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嘘はつかない方が良い。

別府から入居した利用者さんが少しづつホームに溶け込んでいる様に感じます。
来てすぐの数日はホームを「大分」と偽ってホームに居てもらいましたが、先日、
「ここは東京」と告げた事で
ホームを信頼してくれた
本人が前向きになった
様子が見られているので、その経緯をお伝えしようと思います。

来た経緯

  • 認知症で介護度1

  • 別府で一人暮らし

  • 医療・介護サービスは拒否して、医者も薬を出せず

  • お金や物をあげたり無くしたりしてしまって毎日息子に電話してくる

  • 実際に物が無くなっている

  • 「絶対別府から離れたくない」と言い張る

そんな方なので、説得しても聞く耳を持たないし、忘れてしまうしで
無理やり連れて来た経緯がありました。

対策

そして、その対策として
家族が毎日来て一緒に過ごしたり、
みんなで統一した対応をしようと取り組んでいるところでした。

対策の結果

嘘の上塗りになってしまった

家族に毎日ホームに来てもらう事や家族・職員間で対応を統一した事は良かったと思うのですが、
本人が東京にいる事を絶対に認めないので、
当初、ここは、別府の近くの「大分市」という事にしていました。

対策を始めた数日はよかったのですが、
そのうち、別府には友達がいるから等諸々の理由で
「別府に帰ります」
となります。

そうなると、
「バスは大分交通ですか?」
「電車は通っていますか?」
と聞かれ、
職員は嘘を付く羽目になります。
嘘を付くと絶対に粗がでるので、
本人は職員を疑うし、
はっきりした答えが返ってこないから埒が明かず何度も何度も尋ねるし、
最終的には苛立って出て行こうとします。

生活が始まらない

本人が別府に帰るつもりであるうちは
ホームをホテルかどこかだと思っているので、
好きだった生け花も詩吟もやる余地がありません。
本人は帰ってから仲間とやると思っているので当然です。

職員も帰ろうとする事への対応に追われます。
別府や大分の嘘を付く事はとても難しくもあります。
結果、利用者さんは職員を信用しなくなってしまいます。

本人に伝える事にした

外に出て行った

ある日、朝から「帰る」と言っており、胡麻化したりしていたのですが、
結局、午後に外に出て行きました。
外に出たら止める事はできません。
自分で別府まで帰ると言います。
統一したストーリーでは「大分市」なのですから、電車とバスでどうにかなると思っています。
それなので、職員が付き添っても、
「なんでいつまで付いて来るんですか」
「警察を呼びますよ」
と、私は完全に不審者です。
何を言っても聞いてくれず
1時間程歩いてホームからはどんどん離れていきます。
利用者さんもどうして良いかわからないのと、疲れてきた事でイライラしてきます。

最終的に、利用者さんは道行く人に聞きました。
「別府に行くには、どういったら良いですか?」
「ここはどこですか?」
と。
道行く人は、普通に
「ここは……世田谷です。東京の」
それを聞いた利用者さんは一言。
「ここは東京かえ。たまがったー。東京ち言いよった」

東京と伝える事にした

ここが東京だと認識しても
私が不審者であるのは変わりありません。
その後も私の言葉は一切伝わらず、
結局、ご家族に来てもらい一緒に帰ってもらいました。

そのな事があり

東京だとはっきり伝える

そう決めました。

家族もいつまでも帰るというお母さんに限界が来ていました。
職員も胡麻化すのにうんざりしていました。

事実からやり直す

本人があると思っている
「友達がいて」「趣味を楽しんでいて」「人に頼られている」
別府の生活は過去のもの
現実には
独りで寂しく、物がなくなってしまう場所
でしかありません。

自分の思い描く姿に比べて、
現実の家には色々な事がなくなってしまっていますが、

この「東京」のグループホームで、
その姿に近い生活はできるかもしれない。
それを再構築するのが私達の仕事です。

本人に伝える

夜。
長男さんに直接伝えてもらいました。
否定して泣き叫び
失神もしたそうです。

起きてからは、落ち着いて寝ました。

まとめ

本人の強みを活かす

それからの数日は、本当に落ち着いています。
朝から、
「東京とは知らんかった」
と東京と認識しているのです。
その上で、毎日家族が来るから
「近くに家族が居てくれてよかった」
と言っています。

また、夕食時にはお嫁さんと一緒に配膳をしました。
次の日には、
自分で立ち上がった上でお皿をみんなの分まで洗っていました。
片づけが好きという本人の強みが活かされていました。

東京にいる
という事実が分かったからこそ、
お客様ではなく
ここで生活していく気持ちになっているのかも知れません。

家の様な環境を

毎日、ご家族が畏まらず気さくにホームに来てくれています。
夕食時には、席の近くでお嫁さんが一緒にお酒を飲んでいる時もあれば、
夫婦でソファでくつろいでいたり、
息子さんがパソコンで仕事をしていたりする事もあります。

あまりに自然で
私達職員から見ても
実家で過ごしているようです。

そのような関わりを続けていけば、
ここが東京でも家族が集まる本人の居場所になると思いました。

そのような本人やご家族の姿を見て、
嘘を付くのではなく
最初は混乱しても事実を伝えて
本人の生活を創る力を期待しながら
本人の居心地の良い環境を整えれば
本人の居場所になっていくと思いました。

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