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彼と“ベランダBBQ”で感じる夏


「んーー…あつい。」

耳元で聞こえる、愛しい人の苦しそうな声。

セミダブルベッドの窓側に寝ている彼の顔にはちょうど朝日が差し込む。

今日の日差しは一段と強く、暑かったようで、薄がけの布団は全てわたしの体の上にあった。


彼より一足先に目を覚ましたわたしはテレビをつけた。


広めのワンルームに響くテレビの音で、彼ももぞもぞと体を起こし、眠い目をこする。

かわいい。



もともと一人暮らしをしていた私の部屋に、その頃学生だった彼が転がり込んで、流れるように同棲することとなった。

同棲して1年半が経ち、友人からの「ワンルームで同棲ってしんどくない?」の質問にはもう慣れた。

一般的な恋人たちは、一緒に住んでいる中でも1人の時間を必要とするらしいが、わたしはどうやらふつうじゃないらしい。

おそらく彼も。


仕事で帰りが遅くなっても一緒にご飯を食べようと待ってくれている彼。

わざわざLUSHで新しい入浴剤を買ってきて、一緒にお風呂に入る口実を作る彼。

休みの日もわたしと有意義な時間を過ごすために、ベッドの上ではいつも旅雑誌を読んでいる彼。

彼曰く、コンビニで買い物をするとつい目に入り、買ってしまうそうだ。


そんなわたしたちの耳に入ったズムサタの辻岡義堂アナの声。

「今日は夏日ですね〜。お出かけ日和と言いたいところですが…」

ふーん。今日は暑いのか。

今年は春を感じられなかったなあ。

夏はちゃんと楽しめるのかな?


自粛生活が続き、わたしはここ最近気持ちが沈みがちだ。


「よーし!今日は夏だ!エンジョイサマー!」彼はいきなり大きな声を出し、布団からバサッと出てきた。

義堂さんのたった一言で、なんて単純なんだ彼は。

まあそんなところが可愛いなと思って年下の彼と付き合ったのだけれど。

「天気はいいけど、エンジョイできるほどの外出なんてできないよ?」

苦笑いで言うわたしに彼は得意げな表情を見せた。

「ちっちっち、わかってないな〜。とにかく、ほら!ぼくトイレ掃除とお風呂掃除するから、お部屋の掃除お願いね!」

やけに張り切ってるなあ。

「あ!洗濯はしないでね!明日ぼくがやるから!とにかく、早く終わらせて外に出る準備して!」

なにを企んでるのかは知らないが、週末の家事の分担はいつものことなので、わたしは部屋中に掃除機をかけ、クイックルワイパーをし、昨日の夜の洗い物も済ませた。

身支度と水回りの掃除を終えた彼の手には財布とエコバッグ。

なんだ。スーパーに行くのか。お菓子でも買い込んでスマブラ対決でもするつもりだな…?


身支度をしたといっても、2人ともほぼ部屋着にビーサンだ。

だが、どんなに近場でも晴れた日に半袖で外出できるのはとてもワクワクする。

スーパーにつき、買い物かごに次々と入る品物を見るだけで彼がこれからなにをしようとしているか分かった。

お菓子を爆食いしながらのスマブラではない。


家に到着して、買ったものを冷蔵庫に入れていく。

牛タン、カルビ、レタス、豚バラ、ソーセージ、焼肉のタレ、ビール

どうやら今日は昼間から焼肉パーティーを開くようだ。


キッチンの上の戸棚からホットプレートを出すわたしの後ろで、クローゼットからキャンプ用の椅子と机を出す彼。

そして、ベランダにそれらを置いた。


ニヤニヤニヤニヤしながらこっちを見ている。

「なんなのよ。何する気?」


ニヤニヤニヤニヤ。

なんて楽しそうなんだこの人は。


「じゃーーん!今日はベランダでバーベキューしまーす!!」


ああ。そうだ。この屈託のない笑顔。

“ベランダバーベキュー”というホットワードが入ってこないほど、わたしは彼の笑顔が好きなのだ。


チャキチャキと準備を進めているかと思えば、

「ねえねえ、タンにかけるネギだれは作ってね〜」と上手におねだりする彼に、わたしはもう胸までいっぱいだ。


ワンルームに申し訳程度についた小さな小さなベランダ。

そうか、だから洗濯物は明日なんだね。

12時に缶ビールで乾杯。

「なにこのネギだれ、うんまー!」

近所迷惑になるくらいの大きな声で叫ぶ彼。

わたしも叫びたい。


いつもわたしのことを思ってくれてありがとう。大好きだー!

ってね。

春は感じることができなかったけど、今年は例年より多く、夏を楽しむことができそうです。






まあ、全部妄想なんですけどね。

ちゃんちゃん。

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