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【弁護士直伝】事業者が実践できる論理的交渉術&クレーム対応

はじめに

ここでは、相手を論破するためのテクニックといった、実際のビジネスシーンでは容易に使えない内容のものではなく、主張(利害)をことにする者が互いに譲歩をしながら、合意に辿り着くためのプロセスとしての交渉術をお伝えします。
また、弁護士ならではの具体的なクレーム対応の実践的なノウハウをお伝えします。

交渉とは?

まずは、総論として、そもそも「交渉とは?」という話しから始めさせていただきます。
私たち弁護士は、日常的に相談者から法律相談を受け、限られた時間の中で、必要な情報を聞き出して、有益なアドバイスを提供しています。
また、交渉事件では、様々な相手方と話し合い、依頼者の納得できる内容の解決を図ります。

このように、弁護士の仕事に交渉術は必要不可欠です。
 当然、ビジネスにおいても、交渉術はあらゆる場面で要求されます。

これから述べる内容は、巷に出回っている「相手に必ずイエスと言わせる」とか「相手を論破する」といったものではありません。
こういうものは「タフネゴシエイター」などと言われたりもしますが、このようなことが、一朝一夕にできるようになるわけではありません。

また、このようなものは、交渉を一局面での「勝ち」「負け」のレベルで考えているものです。
これから、お話しする内容は、誰にでもできるという意味では「当たり前のこと」と思われるかもしれませんが、この「当たり前のこと」をできないのが世の常でもあります。

交渉というと、すぐに「勝ち」「負け」という話しになりがちですが、そのように捉えるとなかなか上手くいかないものです。
そもそも、そこで言う「勝ち」「負け」の基準は曖昧です。

確かに、ある一局面についての「有利」「不利」、優劣の判断はあり得ますが、それですら、それぞれに抱えている事情が異なるので、交渉結果だけを見て、それが相手にとって有利なのか不利なのかは必ずしも分かりません。
結局、「勝った」「負けた」は、最終的には主観的な基準に行き着くことが多いのです。

なので、このような「勝ち」「負け」を考えること自体ナンセンスだと、私は考えています。

例えば、継続的な取引関係にある者同士の交渉を考えてみると、ある場面で一方的に、こちらの要求を相手方に全部呑ませた(この場面だけをみれば「勝ち」とも言えます)がために、そのことが原因で継続的な取引関係が維持できなくなる(ここでは場合によっては「負け」とも言えます)こともあります。
長いスパンで見てみれば、ある場面では譲歩しておくほうが得ということも多いのです。

一方が主張を相手方に全面的に認めさせる、要求を全面的に相手に呑ませるのは、単なる一方的な命令であって、もはや交渉ではありません。
私の考える交渉は、主張(利害)を異にする者が互いに程度の差はあれ譲歩をしながら、それなりに納得して合意に辿り着くためのプロセスとしての話し合いのことを意味します。
交渉は、相手と合意に達するための手段にすぎません。

それでは、ここからは、そのような意味での交渉をするために必要となるスキルやノウハウ、テクニックについて、述べていきます。
そんなの「当たり前」だと思われる内容かもしれませんが、なかなかできている人が少ないことばかりです。

相手に話しを聞いてもらう

まず、相手に話しを聞いてもらうためのスキル・ノウハウ、テクニックからです。
交渉の前提として、相手との会話が上手くできないと、そもそも交渉にはなりません。

最近、会話下手な人が増えており、コミニュケーション能力の欠如なんてことが言われたりもしています。
しかし、それでは、交渉はできません。
まずは、相手に話しを聞いてもらうことが必要で、それが交渉の出発点です。

なぜか相手に話を聞いてもらえない、なぜ話を聞いてもらえないのだろうかという悩みを持つ方がおられます。
あなたは、どうしてだと思いますか?

それは、とにかく、自分の話したいことだけを一方的に話そうとするからです。
相手のニーズも考えずに、自分が言いたいことだけを一方的に話し続ける人の話を誰も聞きたいとは思いません。
仮に、何か知りたいことや相手に聞きたいことのある人でも、その知りたいことや聞きたいことが何かをきちんと理解して話してくれている相手の話でなければ、真剣に耳を傾けないものです。

ビジネスにおいても、ついつい、相手の都合などを考えずに、短時間で効率的に商談を済ませようと考えて、商品やサービスの説明を一方的にやってしまいがちということがないでしょうか。

まずは相手の話をよく聞くということが何故必要なのかというと、それは、基本的に人間には自分の話を聞いてもらいたいという欲求があるからです。
これは自分のことを知ってもらいたい、認知されたいという欲求に基づくものです。

一方的な話や説明は、一見聞いてもらえているように見えていても、実は相手の耳には入っていないということが多いものです。
人は、一生懸命、自分の話に耳を傾けてくれる人には好感を持ちます。
場合によっては、それだけで、信用してくれたり、信頼してくれたりもすることすらあります。

そして、人間は感情の生き物なので、好感を持った相手の話は聞こうとしますが、逆に、いったん嫌だと思った相手の話は、内容がいかに優れていようとも聞こうとはしてくれません。
聞き上手で得た好感度は、相手の警戒心を引き下げる効果もあります。

そして、ちょっとしたスキルなのですが、相手の話を聞く際には、あまり本題とは関係のない話だと判断しても、拒否せずに聞くべきです。 
相手は、通常、こちらが聞きたい話だけをしてくれるわけではありませんが、それでも口を挟まずに聞いてくれる相手には好感を持つものです。
また、一見、本題と関係のなさそうな話にも、役立つ情報の埋もれていることがあります。
それが、相手のニーズのリサーチになったり、また、相手のニーズに関するヒントが隠されていたりします。

私たち弁護士が行う、法律相談などでも、世間話がきっかけで警戒心を解いてもらえることがあります。
特に共通の話題、さしさわりのない出身地の話しなどです。
そんな中で、ほろっと、相手の本音が出たりすることもあります。

法律相談というのは、法的サービスの提供なのですが、こちらが必要なことだけを要領よく聞き取って、応えるだけでは相談者は納得してくれないものです。
相談者には、一通り自分の言い分を聞いてもらいたい、自分の持っている負の感情をはき出したいという欲求があります。
なので、これにも、ある程度応える必要があるのです。

これは、事件の依頼を受けた場合の事実の聞き取りでも一緒です。
この場面で、どこまで話しをしてもらえるかが、弁護士の腕の見せ所です。
人間は、どうしても自分に不利なことは無意識に隠そうとしたり、都合良く話そうとするものです。
しかし、自分の話を真剣に聞いてもらえていると判断すると、あえて聞かなくても相手の方から、「先生だけには言っておきます」といった感じで、自分に不利な事情も話してくれることが多いのです。

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上手く相手の話を聞く立場から、自分が話す立場に転換させる

ここまで述べてきたようにして、まずは相手に話を聞いてもらえるようになったならば、次は、こちらの話しを聞いてもらうために、上手く相手の話を聞く立場から、自分が話す立場に転換させる必要があります。

これは、相手の話を聞きつつ、こちらの話したいことを上手く切り出すにはどうすれば良いのか?
相手の話をどうやって終えてもらうか?
といった、スキル・ノウハウ、テクニックの話になります。

結構、長話の人もいますので、さすがに延々と無制限に付き合っているわけにはいきません。

その方法として、まずは、相手の話を聞く時間を、自分の中で予め決めておくことです。
その決めた時間は、聞く時間と割り切ることで、心に余裕が生まれます。
その間はイライラしないで済むのです。
イライラすると自然とそれが相手にも伝わり、好感は持たれず、逆に不快感をもたれることになります。

次に、相槌の打ち方で、相手の話の流れをコントロールします。
相槌は、通常は無意識に行っており 考えながらやっている人はまれです。

人は、話しをする際、必ず、相手の表情やリアクションを見ながら、相手の興味や反応などを判断して話をしています。
相槌はそのリアクションの典型的なものです。
それ以外にも、表情や態度といったものがありますが、相槌が相手には分かり易いので、これを使います。

もともと、人が話しをする際にはテンポというものがあり、このテンポがいいと、とても気持ちよく話せるものです。
聞き上手は、相槌上手ということが多いのです。

それでは、相槌を具体的にどのようにするのかというと、
①相手が話し始めた最初の段階では、テンポ良く多い目に相槌を打ちます。
②相手の話が乗ってきたら、必要十分に押さえます。
 話しの結論部分などのポイント以外は相槌を打たずに流して、ポイントでだけ相槌を打つようにします。
③そろそろ話を終わりにして欲しい段階に入ると、相槌を減らします。
④最後は、ほとんど相槌をなしにします。
これで、相手はこちらのリアクションを見て、テンポも悪くなり、話を終えてくれます。

そんなに上手くいくものなのかと思われるかもしれませんが、これが慣れてくると、結構、上手くいくものです。
一度、試してみてください。

注意すべきは、容認できない内容にまで、むやみに相槌を打たないことです。
相手の全ての言い分に同意していると勘違いされるおそれがあります。

私は、この点で過去に苦い経験があります。
相手の話の内容に関係なく、調子よく相槌を打ってしまったがゆえに、あとになって相手の話の一部を否定したところ、「あなた、さっきは頷いて同意していたじゃないか!」と責められてしまいました。

また、同じ話の繰り返しには、メモを取ることで、対応することもあります。
メモは、現実に取るのが良いのですが、内容によっては少なくとも、真剣にメモを取っているように振る舞うだけでも構いません。
そして、同じ話を繰り返されたら、「もうその点は、先程お伺いして、しっかりとメモも取っていますから、お話しを先に進めて下さい。」と言うようにして、繰り返されるのを防ぎます。

ただし、あまり厳格にやると、相手の話をよく聞くことでせっかく作り上げた良い雰囲気が壊れてしまうので注意が必要です。
同じ話をされても、できれば2回くらいは聞くようにしましょう。

同じ話を繰り返されるのを防ぐ最後の手段としては、「要約確認」という力業(ちからわざ)を使うこともあります。
要約確認とは、それまでの相手の話の本質を要約して、間違いないかを確認するという方法です。
一気に話を終わらせてしまうという効果があるのですが、劇薬です。

「すみません、時間の関係で、まとめさせていただきますが、これまでにお伺いした話によると、~ということで間違いありませんか。」と言って、同じ話の繰り返しを防ぐのです。
これをやるためには、相手の話をよく聞いて本質を理解し、かつ要領よくまとめる能力が必要です。
万一、ここで要約を間違えると、全く話を理解していないと思われ、それまで話を聞いていたことが無駄になるだけでなく、信用を失い信頼されなくなるので、むやみには使えません。

私たち弁護士が行う法律相談は、役所や弁護士会の相談であれば1人当たりの割り当て時間が15~30分です。
私は、最低最後の5分は、アドバイス等のために必要なので、そこまでは、メモを取りながらひたすら聞きます。
せいぜい、話の流れを壊さない程度に確認を入れるくらいです。
ここで、聞く際には相槌のテクニックを使い、そして、最後の5分前になると、メモのテクニックか、「要約確認」のテクニックを使って、アドバイスに持って行くことが多いです。

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こちらのペースで話を進める

上手く相手の話を聞く立場から、自分が話す立場に転換させることができたならば、今度は、こちらのペースで話を進めたいものです

まずは、会話のイニシアティブを取るため、こちらのペースで話を進めるために何が必要かについてですが、それには、十分な下調べや準備が最も重要です。
周到な下調べや準備が、交渉の主導権を握るには必要不可欠です。
相手よりも情報不足、知識不足であることが露呈すると、心理的にも相手に優位に立たれてしまい、交渉の主導権を握られてしいます。

また、自分が譲歩できる限界のラインを設定したり、相手が設定しているであろう譲歩の限界ラインを推測するためにも、周到な下調べや準備が必要です。

私が和解交渉などをするときには、判例の調査、不動産の時価調査、複数の業者査定など、常に周到な下調べや準備を欠かしません。

次に、交渉相手と論争をしてはいけません。
言い争いや論争はしないということです。
既にお伝えしているように、交渉は主張の異なる者が互いに譲歩して合意に辿り着くプロセスであり、元々、主張が異なるのが常なのですから、言い争いや論争はまず無意味であり、場合によっては、有害です。
感情的に考えても、激しい論争、言い争いをした後で、譲歩を求めるのは難しいということが分かるのではないでしょうか。

私たち弁護士の行う示談交渉などでも、主張や法律構成は異なるけれども、結局は金額の問題であるということが多くあり、その様な場合には、異なる主張や法律構成について論争や言い争いをするメリットはありません。

さらに、こちらの言い分を通したいときなどには、説得するのではなく、提案をするというテクニックがあります。
単なる言い方の違いかも知れませんが、「~がいいですよ」より、「~はどうですか」という言い方をするようにします。
 
人は、説得される立場になると、身構えて心理的な抵抗を示すことが多いものです。
しかし、提案なら、呑むかどうかの選択権が自分にあるので、説得ほど抵抗を示しません。

ちなみに提案する際のコツは、メリットとデメリットを巧みに組み合わせることです。
製品等を勧める提案の際には、その製品等のメリットはできるだけ挙げ、デメリットもあえて1つだけ挙げておきます。
この世に完璧なものは存在せず、どんなものにも必ず一つや二つは欠点があるのですから、あらかじめ欠点もあげておくべきなのです。
これで、かえって相手は安心することが多いです。

ただし、私どものような専門家が提供するサービスなどのように、きちんと全てのメリット、デメリットを説明しておく必要がある場合もあります。
この場合には、全てメリットとデメリットを総合して考えても、メリットの方がデメリットを上回るという提案のやり方になります。

ここで、少し話しが脱線しますが、値段交渉のコツについても、述べておきます。
値段交渉のコツは、譲歩できるラインの事前設定にあります。
そのためには、あらかじめ自分の譲歩できる金額の範囲を決めておくことが必要です。
これを決めておかないと、交渉はできません。
この自分が決めた譲歩できる金額の範囲内で、値段について話し合うのが値段交渉です。
この範囲は、価格の相場がある場合には、その相場に対するプラス、マイナスで考えることになります。

値段交渉の最初の提案は、譲歩できるラインの2~3割増しの金額から始めることが多いです。
初めの提示金額が相手にとって高すぎると、そもそも検討もできないとして、ご破算になるおそれがあります。
かといって、逆に初めから、譲歩できるギリギリの金額を提示すると、相手の譲歩の度合い(幅)に応じた譲歩をこちらができなくなってしまいます。
もっとも、相手の交渉能力を見てということにはなります。
上記は、同等の交渉能力がある場合が前提です。

一般には、やはり交渉の決裂を避けたい方(合意を成立させたい方)が、より譲歩を迫られます。
なので、この決裂を回避したいというのを気取られないようにする必要があります。
あと、値段交渉の肝は、最初の金額提示を先に相手方からさせるようにもっていくことです。

そのほか、金額提示・提案につき、不要な誤解を回避するためには書面化(見積書・提案書)することが考えられます。
見積書などで、不確定要素がある場合には、現時点のもので、変更がありうることを明記することも必要です。

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上手く決断を迫る方法

上手く相手の話を聞く立場から、自分が話す立場に転換させることができて、こちらのペースで話しを進められたとして、交渉ごとでは、最後には、相手に何らかの決断なり、選択をしてもらうことが多いと思われます。

そこで、最後のスキル・ノウハウ、テクニックは、上手く決断を迫る方法についてになります。

相手が、決断するにあたって、迷っているような場合には、まずは、相手が何で迷っているのかを明らかにする必要があります。
それを明らかにする手段として、それまでの交渉過程を整理するということをします。
相手も明確に自分が何で迷っているのか整理できていない場合もよくあることです。
「一度、これまでのお話を整理してみましょう。」と伝え、それまでの交渉過程で、双方がいくつかの譲歩や判断、決断を積み重ねてきているはずなので、これらを整理することで、最終決断のために判断すべきことを絞り込み、はっきりとさせます。

そして、相手に決断なり、選択をしてもらう最も有効な方法は、二者択一に持ち込む(選択肢を絞り込む)ことです。
理想的なのは、最終決断のために判断すべきことについて、相手に二者択一が迫れるように交渉過程の整理ができることです。

人は選択肢が多ければ多いほど迷います。
なので、二者択一を迫られると決断しやすくなります。
ただし、よくよく考えれば、世の中に二者択一を迫られるような状況というのはまれな状況です。
大抵は、選択肢は数多くあるけれども、判断者が、その時点では、主観的に二者択一を迫られた状況になるだけです。
こういった状況を作出することになります。

ただし、決して、無理矢理に相手を二者択一に追い込むわけではないことに注意してください。
交渉を通じて、お互いに譲歩や決断を積み重ねた結果として、相手が主観的に二者択一を迫られた状況になるようにするというのがみそです。

また、このようにそれまでの交渉過程を整理して、相手に二者択一を迫れる(選択肢を絞り込める)状況になるか否かは、相手に最終決断を迫るのに機が熟しているかを見極めることにもなります。
整理をしても選択肢が絞り込めないようなら、まだ機が熟していなかったということになります。

このようにして、二者択一に持ち込む(選択肢を絞り込む)ことができたなら、次に大切なことは、相手に適度な考慮期間を与えることです。
与える考慮期間は、1週間程度がベストです。
これは、相手を納得させるための期間です。

この期間が長すぎると、それまで交渉を通じて作出した主観的な二者択一の状況から相手が離脱してしまうおそれがあります。
相手が思い直すということです。
しかし、それでも即断を求めるのはだめです。
あくまで、相手が考えて、自ら選択したのだと納得してもらう必要があります。
つまり、相手に自分自身で考え、判断する時間があったのだという事実を確認させる必要があるのです。
これは、相手が押しつけられたという認識をわずかでも持ってしまうと、後で撤回されるおそれがあるからです。

なお、仮に、相手が撤回してきた場合には、撤回の理由を明らかにして対処することになります。
撤回の理由が、まだ迷っていた事項があったということであれば、それを特定して解決します。
これに対し、相手がよく考えて撤回してきたような場合は、撤回の理由が明らかにならなくても、見込みなしとしてあきらめるしかありません。
たとえこれといった理由がないようでも、いったんよく考えて相手のなした決断は容易には覆せないからです。

ただし、撤回により今後同一条件での話ができないのであれば、その旨を相手に明言しておく必要があります。
いったん決断したことを一方的に撤回してきたのですから、後日相手の気が変わっても、再度これまでと同じ条件で話をする義務はありません。

クレーム対応の方法

最後に、クレームに上手く対応するためのノウハウについて述べます。

クレーム処理の基本的な心構えは、相手の真意を把握して、常識的な結論を出すということです。
つまり、相手がどのような要求をしてきても、クレームの前提となる事実を正しく判断して、一般的に誰もが妥当であると受け容れることのできるような結論を出すということです。

このような抽象的な話では、具体的に何をすれば良いかは分からないでしょうから、まずは、このようにすれば、誰でも対応ができるようになるという方法についてお伝えします。

その方法とは、クレームがあった場合、そのクレームが次の3つのうちのどの類型に当てはまるのかの予測を立てて対応していくことです。
①謝罪を求めるもの。
②説明を求めるもの。
③解決を求めるもの。

クレームには、これらの類型のうちの1つにだけに該当するもの、これらのうちの2つ、あるいは全てに該当する場合があります。
クレームを受けた場合は、まずどの類型に当たるのかの予測を立てることになります。
そして、それぞれの類型に応じて、適切な対応をすることが大切です。

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クレーム対応・謝罪を求めるもの

まずは、謝罪を求めるものから説明します。

典型的なのは、対応が悪い、態度が悪いといったクレームです。

結論から言うと、このようなクレームに対しては、「不快な思いをさせてしまいましたことをお詫びいたします。」と謝罪すれば、それで足りると考えます。

ここでのポイントは、実際に、対応がどうであったのか、態度がどうであったのかには立ち入らないことです。

不快と感じるかどうかは、当然、人によって異なります。
そのため、相手が不快に思ったのであれば、実際にどうであったのかを詮索することは無意味です。
したがって、ただ「不快な思いをさせたことを謝罪する」だけで十分ということになります。

このとき、それ以上に、「失礼なことをいたしまして」などといった非を認めるような言葉は使うべきではありません。
ただし、明らかに失礼な対応をしていたり、失礼な態度を取っていたような場合には、素直に、失礼であったことも、きちんと謝罪すべきです。

クレーム対応・説明を求めるもの

次に、説明を求めるものです。
典型的なのは、説明が不十分であった、説明を受けていないといったクレームです。

例えば、スマーフォンの契約で、契約当初の割引を受けるためには、一定期間あるオプションを付ける必要があるが、その期間経過後は自分でそのオプションを解約しないと当初聞いていた安い月額料金にはならないという場合、そうした説明を受けたかどうか、説明はあったが十分であったかどうかといったクレームが考えられます。

このようなクレームに対しては、たとえ実際には、既に十分な説明をしていたとしても、再度説明をやり直すしかありません。
現実には、相手がよく聞いていなかっただけというケースも多いのですが、それでも、最低限、もう一度は説明をすることになります。

ここでのポイントは、同じようなクレームを何度も繰り返されないようにすることにあります。
そのためには、口頭で説明したのと同じ内容を記載した書面(説明書)を手渡すのが有効です。
これだけでも十分ですが、できれば別に確認書にも署名をもらうとさらに良いです。
この確認書というのは、説明書に書かれている説明を確かに受けましたという内容を記載した書面で、これに日付と署名をもらえればベストです。

ただし、説明書を渡すからといって、口頭での説明をはしょるなどしてはいけません。

クレーム対応・解決を求めるもの

最後は、解決を求めるものです。
典型的なのは、販売した商品に欠陥があったといったクレームです。

このようなクレームに対しては、まずはその商品を預かって、欠陥の有無を調査し、その結果を報告することになります。

ここでのポイントは、メールや電話で、相手に対する報告をできるだけ速やかに行うことです。
それは、相手にきちんとした対応をしているということを伝え、放っておかれているのではないかという不満を持たさないようにするということです。
これを怠ると、さらなるクレームを生み出すことになるので、注意が必要です。

そして、修理等が必要な場合には、それにかかる期間も速やかに報告して、あとはその修理等を実行するだけです。

こういう場面では、不当な要求をする人も出てきます
これは、先の①謝罪を求めるもの、②説明を求めるものでも、あるかもしれません。

例えば、販売した商品に欠陥があった例では、修理ではなくて新品に交換して、さらに代金の一部返金せよとか、店員の対応が悪かった例では、社長自ら謝罪をしろとか、説明が不十分な例では、支払った料金を全額返金せよといったものが考えられます。

しかし、そのような不当な要求には決して応じてはなりません。
人がこのような不当な要求や請求を行うのは、自分には全く落ち度がないにもかかわらず嫌な思いをさせられたことで相手よりも優位に立ち、自分の言い分は全て正しく、相手はそれを全て受け入れるべきだという誤った思い込みにとらわれてしまうからです。
さらに、相手が当初から不当な利益を得ることを目的としている場合もあります。
このような相手の誤った思い込みや不当な目的に付き合う必要はありません。

クレーム対応・3つの類型のどれに当たるかの見分け方

クレームには、これらの3つの類型のうちの1つにだけに該当するもの、これらのうちの2つ、あるいは全てに該当する場合もあるで、見分け方と言っても、あくまで目安になるといった程度に理解しておいてください。

クレームがあった場合、その訴えのメインになるものが、次のどれにあたると思われるかで考えます。

「嫌な思いをした」という苦情めいたものであれば、謝罪を求めるものです。
「何か分からないことがある」という質問めいたものであれば、説明を求めるものです。
「~をしてくれ」という要求めいたものであれば、解決を求めるものです。

ただ、こればかりは対応をしていく中で、次第に分かってくる場合が多いので、予測をして対応をしつつ、間違っていたら修正をしていくしかありません。

クレーム対応・「誠意を見せろ」と言われた場合

次に、「誠意を見せろ」と言われたときの対応についてお伝えします。

先に結論から述べると、ポイントは次の2つです。
①具体的な要求を問いただす。
②きっぱりと断る。

「誠意を見せろ」という言葉は、悪質クレーマーの決め台詞です。
というのは、不当な要求をする際に、自ら金品の要求をすると、場合によっては恐喝罪などに問われるおそれがあるため、その代わりにこの言葉が使われれるのです。
この決め台詞が出てきた場合には、クレーム対応が長引くことを覚悟してください。

こちらが謝罪などをしてみたところで、「それでは誠意が足りない」と言って、悪質クレーマーは、自分の要求が満たされるまで際限なく、この言葉を使い続けてきます。

そもそも「誠意」などというものは、人によって異なり、客観化できないものです。
この決め台詞が出た際に、受け身になって、手っ取り早く済ませたいと思ってしまうと、相手の思うつぼで、最終的にこちらから、「金品提供」を申し出る羽目になります。
決して、不当な要求に屈して、こちらから金品での解決などを提示してはいけません。

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ここでの対応の仕方は、まずは、具体的な要求を問いただすことです。
まず、
「『誠意を見せる』とはどういうことですか?」
「具体的には何をすれば良いのですか?」
と問い、回答がなければ、次に、
「『誠意』とは、金品ですか?」
「金品以外だとすると、具体的には何を指すのですか?」
と問い、それでも回答がなければ、さらに、
「仮にお金で評価するとしたら、慰謝料という形であれば、いくらのことなのか教えてください」
と問いただします。

このように問いただすと、「それを考えるのが誠意だろうが」などと言われるかもしれません。
しかし、そのような場合には、開き直って、
「人によって『誠意』は異なりますので、私にはあなたにとっての『誠意』はいくら考えても分かりません。したがって、教えていただかないことには対応ができません。」
と言い放ってください。

ただし、それまでに社会的に相当な対応をしていることが前提となります。
それは、必要な謝罪や説明、対応などです。
そのような必要な謝罪や説明、対応をしたのに、それでも「誠意を見せろ」と言ってきているということは、社会的に相当な対応をしたのに、「許せない」と言ってきているにすぎませんから、開き直ってもかまいません。

次は、きっぱりと断ることです。
仮に、相手が何らかの要求を言ってきても、それは、不当な要求にすぎません。
既に、社会的に相当な対応をしているわけですから、それを超える要求は不当な要求ということになります。

したがって、
「できません。」
ときっぱりと断りましょう。

また、結局、相手が具体的な要求を明らかにしなかった場合にも、
「具体的な要求をしていただけないのであれば、これ以上対応はいたしません。」
ときっぱりと断りましょう。

クレーム対応・やってはいけないこと

最後に、私が、クレーム対応の際に極力やらないように指導している3つのことについてお伝えします。

その3つとは、
① 相手の支配する場所には行かない。
② 責任や義務を負う内容の言質を取られない。
③ その場で書面を書かない、署名をしない。
です。

まず1つ目の相手の支配する場所には行かないことから説明します。
これは交渉のためはもちろんのこと、謝罪のためであっても行かないよう指導しています。
相手の支配する場所とは、相手の住居、相手の会社、相手の事務所、相手の車の中などのことです。

まずは、こういう場所に行くと、身に危険の及ぶおそれがあります。
また、こういう場所に行くと軟禁されるおそれがあり、身の安全を守るために、これから説明する他の2つのやってはいけないことをする羽目になってしまいます。

よく、こういう場所に出掛けて行って怖い思いをしながらも、きちんと話をつけてきたというような経験談を話される方がいますが、クレーム対応において「武勇伝はいりません」。

できる限り電話でのやり取りで済ませるようにし、どうしても面談が必要となれば、ホテルの喫茶室など第三者の立ち入りが自由で、いつでも退席できる場所を設定するようにしてください。

次に、2つ目は、責任や義務を負う内容の言質をとられないことです。
基本的に相手との会話のやり取りについては、全て録音されるものと考えてください。

その上で、言ってはいけない台詞としては、以下のようなものがあります。
「全ての損害を賠償します。」
「きちんと対応をします。」
「しかるべき対応をします。」
「責任は取ります。」
「支払うべきものは支払います。」
「善処します。」
これらは、いずれも責任や義務を負う内容の台詞です。

厳しく追及されるとつい口にしてしまったり、あるいは社交儀礼的に口にしてしまうかもしれない台詞ですが、口にするのは厳禁です。
以上のような言質を取られてしまうと、後日、約束を破ったなどとしてさらなるクレームを生むおそれがあります。

また、いったん言ってしまったことを、後日覆すのはものすごくたいへんです。
せいぜい言っても良い台詞は、「検討します。」までです。

最後に、3つ目は、その場で書面を書かない、署名をしないことです。
クレーム対応のその場で、相手から「今から言うとおりに書け。」などと要求されて、言われるがままに書面を書いたり、相手の作った書面に署名をしないということです。
どのような内容の書面であっても、その場ではきっぱりと断ってください。

書面でした約束を後日覆すのは、本当にものすごくたいへんです。
なので、書面を書いたり、書面に署名するときには、時間をかけて十分に検討をしてからにしてください。


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