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やはりどうしても、ヒトコブラクダ層戦争とVIVANTが似ている

2021年に万城目学『ヒトコブラクダ層ぜっと』が刊行され、2023年夏に『VIVANT』が放送、11月に前者が『ヒトコブラクダ層戦争』として文庫本で帰ってくると、年末に『VIVANT』が再放送され、奇しくも2周目は近いタイミングでこの2つの作品を味わうことになった。別に比較せずともどちらもそれぞれに大好きであるが、どうしても似ているなと思うところがあり、せっかくだから書き並べてみる。


砂漠

VIVANTのCMをひと目見たとき、ヒトコブラクダ層ぜっとみたいだな、と思った。場所はヒトコブラクダ〜はイラク、VIVANTはモンゴルで異なるものの、どちらもアジアの広大な砂漠が舞台だ。昼夜の気温差や壮絶な砂嵐など、厳しい気候が描かれる。壮大な物語を、壮大な自然がドンと構えて受け止めている。そしてもちろん、両方ともラクダが出てくる。ラクダは道に迷うことなく行く先を示す、キーとなる存在、呑気で強くて愛らしい存在だ。

自衛隊

ヒトコブラクダ〜では主人公の三つ子が自衛隊に入隊させられる。それぞれ好きなものが全然違う三つ子は中学校卒業からそれぞれの道に進んだが、自衛隊で坊主頭を揃えて訓練し、一緒に湯船に入ったり食堂でごはんを食べるところが愛しい。休み中も早起きや早食いが抜けないところとか、後々まで自衛隊ならではの要素が入ってくるのも面白い。

対してVIVANTは主人公らが自衛隊関連の特殊組織に任じられている。こちらも時間の言い方が自衛隊風だったり、洗練された身のこなしが見られたりする。自衛隊というものに対してある種のエキゾチシズムが存在していて、それが活かされている感じがある。

特殊能力

どちらも主人公が特殊な能力を持っている。VIVANTのほうは物の重さが分かる特技に加え、努力によって手に入れた頭脳と身体能力。ヒトコブラクダ〜は長兄が透視、次兄があらゆる言語の聞き取り、末弟は未来予知ができる。VIVANTでは主人公は冷静沈着に能力をフル活用していくが、ヒトコブラクダ〜はそれぞれが自分の能力に気づいてから、使いこなしたり葛藤したりする長い道のりがあるのが見どころだ。この点では、VIVANTは主人公が視聴者を突き放してどんどん進んでいく魅力があるのに対し、ヒトコブラクダ〜はどこまでも人間らしく悩むところが主人公を近く感じさせ、魅力的だ。

VIVANTは主人公の能力が突き抜けているとあって、銃のコントロールが非常に正確だ。そのことが一つの物語のキーとなっており、実は銃を撃って当てていた場面、不意打ちで思わぬ人を撃つが急所を外す場面、わざと標的を外す場面など印象的なところがたくさんある。

対してヒトコブラクダ〜は意外な人物が銃で活躍する。極度の集中でスーパープレイを決めていくのだが、真面目で感情豊かなその人物が本気で銃を構えた顔つきの鋭さがかっこよくて忘れられない。

どちらも主人公に親がいない。その分、VIVANTの主人公は努力で道を切り拓いていくし、ヒトコブラクダ〜は三つ子が支え合って生きていく。子どもながらに自立しなければならなかった環境だからこその強さと脆さが、主人公たちにはある。

VIVANTの場合は主人公の孤独がもう一人の自分を生み出し、互いを頼りにして二人で補い合って強さを手に入れていく。ヒトコブラクダ〜の場合は三つ子が親子の役割も兄弟の役割も兼ねることで、普通の兄弟にはない強い絆を結んでいる。どちらの作品も、主人公たちは皆、背後の安心感がない状態だからこそ目の前にいるもう一人の自分や兄弟のことをしっかり見て、しっかり手を繋ぎ合っている。

仇討ち

親がいないとなると出生の秘密に迫るように物語は進んでいくのであるが、どちらも終盤で親の仇を目の前にする場面がある。手に汗握る、張り詰めた緊張感のある場面だ。そこで迎える結末に、どちらの作品も強い願いが込められていると感じる。物語の後味はどちらも清々しい。

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パスポート無しで現代の大冒険に出るならこの作品、と大声で言えるのがこの2作品だ。私もこれから何度も出会い直したいと思っている。

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