きな施設ではないのですが、大は小を兼ねない満足感があると、再度認識できる、良い機会でした。


すさみ町立エビとカニの水族館(和歌山県西牟婁郡すさみ町)

〇展示内容:☆☆☆☆
〇入館料:☆☆☆☆
〇アクセス:☆☆☆
〇周辺施設:☆☆☆☆
〇眺望:☆☆☆☆
〇学名表記:あり

続いては、もう少し学問的な視点から水族館を味わってみましょう。
分類学のうち、節足動物について、賢い気持ちを目指します。
和歌山県の南のほう、紀勢本線江住駅から道の駅へ徒歩圏内。
その敷地内にある例のアレこと、エビとカニの水族館です。

俺はジェンダーレスだぜ 魚もイカもカニも平等に鑑賞してやるのよ
◇この男の目的は…!?

さて。こちらはより小規模な水族館です。
聞いたところによると、元々は体育館だった施設を改装した施設であるとのことで、なんとなくではありますがその雰囲気は伝わってきます。
狭めの通路と館内には、所狭しと様々な水槽が並んでいます。
もちろん展示内容はエビとカニが中心。
小さい館内に工夫が凝らしてあって・・・なんかいいなァ・・・。

さあそれでは、ここで最近学んだ分類学の知識を確かみてみましょう。
そもそも分類学とは何か?
簡単にいうと、生物を何らかの共通的な特徴によってまとめ系統立てることを目的とした学問。
生物の進化史と地球のあり方、ひいてはヒトとは何かを考えるきっかけとなるので、私は好きです。
 
そんな中、エビやカニとは(狭義)、節足動物門汎甲殻亜門マルチクラスタケア上綱軟甲綱真軟甲亜綱ホンエビ上目十脚目に属する生物たちのことで、その名の通り、歩脚が5対10本あるような外見をしていることが特徴です。
エビ様の生物の体節は頭部6節、胸部8節、腹部6節+尾扇1節となっているため、胸部付属肢の後部5対が歩脚となる一方、前部3対は顎脚として頭部体節の付属肢と同様に振舞います。
まずは・・・部位名と数を覚えたいところさんですね!

具体的に観察してみましょう。
写真のアフリカミナミイセエビ(Jasus lalandii)はイセエビのなかま、確かに歩脚は10本、体節も腹部6節+尾扇1節が明瞭に判別できますね。
ただし、頭部の体節は順に上唇、第1触角、第2触角、大顎、第1小顎、第2小顎となるはずですが、前述の顎脚とあわせて、何とも判別しづらい見た目となっていますね…。
とはいえ、イセエビは第2触角が異常に太く大きくなりますので、そちらはよくよく観察できます。
しばし混同されがちですが、ロブスターの仲間は触角が太くならず、第1歩脚が巨大な鋏脚となるので、イセエビとロブスターは別物です。

*学名は正しくはイタリックで表記します。noteではイタリック体にできないのでそのままにしてますが、ご注意ください。

またイセエビたち。再度付属肢をチェック。
このように机上で学んだ知識をフィールドで実践できるという行為にこそ、学問の、そして旅行の醍醐味であると実感します。
これって・・・勲章ですよ・・・

ヤシガニ (Birgus latro )世界最大の陸生甲殻類かつ無脊椎動物

また、学名や標準和名のみならず、ここ紀伊半島でのみ使用されるような流通名の紹介があり、なんとも旅情は高まります。
カブトガニ(鋏角類なのでクモやサソリに近縁)や一般の魚たちの展示、そして充実のふれあいスペースもあり、施設は小さいながらも工夫とバラエティーに富んだ内容に、大満足。
また来たいと思わせる、和歌山の穴場スポットでした。


おわりに

水族館から歩いてしばらくにある江須崎

以上、田舎旅をステキな経験へと昇華させる、地味ながら味のある水族館を紹介してみました。
水族館は観光スポットとして市民権を得てから久しく、家族や気の置けない仲間たちとともに、徒然と訪れるのも楽しいのかもしれない・・・。
しかしこうして、独りでふらりやって来た田舎旅の、自然、文化、食、学のすべてを感じられる、静かにしてワクワクな場所でもあるのだと、私はひっそりと主張したいのです。
 
タフって言葉は田舎水族館のためにある!
・・・また近々、行きましょうか。

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