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「これ買ってなかったら、いまの仕事してなかったかも。」―新居浜Jeandore伊藤さんの「AIWA CS-80」

 ほかのメーカーのもいっぱいあったんだけど、見た目のカッコよさと、値段と。アイワは二流メーカーのイメージだけど、これはけっこう評判よかったから。値段は忘れましたね、なんぼしたかなあ。ほかに、ダブルデッキもあったりしたね。当時6万くらいだった?お年玉を貯めてこれは買ったのを覚えてますね。あみん、とかが流行ってた時代ですね。

 新居浜市・登道南商店街の、かつて映画館「新宝館」だった場所を改装して営業しているライブハウス「Jeandore」。地元出身のバンド「LUNKHEAD」やチバユウスケ率いる「The Birthday」、元「BLANKEY JET CITY」の中村達也など、いまでも名だたるアーティストたちがライブを行う新居浜の‘ロックの聖地’とも言えるライブハウス。その「Jeandore」代表の伊藤俊一さんのかつての愛機が、「AIWA CS-80」です。

 買ったのは、中2の終わりくらい。必死で、こういうのがいっぱい並んでるのを見に行ったから。四国電業に。『異邦人』とか流行ってた頃。相当古い。
(主にはラジオを聞く用ですか?)
そう、ラジオをこれで録ってましたね。エアチェックいうて。ほかに、曲を手に入れる方法がなかったんで。FMは、昼の3時くらいから番組があって、夕方も6時くらいからあって。もう必死に録音してましたね。

 アイワは昭和26(1951)年に創業し、紆余曲折の末、今ではブランド名のみが残るオーディオ機器メーカー。他社に比べてコストパフォーマンスのよい商品展開で業績を拡大していた一方、国産初のコンパクトカセットレコーダーを開発するなど、たしかな技術力をもつ中堅メーカーでした。
 中でも「CS-80」は、昭和54(1979)年発売のアイワ製ラジカセの中ではハイスペックな部類で、発売当初の定価は66,800円。いまの物価に当てはめると95,000円ほど。「お年玉をためて買った」という言葉にも納得の、なかなかの高級品です。
 お年玉を握りしめた伊藤少年が必死に品定めをしたのが、今はなき西条の「四国電業」。今治に本社を構え、東予地区を中心に店舗を展開していた電器店です。西条店は今の「西条郵便局」の東側あたり、かつての映画館「西条大劇」跡地を活用して立地していました。
 1970年代末から1980年代にかけては、いわゆる「ハイテクブーム」真っ盛り。この「CS-80」のような、直線的・格子的で、機能的な要素を強調する‘ハイテク’なデザインの各社ラジカセが、四国電業の店頭にも数多く並んでいたと容易に想像できます。
 「Jeandore」の機材倉庫から、わざわざこの「CS-80」を引っ張り出して下さった伊藤さん。しみじみと、こう語ります。

 言われてみたら、これを買ってなかったら、いまの仕事をしてなかったかも、という感じはしますね。これを使って、ほんとにいろんなのを聞いて。それを思い出しますね。なんでこれだけ残ってるんでしょうね。これだけがまあ、なんで残ってるか。ってことは、大事だったということなんだと思います。相当これで、カセットを作ったと思いますもん。

 他の方々も異口同音に口にする「エアチェック」を入り口に、音楽にどっぷりのめり込んだ少年が今では、ライブハウスの主として、新居浜の音楽文化を支えています。

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