見出し画像

汚れなき悪戯

ウー、ワンーワンと
何処からか子犬のような鳴き声がする

雨の土曜日の午前11時

商店街に通じる細い路地

辺りはトラックから荷下ろしする
飛脚のお兄さん二人

黒い箱を抱えてるけど
まさかその中から?

違う

もう少し左から

ワンーワンワン

また声が聞こえる

声?

そうだ、犬の遠吠えというよりは
甲高さが子供の声に近くて

でも辺りには
犬を散歩する人も
子供も姿は見当たらない

ワン!

もっと上だ

左斜上を見上げると

左手のお寿司屋の二階から

DSだかSWITCHだかのコントローラー片手に
3歳位の男の子が
ニンマリ笑って
私を見下ろしているのと目が合う

オバサン
気づいたね?
僕はココだよ

そうイタズラっぽく笑いながら
部屋の中に消えていった

声の主はお主か笑
お見事、騙されたよ
座布団山田くんに運んでもらうわ

虹を見上げる人でありたいと
以前書いたことがあるけど
小さな子供の仕掛けたトラップに
一緒に乗っかる大人でありたいし

少年とオバサンが雨の土曜日に
ほんの短く遊んで
交わしたのは言葉でなくて
視線と音声だけで
だけど心になにか灯る気がして
両肩から下げた買い物袋も
ちょっと軽くなる

マルセリーノの歌を貼り付けて
少年の瞳を思い出す





この記事が参加している募集

この街がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?