【ラジオそして読書】日曜夜、宇宙、言語学
5月12日の深夜はInterFMの番組、藤原さくらのHERE COMES THE MOONを久々に聴いた。
最近デュオとしての活動もしている藤原さくらさんはこの日はデュオの曲をたくさん紹介していた。デュオはソロとどう違うかという質問に、「心強い」とシンプルに答えていて、実力あるプロの人でもそんな普通の考えを持つんだな、と思った。一人のほうが合わせる努力が要らないし自由だからやりやすいという人もいそうだけど、そんなふうに言えるのは相手をとても信頼しているのだろうなと思ってその関係性が素敵だなと思った。
藤原さくらさんの普通にしゃべるときの声は低めでなんか聴いていて落ち着く。日曜深夜という心が不安定になりやすい時間帯にぴったりだ。そんな彼女はリスナーに対してプラネタリウムを見に行く(もしくは本物の星を見に行く)ことをおすすめしていた。宇宙のデカさを感じることで、「今別に地球に遊びに来ているだけだし」と思えるらしい。色々吹き飛ばすようなカラッとした考え方が心地よかった。
そして、リスナーからのお便りで「最近、甥の名付け親になった」という内容のものがあった。これを受けてさくらさんは、川原繁人著『フリースタイル言語学』なる本をおすすめしていた。上白石萌音さんに勧めてもらったとのことで、超おもしろい!と言っていた。なぜこの本が出てきたかというと、共鳴音が多く含まれるとかわいい印象の名前になり、阻害音が多く含まれるとかっこいい印象の名前になるという内容が記されていたらしいのだ。最近、また文学部の価値が劣勢になりつつあるように感じる一方で言語学は微妙に流行りだしているのもあるしよい機会だと思ったので、読んでみることにした。
で、読んでみたところなぜか私は泣いてしまった。目次は「思い出編」「家族編」「ガチ研究紹介編」「挑戦編」「雑談編」「お悩み編」となっていて、言語学の中のジャンルとかではなくエピソードのジャンルで章立てされている感じだ。語り口も軽妙で、エピソードトークを軽く聴く感じで気軽に読めるように工夫されている。
「思い出編」ではメイド喫茶でのメイド名の研究で上記のラジオで言及されていたことを突き止めたということや、日本語ラップの韻の踏み方について本気で研究してそれまでの通説に反論したことが綴られている。キャッチーな内容で興味を持って読めるし、専門用語を使いつつもちゃんと理解にたどり着けるようになっていてぐんぐん読めた。
「家族編」ではプリキュアの名前の研究に言及している。プリキュアの名前は両唇破裂音で始まることが多いというのはなるほどと思ったが、それを著者の娘も理解して毎年家族でその年のプリキュアの名前が発表されるのを楽しみにしているという話は特殊すぎる。でも日本に一組くらいそんな家族がいてもいいと思うし、好きなエピソードだ。
あと、この章では著者の妻の実家がある東北地方の方言に言及しているが、その中で言語や方言に優劣はないことをはっきり言ってくれているのも嬉しかった。
「ガチ研究紹介編」ではポケモンの名前を研究して進化に伴う名前の変化の規則性を考察している。メイド名、プリキュアの話にも通じるこの「音象徴」という概念は知らなかったが、確かに存在しているというのは理解できて、でも人の感覚だから数値化して学問的に論じるのは難しそうに感じるところ、それに取り組んでいるのはすごいし興味深いと思った。
ここまでは著者が日常から疑問に思ったことを研究にして成果を挙げてきた様子を綴ってあり、言語学を学んでいなくても楽しんで読むことができるようになっている。ここまでの時点で面白いなと思いながら読んでいた。でも私が本当に感動したのは終盤で、研究の意味とは?と著者が考え出すところである。言語学とかは世間の理解を得にくいところがあって、「それをやって何になる」的なことを言われがちだ。文理問わず分かりやすく「世の中の役に立つ」と言い切れない学問は日本においては理解されずお金が出なくなってきているように感じる。基礎研究を軽く見ては終わりだろうと思うが、著者はそんなふうに嘆くだけでなく真剣に向き合って悩んで、自分なりの解を見出そうとしていた。目の前の研究に夢中になるだけでなく視野を広く持ち、困っている人のために研究を応用したり、普通の人に分かるようにこういう書籍を出して研究の世界を開かれたものにしようとしたり、その姿勢がとても素敵だと思った。読み終わる頃には、キャッチーな研究内容や軽妙な語り口のせいだけではなしに、この人のことを好きになっていた。「おわりに」でいちいち「〜したときに涙を流した」的な記述が続くのでつられてしまったのかもしれないが、謝辞に娘たち2人の名前が出てきたときに私も涙が出てきた。小説でもめったに泣かないので、してやられたと思った。
普段は小説しか読まないけど、寄り道してこんな本も読んでみてよかったと思った。ラジオのおすすめに従う読書法、はまりそうだ。