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鴨川ホルモー、ワンスモア ワンスモアレポート

鴨川ホルモー、ワンスモアを観劇した感想を以前の記事に綴った。11日後、もう一度観てきたので気づいたことを記したい。世に言う「追いホルモー」である。なお、今回は劇の内容に触れていく。

裏芝居

1度目の観劇ではメインストーリーを追うだけで精一杯だったが、台詞のある人以外も裏芝居をしているわけで、今回はそこも多少気づくことができた。

べろべろばあでの新歓コンパで、主人公の安倍が早良京子の鼻に一目惚れするところから物語は走り出すのであるが、このとき早良京子は芦屋満に一目惚れしている。さらにこのとき、もう一つの一目惚れがある。そのベクトルは楠木ふみから安倍へ向かっているのだが、このシーン、もちろん安倍はその視線には気づいていない。1回目の観劇のとき、安倍たちの挙動を追うのに精一杯で、鈍感な安倍同様に気づいていなかったが、このとき楠木ふみがずっと安倍のほうを気にしている。一目惚れしているのがちゃんと分かって胸がきゅっとなった。

また、話が進むと鴨川ホルモーは早良京子というサークルクラッシャーによって京大青龍会が二分することにより、"鴨川十七条ホルモー"へと形を変える。サークル4つの戦いから、サークルにつき2チーム、合計8チームの戦いとなる。鴨川十七条ホルモーの最終決戦は京大青龍会ブルースと京大青龍会新選組の勝負だった。この最終決戦において、楠木ふみが安倍をデートに誘うシーンがある。己一人の想いばかり見つめていた主人公が、仲間たちの互いへの信頼に気づき、あんなに心を奪われていた早良京子の鼻も、あんなにいがみ合っていた芦屋満もどうでもよくなる。そして、楠木の誘いに対し「よろこんで」と返事するのだ。このとき後ろで高村が、その清々しい返事に度肝を抜かれているのが面白い。相手チームに圧され気味のホルモーの試合中にそんな会話をしている場合なのか?と思ってしまいそうであるが、そんな疑問を跳ね返すくらい、爽やか百点のシーンだ。台風一過の青空に負けないくらい眩しい。

歌と映像の演出

2回に渡り早良京子が安倍の家を訪れて勝手に眠ってしまい、安倍がその鼻に触れたい衝動と闘うことになるシーンがある。これらのシーンにおいて、バックでべろべろばあ店長がさだまさしあるいは山崎まさよしの曲の替え歌を歌い、それによって誘惑が表現される。そのとき、舞台全体にカラフルな映像が投影されるのだが、これがよく見たら1回目は鼻と植物らしきものがうごめいている。2回目は「セロリ」という曲なので、鼻とセロリがうごめく映像である。歌と映像で舞台は誘惑の海一色で、ある種陶酔状態のようなものが作られる。そして、この誘惑との闘いのモノローグはつらつらと語られるのであるが、その中で「地軸が転回する」という表現がある。そのタイミングで映像がグルっと90度くらい回転して、モノローグと一致する様は見ていて美しかった。

紙類の小道具

ホルモーという競技がこの物語の中にしかないものであり、かつルールがかなりきっちり決まったものであるため、どうしても説明が必要な場面が多々ある。プロジェクターも多用された一方で、意外にも紙に手書きされた図も用いられた。ヨーロッパ企画の角田さんがデザインしたオニがたくさん描かれていてかわいかった。その紙は裏に「〇〇説明会」みたいな記載があり、大学内に貼られていた説明会ポスターを裏紙として用いている風になっていた。また、二人静が結ぶ「北山議定書」は、ちゃんとスーパーのチラシの裏紙だった。細かいところまで世界観が行き届いている。

メタ構造

本来いるはずのないところに登場人物が出てくるケースが何度かあった。舞台は基本的には鴨川土手であり、それが色々な工夫によってシーン毎に違う場所に見えるようになる。その鴨川土手の下に当たる場所で何かが起こっているときに、上でなぜか誰かが見ているというパターンがいくつかあった。そのときの"土手上"は同じ舞台上でありながら、どちらかというと客席に近い立場で物語を外から覗いているような感じで、演劇だから不思議と成立するメタ構造だと思った。

安倍の家に早良さんが来るシーンは、その前の河原でのシーンからべろべろばあ店長が"上"からずっと見守って、安倍に合図(早良さんにグイグイいけよ的な)を送っている。土手なら万に一つ、上から見ていることもありうるが、そのあと場所が安倍の家に移動してもなお、その場所から見守り続けていて、それはかなりありえない設定である。それでも店長の仕草の可笑しさでなぜか成立してしまっているのが面白かった。

楠木ふみが安倍に告白するシーンでは、楠木のことが好きな松永が"上"に出現して、安倍への嫉妬をぶつけるという「茶化し」が入る。恋を正面から描くのが恥ずかしい上田さんの照れ隠しなのだが、これも彼がそこに実際に出くわすというよりは、ストーリーの外から邪魔しに来ているという感じに近いと思う。「舞台袖に捌けたいけど想いが溢れすぎてなかなか立ち去れない」演技が大ウケで、体感では初日より2回目観たときのほうが捌けまでが長かった。松永の悔しさを全身で表現しまくっていた。

万城目リスペクト

べろべろばあ店長の服が京大青龍会の青、というのは気づいていたが、ひょうたん柄だったのは前の方の席だったから気づくことができた!ひょうたんといえば万城目学である。リスペクトのこもった衣装にテンションが上がった。

もちろんそれだけではなく、原作の台詞をそのまま使ったり、『ホルモー六景』含め原作を具に観察することにより細かな要素を拾い上げているところもリスペクトに満ちている。役者の数や時間の都合で捨てなければならない要素を捨てる前にもう一度向き合って、残せる部分は拾っている感じがして腎臓みたいだと思った。

おまけトークショー

この日は終演後におまけトークショーがある回だった。中川大輔・八木莉可子・石田剛太・土佐和成が登壇し上白石萌歌がゲストだった。萌歌氏はこれを楽しみに色々なことを乗り越えたくらいすごく観劇を楽しみにしていたとのことで、劇場が京都と化して青春でいっぱいだったと絶賛していた。観劇直後の興奮そのままに、でも感じたことを的確に伝わる形でアウトプットできるというのは、表現を仕事にしている人はさすがだと思った。また、八木莉可子さんは今回が初の舞台作品参加とのこと。稽古場でも「楽しい?」と色々な人に聞かれたそうで、作品の完成度だけでなく自分が楽しいかどうかも気にしてもらえる現場ってあるんだ、とありがたく思ったのだそうだ。普段の映像作品では作品の完成度が最優先な厳しい環境で表現と向き合っているのだろうと想像する。役者の方々が真剣にこの作品と向き合っているのが伝わってくる一方で、変に無理をしていなくて楽しんでいる雰囲気は確かにあるので、そういう部分も含めてこの作品が好きだなと改めて思った。

おわりに

以上、2回目の観劇で気づいたことや感じたことを列挙してみた。1回だけでも十分すぎるくらい満足を味わっていたけど、2回観たことで得られた気づきもたくさんあったのでよかった。人生を変えたと言ってもよい作品が目の前に顕現する様を目撃できて幸せだった。前回の観劇時に万城目さんに話しかけられなかったことが心残りだが、上田さんと万城目さんによる感想配信が予定されているようなのでこちらも楽しみだ。


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