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「雨の魔法使い」 第2話 雷

人物表

霧島紬(15)魔女見習い
アイラ=ミニーミニー(9)魔女
ジンジャー=ドグラマグラ(37)魔女
オリーブ=ワンダーローズ(32)雑貨屋店員
料理人

本文

○アニーニャ地方・ロカポポ村
土壁の民家が並ぶ小さな村を、ドラゴンが模られたマントを羽織った魔法使いと、梟が模られたマントを羽織った魔法使い達が調査をしている。
紬「(M)白い魔法使いを撃退した後、HWWからFangs (討伐隊)とSpell writer(呪文隊)が調査のため派遣された。あの白い魔法使いは第一級魔法犯罪者で、HWWが二年に渡って追い続けている禁魔法家だったらしい」
村の中央に白骨遺体が並んでいる。
紬「(M)その禁魔法家の固有魔法を喰らってしまったせいで、アイラちゃんは……」

○HWW・Raincoat執務室(朝)
ぬいぐるみで散らかった室内、部屋奥の机で霧島紬(15)が書類に目を通している。室内の壁際には大量のぬいぐるみが山を成しており、その頂上でアイラ=ミニーミニー(9)が寝転がってボーッと天井を見ている。紬はアイラを心配そうな眼差しで見つめる。
紬「(M)9歳の姿になってしまった」

○(回想)HWW・Spell writer執務室(夜)
壁一面が本棚で埋め尽くされ、室内のあらゆる箇所に、大量に積み上がった本が柱を形成している。部屋の奥で、眼鏡をかけたジンジャー=ドグラマグラ(37)がダルそうに椅子に座っている。ジンジャーの前には、机を挟んで紬と、9歳の姿のアイラが座っている。ジンジャーは銀髪の長髪で、目の下に大きな隈があり、左手に煙草を持っている。机の上には大量の本と大量の洋菓子、灰皿が置いてある。
ジンジャー「アイラに残った魔力の残り香からして、相手方のティナは年齢を操作する魔法だろうね」
紬「年齢を、ですか……?」
ジンジャー「そ、ティナを使って生物の年月を奪い取る。それを他者に放つこともできる。そんなとこだろうな。杖かなんかに奪った年齢をストックしてるんだろうよ」
アイラ「あぁ……、人生を貰うとか言ってたっけなぁ……」
紬「だから村の人達を一瞬で白骨化させることができた、ってことですか?」
ジンジャー「恐らくね。奪った年月を過剰に与えることで、老いを通り越して死んでしまったんだろうな。恐ろしい魔法だぜ」
ジンジャーが煙草を吸い、大きく煙を吐き出す。
ジンジャー「……つまりアイラ、お前はその見た目通り、子供になっちまったって訳だ。ドレスコーズを使っても戻らなかったんだから呪いの類じゃないしな」
ジンジャーは憐れむように笑う。
アイラ「マジかよ……」
ジンジャー「んな悪いことじゃないだろ。アーノルドのジジイですら生物を若返らせることは不可能なんだぜ? 子供に戻れるなんて羨ましいもんだがな」
アイラ「子供に戻ったとしてもこの会社はいつも通り私に仕事を振るからヤなんだ」
ジンジャー「ハッハッハ! そうだろうな!子供の体じゃしんどいだろうに、明日から通常通りの業務だ! 頑張れよアイラ!」(回想終わり)

○(元の)HWW・Raincoat執務室(朝)
アイラはぬいぐるみの山の上で寝転がったまま、雑誌の同じページをボーっと眺めている。
紬「(M)それからアイラちゃんはずっとこんな調子。いつも以上に気力が無くなって……」
アイラがゆっくりと体を起こす。
アイラ「……つむぎ」
紬「ん? どうしました?」
アイラは紬に嬉しそうに雑誌を見せる。
アイラ「ファーリーマリーズで10歳以下限定のぬいぐるみが売ってるって! 買いに行くぞっ!」
紬は呆れと安心が混じった表情で笑う。

○魔具雑貨ファーリーマリーズ・店内
食器や文房具、置物、ぬいぐるみが数多く並ぶ店内、カウンターにエプロン姿で緑髪のオリーブ=ワンダーローズ(32)が立っている。カウンターを挟んで紬と、大きなカエルのぬいぐるみを抱き抱えるアイラが立っている。
アイラ「これ買いに来たぞ! 私は子供だからな! ショーシンショーメイ!」
オリーブ「ふふ、それなら3000マジカだね」
オリーブがアイラに笑いかける。
アイラ「ほら!」
アイラはポケットからクシャクシャの紙幣を三枚カウンターに置く。
オリーブ「はい、ありがとうね。……ここに来たのは初めて?」
アイラ「ん? 何回も来てるぞ?」
オリーブ「あれ、……そうだった?」
アイラ「じゃ! また来るぞー」
アイラはぬいぐるみを抱えたまま店を出ていく。
オリーブ「フフ、可愛い妹さんですねぇ」
紬、驚いた表情。
紬「え! あ、あぁ、そうですね。ハハ…」

○ガタガタ坂商店街
坂道に数多くの店が並ぶ商店街、紬とアイラが隣り合って坂を下っていく。アイラは嬉しそうにぬいぐるみを抱えている。
アイラ「ふふふ、お前も今日から私の友達だ! なぁ紬、子供に戻るのも悪くないな!」
紬「なんか、良くないことした気分です……」
アイラ「気にすんなよ。今の私は本当に子供なんだぞ?」
紬「あの店員さん、私達のことを姉妹だと思ってましたよ」
アイラ「え! じゃあ紬の分も買えたじゃんか!」
紬「……違いますよ。私がアイラちゃんの姉だと思われたんです」
アイラ「んー……、それはちょっとフクザツな気持ちだ」
紬とアイラの向かいから、カゴを背負った料理人が焦った様子で走ってくる。
料理人「逃げろ! アイスグリズリーが出たぞ!」
料理人が大声で叫ぶ。それを聞いた商店街の人々は慌てふためき逃げ惑う。
アイラ「アイスグリズリーって何だっけ?」
紬「第二級危険指定魔獣です。普通冬以外は巣穴から出てこないはずなんですが……」
料理人「何してるんだっ! アンタらも早くっ……!」
坂の下から、魔獣の唸り声が聞こえる。アイラと紬が咄嗟に唸り声の方向を見ると、体長4m程で肩や足先などから鋭い氷柱が生えた白熊の魔獣が、四つ足で坂を駆け上がっている。
料理人「あぁ、うわああっ!」
料理人は叫び声を上げながら、坂を駆け上がり逃げていく。紬は杖を構える。
アイラ「仕方ないなぁ……」
アイラは抱えていた人形を置いて杖を手に取る。
アイラ「第二級なら私らでも討伐OKってことだよな?」
紬「はい。でも今のアイラちゃんじゃ……」
アイラ「だいじょーぶだって。こんな姿になったって私は大魔女なんだぞ?」
アイラが紬の言葉を遮る。唸り声をあげて走る魔獣がどんどんと近づいてくる。アイラは余裕綽々といった様子で杖を構える。
アイラ「リパルス!」
アイラの杖から魔弾が放たれる。それと同時にアイラはフラつき、地面に片膝付く。
アイラ「(M)なんだっ!? 今の一発で大量の魔力を持ってかれたぞ!? ……まさか、子供の姿になったせいで魔力の総量が減ったのか!?」
放たれた魔弾が魔獣に当たる。魔獣は大きく叫び声を上げるが、そのまま我を忘れたように走り続ける。
アイラ「(M)まさか、この魔獣……。マズいっ! このままじゃ……!」
アイラの前に杖を構えた紬が立つ。
アイラ「紬逃げるぞ! コイツは……」
紬「アイラちゃん、雨を降らしてください!」
アイラは怪訝な表情を浮かべる。
アイラ「何言ってんだ! 今雨なんて降らしたって……!」
魔獣がどんどんと二人に迫ってくる。
紬「いいから早く!」

○(回想)HWW・Spell writer執務室(夜)
本に囲まれた部屋の中、ジンジャーとアイラと紬がいる。
アイラ「じゃーな。また来るぜー」
ジンジャー「用がない時は来んなよ」
アイラが部屋を出る。
紬「私も失礼します……」
ジンジャー「あ、待ちな。霧島紬」
ジンジャーが紬に煙草を向ける。紬は不思議そうな表情。
紬「……? 何でしょう?」
ジンジャー「君のことも調べたんだ。君、自分のティナが分かんないらしいな」
紬「……はい。そうなんです。でも、一度だけ発動したんですよね」
ジンジャー「それはそん時に君のティナが発動条件を満たしていたからだ」
紬「発動条件、ですか?」
ジンジャー「おう。アイラは良い生徒を受け持ったな。君らは想像以上に相性が良いみたいだ。いいか? 君のティナはな……」(回想終わり)

○(元の)ガタガタ坂商店街
紬「早く! 雨を降らしてください!」
アイラは納得がいかないといった表情のまま、杖を空に向ける。
アイラ「ティナ・ウルル……。くっ……!」
アイラが杖を振ると、二人と魔獣の頭上に雨雲が発生し、雨が降り出す。アイラはフラついてその場に両手を着く。魔獣と紬との距離は5m程に迫る。
紬「見ててくださいね。アイラちゃん……」
ジンジャー「(M)君のティナはな……」
紬「ティナ・ボルティガ!」
紬が呪文を唱えながら杖を振ると、雨雲から魔獣に向かって、巨大な雷が轟音と共に魔獣に落ちる。
ジンジャー「(M)雨雲から雷を落とす魔法だ」
雷が直撃した魔獣はその場で動きを止め倒れる。アイラは唖然といった表情で紬を見る。
アイラ「つ、つむぎ……」
紬「見てましたか! アイラちゃん!」
紬がアイラに駆け寄る。紬はアイラの腕を肩に回し、二人でゆっくりと立ち上がる。
アイラ「お前、ティナ撃てないんじゃ……」
紬「えへへ、これが私のティナです! 呪文はジンジャーさんに作ってもらいました!」
アイラ「……やるじゃんか」
紬とアイラは倒れた魔獣に近づく。
紬「……どうしてこの時期にアイスグリズリーが出てきたんでしょう?」
アイラ「……そう、それなんだよ。紬、コイツにドレスコーズをかけてみろ」
紬「え? 分かりました。……ドレスコーズ」
紬が呪文を唱えながら、魔獣に向けて杖を振る。魔獣の体から、紫色の瘴気が抜けていく。
アイラ「……やっぱりな」
紬「操られてたんですか……?」
アイラ「そういうことになるな。つまり、ここを襲撃させた禁魔法家がいるってことだ」
紬「なんでそんなことを……?」
アイラ「んー、まぁこれだけじゃあ分かんねえな。……とりあえず一旦HWWに帰って報告するぞ」
紬「そうですね……」
アイラは紬から離れ、キョロキョロと辺りを見渡す。
アイラ「……あー!」
アイラの視線の先には雨でびしょびしょに濡れたカエルのぬいぐるみがある。
アイラ「お友達がー!」
紬「えっ! うわっ! ごめんなさい! 全然考えてなかった!」
アイラ「うわぁー……」
アイラは濡れたぬいぐるみに駆け寄る。
アイラ「つむぎぃ、10歳以下のフリできるか……?」
紬「頑張ってみます……」



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