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ママのための化学教室-3 : レジ袋が必要な方は申し出てください。

少し前からレジ袋が有料化して、「レジ袋削減」の大合唱。問題はプラスチックらしい(1)。少し前までは、世界の森林を守るために、「紙の削減」を謳っていたような…。突然の手のひら返しのような方針転換に慌てないためにも、何が大事なのかきちんと学んでいきましょう。

はじめに

今回はプラスチックについて。世界の流れは、環境先進国のEUのみならず、アジア・アフリカ各国でもかなり規制が厳しいものになっており、国によってはプラスチック袋の使用だけでなく、製造も中止しているところも(3)。2021年からEU全域では、使い捨てプラスチック10品目と漁具を対象とした規制が開始されます。

環境問題は、「地球が支えられる限界を超えて、人間社会が資源を取り出し廃棄物を捨てている」ことが根本にあり、単にゴミを減らすだけでなく、効率よく回収・再生して、再び使用する循環までの大きな歯車として考えることが大事です。広い視野で考えないと、いろんな問題が絡んでいますので一筋縄ではいきません。異なる業種の結びつきから、新しいアイデア、ビジネスチャンスも生まれてきています。では、少しだけ学びの世界に。

プラスチックとは?

熱や圧力を加えることで任意の形に成形できる塑性(そせい)[plasticity; 力を加えると変形し、力を取り除いても元の形に戻らず変形が残る現象] を持つ、合成樹脂のこと。

【原料】
 * 1907(発明): 石油、天然ガス、石炭などの化石根資源のみ
 * 現在: 上記のほか、トウモロコシ・サトウキビetc.生物資源(バイオマス資源)。

【特製】
 * 軽量で耐久性がある。
 * 好きな形に整形出来る。
 * 安価に生産可能。
 * 添加剤を加えることで、色々な特製を持たせることができる。
    例) ◆ 社会・経済活動に伴う温室効果ガスの排出量低減。
    ◆ 高性能プラスチックの利用で食品ロス削減。

【プラスチックが多用されるようになった経緯】
 1. 野生動物の保護:
   装飾品等の原料である象牙や海亀の甲羅の代替品とする
   → 象や海亀の乱獲をやめさせる。

 2. 製油所からの廃棄物→プラスチックペレットとして有効活用
   → 経済的な価値に転換

【日本におけるプラスチック】※容器包装と製品の双方を束ねる法体系が必要

  ◆[容器包装プラスチック]
  * ほぼ使い捨て
  * 容器包装リサイクル法(容リ法)で規制
    回収=市町村
    リサイクルの責任=容器製造業者、容器利用事業者

  ◆[製品プラスチック]
  * 廃棄までの時間は長いものが多い
  * 容リ法の対象外→ 分別収集・リサイクルなしに焼却・埋め立て

最近耳にする、マイクロプラスチックとは?

5mm以下の微細なプラスチックで、一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分けられます。

一次マイクロプラスチック
元々5mm以下のマイクロプラスチック。98%が陸上での活動から発生(†1)。
 ▼マイクロサイズで製造されたプラスチック
   例) 洗顔料・化粧品・歯磨き粉のスクラブビーズ、
   工業用研磨剤、紙おむつ等の衛生用品の高吸水性樹脂
※年間総生産量: 世界=236万トン/日本=19万トン(日本の生産量は全体の約8%)

 ▼製品の製造・使用・メンテナンス中に摩耗したもの
   例) 自動車走行によるタイヤの摩耗(28%(†1))
     洗濯による合成繊維の衣類からの繊維片(35%(†1))

   †1: 2017年国際自然保護連合(IUCN)調べ

二次マイクロプラスチック
元は5mm以上 → 破砕や劣化で5mm以下になったもの

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そもそもプラスチックの問題点は?

1. 耐久性が高すぎて、完全に分解されることはない。つまり、これまでに生産されたプラスチックは、ほぼ全て、今でも存在し続けている。

2. 1950年〜2015年 バージン・プラスチック生産量は、全世界で230倍(150万トン→3億4,800万トン)に増加(2017年調べ)。

ただし、これには合成繊維(3,720万トン)、自動車用タイヤ向け合成ゴム(640万トン)は含まれない。うち、リサイクルされたものは、10%未満 (さらに2回以上リサイクルされたものは、1%以下)

3. プラスチック+可塑剤や添加物+廃棄後にプラスチックに吸着した化学物質
  → 生物濃縮による生体への悪影響の懸念

4. 海洋汚染

 ▼「2050年までに海洋中に存在するプラスチック量は、重量ベースで魚の量を超えるだろう」(2016.1、世界経済フォーラム(ダボス会議)の報告) →

 ▼毎年950万トン(推定)のプラスチックゴミ(以下、プラごみと略)が海へ流出(IUCN, 2017)

 ▼海流により漂流プラごみは徐々に数カ所に集まり、最終的には海底に沈降?

 ▼海上のプラごみの約80%は陸上由来(ポイ捨て、不法投棄、埋立地からの流出、自然災害)。残り20%は海洋廃棄ゴミ(漁網・漁具、船舶からの汚水・プラごみのポイ捨て)。

 ▼漁網・漁具による「ゴーストフィッシング(海洋生物や海底への予期せぬ絡み付き等による被害)」により、生息域が物理的に撹乱され、魚類資源が1-2年で 5−30%減少(米国国立海洋大気庁報告書、2015)

 ▼外来種(植物、動物、有害な藻類、ウイルス、微生物)がプラごみに乗って移送?

 ▼海洋プラごみの絡まり等による船舶事故 → 経済損失や人身事故。

 ▼景観を破壊することで、観光業界へのダメージ。

データを読むときの注意

◆集計した年と、機関を確認。
◆大袈裟な言い回しに釣られない。
◆誰が集めた数値なのか、集計した年がはっきりしているものから、単位(個数、重さ、数、容量 etc.)を揃えて比較する。何を比較しているか、推測なのか、事実なのか明確にする。
  例) マイクロプラスチックは、大きさが小さい
   =1個あたりの容量も小さい
   =同じ重さなら、数は大きくなる。
   → 単純に漂流漁具と、マイクロプラスチックの数の比較をすれば、マイクロプラスチックの方がダントツで多いが、だからマイクロプラスチックが…というには不足。魚網の方が大きくて重いので物理的な破壊力は上。この場合は、毒性や健康被害は別にして考える。

日本と世界の認識の違い

現在、海洋プラスチックに関する世界の対策の基準になっているのは「G7海洋プラスチック憲章」(2015年9月、「国連持続可能な開発サミット」で採択)。国連加盟国193カ国が、2016年から2030年までに達成すべき目標を示す。17の目標とそれを達成するための169個の具体的なターゲットを示す。日米は署名していない。特徴は、技術革新も含む「産業政策」の一環であり、インフラや生活様式、教育も含めた取組みとして位置付けられている。罰則、税金、認証制度などで差別化や強制力も。

日本は独自に、2018年11月「プラスチック資源循環戦略案」を打ち出している。内容的には上記とかなり似ている(1、2)。特徴は、「環境問題」という認識が強く、規制力が弱い。社会や会社の自主的な努力に依存。

ためしてみよう

▼ まずはポイ捨てをやめてみる。
▼ 我が家でどのくらいプラスチックを使っているか、調べてみる。
▼ 今使っているプラスチックのうち「減らせるもの」「なくて済むもの」を考えてみる。
▼ 小学校5年生くらいから環境問題についての授業が始まります。どんなことを学んだのか、親子で話すのもおすすめです。

オススメ絵本:「まほうのえのぐ」

本屋さんの絵本コーナーで見かけて、懐かしかったので紹介します。
作者は林明子さん。他にも「おつきさまこんばんは」「はじめてのおつかい」「はじめてのキャンプ」などの作品があります。絵もかわいいですが、主人公の行動を一緒に追体験しているようで、読みながら一緒にワクワク。我が家でも人気の作家さんの一人でした。読み聞かせ動画も見つけたのでどうぞ。

お兄ちゃんの絵の具を使いたくてしかたのない妹のよしみが、森の中の動物たちとかきあげたのは…


持続可能な社会とは、絵本の中のよしみと森の動物たちのように、無心に何かを一緒にできる世界かも。

最後にひっくり返ったお兄ちゃんとよしみの書き上げた絵を見ながら、以前に生命の庭展で紹介した、よしみがおとなになった時に描いていそうな、泥を使って不思議な魅力のある作品を描いている淺井裕介さんのインタビュー動画です。鹿の血を泥に混ぜて作品を追求する過程で「今あるものでなんとかする」という淺井さんの言葉がふっと今回のテーマと重なったので紹介します。

以前のブログはこちら


参考文献

1. 「プラスチック汚染とは何か」枝廣淳子、岩波ブックレットNo. 1003、岩波書店(2019)

2. https://www.csr-communicate.com/csrinnovation/20190521/csr-43884
どう違う?G7の「海洋プラスチック憲章」と日本政府の「プラスチック資源循環戦略」

3. https://www.env.go.jp/council/03recycle/y0312-05/y031205-s1r1.pdf
海洋プラスチック憲章、プラスチックを取り巻く国内外の状況(2019.2)

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