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週刊誌という「世界」 #10 芸能スキャンダルと港区女子の物語

ガーシーchのような暴露系YouTubeに注目が集まっている。その内容を見ると、芸能人と夜遊びには常に黒い噂が渦巻いているということが、改めて浮き彫りになったともいるだろう。常に多くの読者の関心を呼ぶ芸能スキャンダルの世界。そこで今回は僕が覗いた、夜の世界とその物語を振り返ってみたい。

港区女子との出会い


「あ、〇〇ですけど。いまドバイにつきました。ミカ元気にしている?」

 留守電に入っていた声は有名サッカー選手の声だった。日本代表の遠征でドバイに到着したことがメッセージされていた。携帯を見せながらミカは「これはルン!」でしょ、と嬉しそうに話した。

西麻布の深夜、ミカとは初対面だった。あっけらかんに有名人との交際を彼女は話す。僕が週刊誌記者と知りながらも気を許してくれたのは、意外だった。

もともと酒が強くなかった僕は、酒席ではいつもカシスソーダを飲んでいた。この酒ならアルコールが強くないので4,5杯は飲める。週刊文春に移籍してから酒席に出る回数が圧倒的に多くなっていた。フライデー時代は、深夜の張込があったので、酒好きでもなかったせいで夜はほとんど出歩かなかった。業界酒席みたいなものにもほぼ参加しなかった。だが、文春では張込が少ない代わりに、記者が常にスクープを求められるという環境になった。故に常にネタ元を新規開拓するために、夜な夜な酒席に顔を出すようになったのだ。

ミカと出会ったのは10数年前のことだった。出会った当初は赤髪のやや奇抜なヘアスタイルをしており、有名人との交際にはしゃぐ純真な部分もあった彼女だが、その後、タレントの仕事を少ししながら急速に垢ぬけて行った。髪はやや明るめのストレートロングになり、服装もシックなものに代わっていった。あちこちで遊び歩くようになった彼女は、今でいう「港区女子」のハシリのような存在だった。

芸能系のネタやスポーツスキャンダルに弱かった僕にとって、思い出深い女性のネタ元となったのが彼女だった。

ミカの人脈術

その付き合いは10年以上にも及ぶことになった。彼女から貰ったネタで書いた記事も20本以上。なんでこんなに協力してくれるのか、不思議でもあった。

困ったときに彼女に連絡をとった。

ー-いまワールドカップだけど、何かネタないかな?

ー-いまブレイクしているタレントのネタとか知らない?

僕の問いについて、彼女は「あれあるよ」「これはどう?」と返事をくれる。返信があったら、僕はすぐ彼女に会いに行きメモを取る。

ミカはサッカー選手との交際を皮切りに、その交友関係を急速に広げていった。ジャニーズからイケメン俳優、人気芸人から有名歌手まで。芸能界を中心に圧倒的な人脈を誇るようになっていた。出会って5年くらいが経過したころ、彼女と飲んだときこう話していた。

「もう日本で会いたい人には全部会っちゃった。裏の顔も知りすぎちゃったんだよね。もう、海外芸能人にしか最近は憧れを持てなくなってしまったのは自分でもヤバイと思う」

ロングヘアーを手でかき上げながら「エヘっ」とミカは笑った。彼女の最大の魅力は、自称「ヤリ〇ン・サンシャイン」と評する明るさだった。

ある日、彼女に有名芸能人との人脈を広げるコツを聞いてみた。適当に遊び回っているのかと思いきや、そこには隠れた努力があった。

「飲みに誘われたら、どんな時間でも行く。深夜2時でも3時でも。そうすることで電話が来る率があがるし、新しい人とも会える。あと、友達を連れて行くときは、必ず可愛いコしか連れていかない。ミカを誘ったら絶対楽しい(いろんな意味で)と思わせたいの」

年齢を重ねるごとに洗練されて行き、そして人脈も凄くなっていた。もはや見た目は「ザ・芸能人」という空気すら纏っていた。

豊富な人脈からネタをくれる。ミカは僕にとっては天使のような存在だった。普通、週刊誌のネタ元になる女性は長続きしないことが多い。有名人に酷い目に会ったことで週刊誌記事にして欲しいと、取材することになるというケースが多いのも一因だろう。そうしたネタ元は記事になりウサが晴れたら、週刊誌記者とまた付き合おうとは思わないものなのだ。

ところがミカは違った。僕との付き合いは10年以上にも及んだ。しかもネタのほとんどは、ちょっとしたエスプリや人間観察が入ったもので、面白いのだ。例えば人気イケメン俳優のネタをもらったときは、こんな感じだった。

「ねぇねぇ赤石さん! 聞いて。最近、〇〇〇〇と遊んでいるだけど。あいつね、『行きつけのラブホがあるから行こう』って言うの。もちろん行ったんだけど、『行きつけのラブホって何やねん!』て思うわーけ。僕遊びまくってます、ということじゃん。しかも、あいつ有名女優と付き合っているのよ。派手な下着が彼の部屋にあるわけよ。明らかにマーキングだよね。女優でも女の子、やるなーって笑」

――おもろいねー。それ書いていいの? 証拠ある?

「いーよー。はいLINEね。」

彼女と会うときは、終始こんな感じだった。ガールズトークに参加している感じで僕はネタをもらい、彼女はなんか面白い話はないかなと週刊誌記者のために頭をひねってくれるのだ。

最高だった芸能人

僕はネタを貰うと同時に、ミカという人間にも興味を持ち始めていた。彼女はじつはお金持ちのお嬢さんだった。タレントの仕事は少しするくらいで、本格的に芸能人になる気はなさそうだった。何が彼女を夜遊びに駆り立てるのか。それが気になったりもした。

――いままで会った有名人で誰がいちばん素敵だった?

「えー、意外かもしれないけど今田耕司さんかも。凄く優しかった。女性の扱いを知っているなーとういうスマートさがあるの。じつは彼の部屋の隣には福山雅治(結婚前・当時)が住んでいて、定期的におすすめのAV交換しているの。AVを見繕った紙袋をお互いのドア前に置くんだって。ウケるでしょ」

――確かに今田はAV好きって言ってたかも。


「逆におぎやはぎの矢作も面白いの。私のこと『君みたいな清純なタイプは初めてだ』と言うの。ヤリ〇〇サンシャインだよ。ヤベ、私もそう振舞わないとーと思ったのよ。ちょっとウケるよね」

――逆に最低な男は?

「JリーガーFWの〇〇(超有名)かな。女性扱いが中学生みたいなの。童貞かよって思うくらい。奥さんも子どもいるのにさ、マジ驚いた笑 ミカ・ランキング75位で最下位かな」

ミカは長身でファッションセンスも高い“いい女”だった。10年近くも付き合っていて、僕が好きになることはなかったのか? とよく周囲から言われたこともあった。もちろん人としては魅力的すぎる女性だった。しかし、好きになった瞬間に「ミカ・ランキング」で査定されるのかと思うと、とてもアタックする気になれなかったというのが本音だ。「赤石さんは76位かも。ルン」とでも言われたら、週刊誌記者として何もスキャンダルを書けなくなる。僕は彼の男を見抜く審美眼を怖れていたのだ。ちなみに彼女の「ルン」ある意味を含んでいるのだが、その意味はご想像にお任せします(笑)

ロックスターの悲劇

ただ、ミカは本当に人間としても魅力的だった。育ちの良さからくる明るさや面白さを持っていただけではなく、どんな記事を書いても一回も文句を言わなかったし、大きいスキャンダルを書いたときは「私、事務所に殺されるかな」と不安を口にしながら全面協力をしてくれた。男前な一面が多々あったのだ。彼女は一度も嘘をついたこともなかったし、僕を裏切るような行動も取らなかった。だから僕も彼女を裏切るような記事の書き方はしないことに心を砕いていた。

彼女の話の根底にあるのは人間への興味だったと思う。芸能界という虚飾の世界で、芸能人は多大なストレスを抱えている。彼女はその機微をよく観察していた。

「金ならいらでもあるんだ!」

彼女のネタで、某芸能人が部屋で札をばら撒くシーンを描いたことがある。普通の幸せを欲していた男はスターになり狂っていった。僕はその話を聞いて「ロックスターの悲劇」というは普遍的な物語なのだなと感じた。人気絶頂のなかで人間は何かを失っていくというのは、映画『ボヘミアンラプソディ』でも描かれた世界観。金を持ったからこそ幸せになれないということが芸能界には多々あるのだ。でも、タレントはその眩しい世界から離れることが出来ない。光が強ければ強いほど、影は濃くなり闇は深くなるということをまざまざと感じたものだ。


一瞬だけ見せた暗い表情


一度だけ、僕の前でミカがこんな言葉を漏らしたことがあった。

「わたし、赤石さんに言ってないだけで、辛い経験もたくさんしてるんだよ」

このときだけ、彼女はふと暗い表情を見せた。僕もそうなのかもしれないと思っていただけに、彼女の呟きには返す言葉がなかった。

夜遊びにはリスクが付き物だ。芸能人と夜遊びというコンボは、僕らが思っている以上にウソと裏切りに塗れた世界でもあったはずだ。酷い人間関係や犯罪的なことも多く経験しただろう。その恨みについては、彼女はほとんど口にしなかった。

夜の世界には「女衒」と呼ばれる人たちがいる。僕もその何人かと会ったことがある。

「あれも、これも全部オレだから」

西麻布のバルビゾンビル。そこで会った男はこう虚勢を張った。芸能人との交友を吹聴し、女性を集める。女衒と呼ばれる人間の何人かは、バー経営者だった。そこには店に芸能人を呼ぶ、女性を呼ぶというような、我田引水、自分のメリットゆえの女衒というものを強く感じたものだ。夜の世界の人たちは何か表現のしようのない暗さがある。記者として彼らと付き合うのはしんどいなぁとよく思ったものだ。

彼らのネタのほとんどは、悪口の観点から出ているような気がしたものだ。ただ、素行を暴露するだけ。「女が好き」「金が好き」も悪いかもしれないが、お互い利益で繋がっていた訳だから仕方ないのでは? と思う瞬間も多々あった。その芸能人がどうして狂っていったのかまで洞察するような深い話は少なかった。

その点でも、よく笑い、よくおしゃべりする、そして少し深い視点で芸能人を見つめるミカの人間性は魅力だった。週刊文春は週に5本のネタ出しをしないといけない。僕はネタに困るとミカに連絡していた。「赤石さんとはビジネスパートナーだから!」と彼女が言ってくれたこともあったが、メリットがあったのはほぼ僕だけだった。

ゴシップからときに芸能人の裏面史的な物語まで。彼女のネタでいろんなスクープ記事を何本も書いた。ときには右、左(週刊誌目次の右、左はトツプ記事となる)になるような大きいスクープもあった。その一方で、彼女には食事をご馳走するくらいの謝意しか示せてない。だが、美味しいごはんが、彼女が週刊誌記者と長く付き合うモチベーションではないことは明らかだった。彼女の周りには芸能人だけじゃなく、有名企業の社長からエリートもたくさんいたからだ。もっと良いごはんを食べることは容易かったはずだ。

西麻布、六本木、と夜の街でミカと何回くらい会っただろうか。いつ終わるとも知れないネタ元と記者という関係。こんなことを言うと嘘くさく聞こえるが、僕は彼女のハッピーが続くことをどこかで願っていた。週刊誌にスキャンダルを告発したことで、その後、不幸せになってしまった例をいくつも見てきたから、そう感じていたのだと思う。

芸能人と派手に遊ぶ虚飾の世界に憧れていたものの、何かが違うと思う自分もいたが故に、週刊誌記者の僕に話をすることで、人間的なバランスを保っていたのかもしれないと想像したりもした。じつは本当の愛を探していたのかも、とか考えたこともあった。が、どの考えもきっとピント外れな分析のような気がする。

ミカがなぜ週刊誌記者と親しくしていたのかー-。

その真意は今もわからない。


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