見出し画像

「雨の魔法使い」 第3話 爆発的豪雨

人物表

アイラ=ミニーミニー(4・9)魔女
霧島紬(15)魔女見習い
ルパート=クッカプーロ(46)魔導士
ジーニャ=スリンガー(25)魔女
ガルガ=バンクロス(27)禁魔法家
ジャンルカ(33)禁魔法家
スナバコ=トマーディア(20)禁魔法家
ヴァネッサ(54)アイラの祖母・元魔女

本文

○(回想)ミニーミニー家・リビング(夜)
暖炉で暖色に照らされた室内、アイラ=ミニーミニー(4)が布団のシーツを被り、左手に木の棒を持ちながら楽しそうに部屋を駆け回っている。その様子を椅子に座るヴァネッサ(54)が微笑ましく眺めている。ヴァネッサは左目に眼帯を着けている。机の上には、花瓶に生けられたバラの花がある。
ヴァネッサ「アイラ、魔法使いになりたい?」
アイラは嬉しそうにヴァネッサを見る。
アイラ「なりたいじゃなくてなる! おばあちゃんみたいに強い魔女になるの!」
ヴァネッサ「……そう。じゃあよく覚えておきな! 魔法使いは魔法をどう使うかだよ」
アイラは首を傾げる。
アイラ「どーゆー意味?」
ヴァネッサ「いいかい? 魔法はね、使い方によっては簡単に人を殺すことだってできる。私のティナなんて、やろうと思えば国も支配できるさ。それでも私は、この魔法を人を助けるために使ったんだ。魔法は使い方なんだよ」
アイラ「んー、よくわかんないけど……」
ヴァネッサ「ハハッ、いつか分かればいいさ。アイラは正しく魔法を使うんだよ」(回想終わり)

○HWW・Raincoat執務室(朝)
ぬいぐるみに囲まれた室内、机の席に9歳の姿のアイラが座っている。アイラの向かいにはルパート=クッカプーロ(46)が困った表情で座っている。その横では、霧島紬(15)が部屋の掃除をしている。
ルパート「……つまり、子供に戻っちゃったせいで総魔力量が減って、魔法をまともに使えないからしばらく仕事を振らないでってことを言いたいんだね?」
アイラ「そういうことだ」
ルパート「うん、無理だね」
アイラ「っでだよ!」
ルパート「そりゃそうだよ。魔法が一切使えないとか、もっと元気がなさそうだったら考えたけど、そうでもなさそうだし」
紬「アイラちゃん、魔力が減ったって分かってからウキウキしてました」
アイラ「紬っ! 余計なこと言うな! どっちの味方だ!」
紬「私はもっと仕事がしたいんです」
アイラは紬を睨む。
ルパート「そうそう。たとえ魔力切れで倒れたとしても今は紬ちゃんがいるし大丈夫でしょ」
アイラ「なんだ!? 倒れるまで働けって言うのか!? 会社としてどうなんだよ!」
紬「ルパートさんそんなこと言ってないですよ」
ルパート「そうだよ。紬ちゃんがいるから安心して仕事ができるねってことだよ」
アイラ「ああああああっ!」
アイラは頭を抑えて机に突っ伏す。
ルパート「今色々とバタバタしてるからさ、頼むよアイラちゃん」
紬「……? 何かあったんですか?」
ルパート「うん。商店街の魔獣騒動もそうだけど、二人が禁魔法家に遭遇してから魔法犯罪が多発してんだ。一個一個は大した騒ぎじゃなくても、ウチで対処しない訳にはいかないから大変なんだよね」
紬「それと私達が会った禁魔法家が関係あるんですか?」
ルパート「まぁその辺も調査中なんだけどね、目撃情報があったんだ。現場に白いローブを着た魔法使いが居たってね」
紬、緊張した面持ちになる。
ルパート「だから頼むよ。アイラちゃんが仕事してくれないと僕がWise mens(管理隊)から降ろされちゃうし」
アイラ「そっちが本音だろうが……!」
アイラの背後の窓から、コンコンとノックが聞こえる。三人は窓を見ると、窓の外には一冊の本が鳥のように羽ばたいて飛んでいる。
紬「あ、バードブックだ」
紬が窓を開けると、室内に本が入ってくる。本の表紙にはカンガルーの絵が描かれている。
紬「Travelers (転送隊)からみたいですね」
本はルパートの前に止まる。
ルパート「あら、僕宛てか」
ルパートは本を開く。本には魔法陣が描かれている。ルパートは杖で魔法陣をなぞると本が光だす。
紬「何ですかこれ……?」
アイラ「初めて見るのか? 面白いものが見れるぞ」
ルパートが本から杖を離すと、本から黒いローブを着たジーニャ=スリンガー(25)が現れる。
ジーニャ「失礼します」
紬「うわぁっ!」
紬は驚いて一歩下がる。
紬「ブックバードでこんなこともできるんですね……」
アイラ「Travelersの専売特許だな。普通はできん」
ルパート「わざわざ転送までしてくるなんて、どうしたの?」
ジーニャ「緊急伝令です。ルパート様と、……アイラ様に」
ルパートとアイラが緊張した面持ちになる。
ルパート「……何があったんだい?」
ジーニャ「禁魔法家の討伐に向かった四名のFangs (討伐隊)のうち、一名が重症、三名が殉職しました」
紬「えっ……」
ルパート、険しい表情。
ルパート「……それで、どうして僕らが?」
ジーニャ「帰還した魔法使いの証言によると……」
ジーニャがアイラを見る。
ジーニャ「禁魔法家が雨の魔法を使用していた、とのことです」

○ブラッドリー教会(朝)
大きな教会の中、祭壇には牧師姿の男が立っており、傍には聖歌隊が歌っている。信者達がまばらに椅子に座る中、後方の席に白いローブを着たガルガ=バンクロス(27)が、信者を馬鹿にしたような表情で眺めながら座っている。教会の扉が開き、同じように白いローブを着てフードを目深に被ったジャンルカ(33)が入ってくる。
ジャンルカ「良い教会だね」
ガルガ「そーかぁ? 陰気臭えじゃんか」
ジャンルカはガルガの隣に座る。
ジャンルカ「……HWWの魔女、奪いきれなかったんだってね」
ガルガ「んぁ? あー、邪魔が入っちゃってねー。なんか言われたかー?」
ジャンルカ「いや、魔法と必要な記憶は入ってたから大丈夫だよ。それでさ……」
ジャンルカは杖を取り出す。
ジャンルカ「ガルガとはちょっと相性悪いかもしれないけど、あの魔法欲しい? まだストックがあるんだけど」
ガルガはジャンルカの杖の先を見る。杖の先が仄かに青色に光っている。
ガルガ「……いや、俺は別にいいかなー。あんま使い勝手良くなさそうだし」
ジャンルカ「……そうでもないんだ。ちょっと見ててね」
ジャンルカは立ち上がり、杖を神父や聖歌隊の上に向ける。
ジャンルカ「……ティナ・ウルル・デモニア」
ジャンルカが杖を振りながら呪文を唱えると、神父や聖歌隊、信者達の頭上に雨雲が発生する。雨雲から黒い雨が降り注ぐ。
ジャンルカ「外付けの魔法は簡単に自分のティナと組み合わせることができるんだ」
黒い雨に濡れた人間は、叫び声を上げながら、塵となって消えていく。ガルガはその光景をワクワクした表情で見ている。教会内はガルガとジャンルカのみになる。
ジャンルカ「組合せ魔法だから魔力を大幅に消費しちゃうけどね。特訓あるのみだ」
ガルガ「すっげぇ! 相変わらず楽しそうなこと考えんのが上手いなぁ!」
ジャンルカ「ふふ、僕じゃないって。これも彼の方の計画の内だよ。雨の魔法使いを作り出すんだ!」
ガルガは笑みを浮かべてジャンルカを見る。
ガルガ「この魔法、他に誰に渡したんだ?」
ジャンルカ「えっとね……」

○ジッタメニア共和国・ツベローサ村(朝)
亜熱帯の植物で囲まれた鬱蒼とした小さな街に、白いローブを着てフードを被ったスナバコ=トマーディア(20) が杖を持って立っている。街には走り回る子供達や、談笑する人々、犬を散歩させる人など、穏やかな風景が広がっている。スナバコはゆっくりと杖を空に向ける。
スナバコ「ティナ・ウルル・ボンダーガ」
スナバコが呪文を唱えると、上空に街を覆う程の小さな雨雲が発生し、しとしとと雨が降り始める。街の人々が不思議そうに空を見上げる顔に、雨が落ちる。
スナバコ「ハァ……! ハァ……!」
雨に当たった街の人々は、雨粒が触れた部分から爆発し出す。街の至る箇所で爆発と血飛沫が発生する。スナバコのフードが爆風で捲れる。スナバコはうねった黒髪で、肩まで髪が伸びている。スナバコは目の前の爆発を恍惚な表情で眺めている。
スナバコ「ハハ……、いいじゃないか……!これだよ! これが見たかったんだ!」
スナバコは高笑いで目の前の光景をまじまじと見ている。街で数々起こっていた爆発が止み、スナバコは杖をしまう。
スナバコ「……最高の魔法をもらってしまったね」
スナバコの背後に一匹の白い梟が木に止まっている。

○HWW・Raincoat執務室(朝)
室内にアイラ、紬、ルパート、ジーニャの四名が、ジーニャの腕に止まる黒い梟の目から投影される幻影を見ている。幻影は、スナバコが雨の魔法で街の人々を爆殺する映像が映し出されている。アイラはそれを怒りの表情で見ている。
アイラ「確かに、これは私の魔法だ」
紬「で、でもっ……!」
ジーニャ「これより緊急集会が執り行われます。ルパート様とアイラ様は至急……」
アイラ「んなことしてる暇ねぇだろ」
アイラがジーニャの言葉を遮る。
アイラ「どうせ誰が討伐に適正だ、とか、私に責任はあるのか、とかどうでもいいことを決める集会だろ」

×××(フラッシュバック)
ヴァネッサ「魔法使いは魔法をどう使うかだよ。アイラは正しく魔法を使うんだよ」
×××

アイラは両手を強く握りしめる。
アイラ「コイツの討伐には私が行く」
紬、不安の表情。
ルパート「……アイラちゃん、流石に分かってない訳じゃないよね」
アイラ「んな馬鹿じゃねえ。今の私は誰よりも討伐に不向きだ。でもコイツは私が行かなきゃ駄目だ」
ルパートは困った表情でジーニャを見る。ジーニャは落ち着き払った様子。
ジーニャ「心配ご無用です。アイラ様がそう言い出したら、条件付きで出撃させるよう、アーノルド様から許可が降りています」
ルパート、苦笑いを浮かべる。
ルパート「さっすが、なんでもお見通しってことだね……」
紬「本当に行くんですか……?」
アイラは心配そうな紬の目を真剣な眼差しで見る。
アイラ「……私の魔法で誰かが傷付いているなら、私がケリをつけなきゃいけないだろ。私は、雨の魔法使いだからな」

この記事が参加している募集

スキしてみて

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?