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全部言ってくれている最強小説

私にとって女4人組小説といえばアン・ブラッシェアーズの『トラベリング・パンツ』シリーズで、夏休みの間別々に過ごす10代の女の子たちがそれぞれ恋愛して傷ついて、最後は結局友情が最強、というところに落ち着くその物語が大好きだった。小中学生のときにその小説を読んでいて、時を経た今新たな女4人組小説に出会った。それが小林早代子『たぶん私たち一生最強』である。

書店で広い面積に積まれたこの本は装丁が『成瀬は天下を取りにいく』と同じ香りを放っていて目を引いた。帯に惹かれ、「一生最強」とかいうある種安易さもあってハイテンションなタイトルも心をくすぐって、思わず購入してしまう。開いてみるとそこには26歳の女たち。まさに同世代だ。高校の同級生だった4人はしょっちゅう集まってはべろべろになりながら愚痴や冗談を言い合う仲だった。ある日、そのうちの1人が4人でのシェアハウスを提案するところから全ては始まる。

同性の友達同士のシェアハウスって大抵は期限付きだ。酔っ払いの勢いで話が盛り上がっても、あとから本当に実行するのかなという雰囲気になったり、誰かが抜け出すのではないかと危惧したり、関係ない人たちになぜか心配されたりするところがいかにも実際に起こりそうでリアルだ。「もうこんなに色々悩まないといけないなら、いっそ気の知れた友達同士で暮らし続けたい」というようなことを、20代後半以降の女性で考えたことのある人は少なくないのではないかと思う。この物語はそれを実現させたときにこうなるというシミュレーションでもあるのだ。

例えば女は30歳を過ぎてライフステージの枝分かれの時期が来ると友達が減るとか、結婚や出産という王道の幸せらしきものを手にするべきか否か悩むとか。これらは今までにも散々扱われてきたテーマだと思う。でもこの物語は新鮮さを伴ってこれらのテーマを描いていて、そこに希望がある。それでありながら押し付けがましくなくて淡々と日々が描かれているのがよい。女4人は気心知れた仲だけど、全てを打ち明け合っているわけではなく、それぞれが胸に秘めていることもある。一緒に住んでいて近くにいるからこその適度な距離感はなるほどと思うようなところがあった。それらの悩みはそれぞれ、少なからず私も考えたり想像したことのあるものが多く、この小説は「全部言ってくれているな」という驚きと、体内の澱を排出したような爽快感、悩んでもいいんだという安堵があった。

冒頭で書いた『トラベリング・パンツ』にはスピンオフがあって、それは『フレンズ・ツリー』という作品だ。『トラベリング・パンツ』の4人はそれぞれ体型が違うのに、シェアしているそのジーンズはなぜか4人ともにフィットするという魔法があった。『フレンズ・ツリー』に出てくる女子たちは伝説の4人組に憧れてジーンズをシェアするけど、そんな魔法のジーンズなんてなくてみんなサイズの合わないものを履くことになる。だからそれは「冴えない私たちだけど、私たちは私たち」という感じの現実味のある物語だった。

『たぶん私たち一生最強』における6章の「女と女と女と女」は、『フレンズ・ツリー』みたいなところがあると思った。彼女たちの子どもが語り手となるストーリーである。母である女4人組のギラついた人生、いかにも自分の人生の主人公は自分、という生き方に対して、子どもは淡々と日々を生きつつもこれから生きていく道のりは見えていない状態だ。でも、彼女たちの子どもだからって脇役になる必要はない。出自にアイデンティティの多くを縛られる必要はない。そう気づいたことで、家族の愛を受け取りつつも「私は私」と線を引いて、自分の人生を主人公として生きていこうと決意することになる。その姿が印象的だった。そこまで描ききってくれた作者に感謝したい。

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