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帰宅願望の支援。

強い帰宅願望への対応は難しい事が多いと思います。
最近、別府で独り暮らしをしていた方がホームに入居して、現在進行形で転居後の生活を作り直している最中です。
ホームに来る過程での会話のやり取りは忘れてしまうので、もちろん帰ろうとします。

新たな生活作りを始めて、まだ1週間ですが、ご本人が新しい環境に慣れる兆しが見えてきたので、今行っている対策をまとめたいと思います。

経過

まずはここまでの経過を簡単にまとめます。

独り暮らしの様子

  • 本人が介護サービス、医療サービスを受け入れず、管理が不安で医師が処方せず薬を飲めなかった

  • 市販の頭痛薬を自分で買ってきて飲んでいた。いつどれだけ飲んでいるかは不明

  • 近隣に知人は数名いたようだが、面倒を見てくれる訳ではなかった

  • 外には出ていなかった

  • 風呂にも入っていなかった

  • 物が無くなってしまい誰かを疑って息子に毎日電話を掛けていた

  • 実際に、ロレックスの時計や諸々の物が無くなっていた

本人は、10年前の記憶に頼っているようで、
別府にはたくさん友達がいる
公民館で詩吟と花を教えている
毎日家から湧き出る温泉に入っている
と今でも思っており、

家族と一緒に東京で同居する話しをしても、
「東京なんか行かん」
と言って、
別府から離れたくないの一点張りでした。

今まで、家族は「ここに居たい」と言う気持ちを大切にして様子を見ていましたが、息子兄弟は東京と大阪で家庭を築いており親類が近くにいる訳でもないので、今回ホーム入居を決断しました。

来る過程

2日前から長男次男と長男の嫁が泊まって説得しました。
一旦は認めるのですが次の朝には忘れてしまっており、同じことを繰り返すだけなので、飛行機の時間に合わせて、東京行きを決行する事になりました。

朝、家を出ようとしても、座り込んで叫んで家を出ようとせず、当初予定の飛行機の予約時間には待ち合いませんでした。

最終的には、
近隣の人も一緒に車に乗り込んで、
お昼ご飯を食べに行く体で出発し、
飛行機では入口を出口と言い搭乗し、
飛行機を降りてからは
別府に戻る体でタクシーに乗り込んで
ホームに来ました。

ホームに来て

夕方にホームに到着し、
夕食はお寿司を取って家族が一緒に居れる宴会の席を設けました。

賑やかな時間を楽しんでいましたが、
家族が帰ると、
「私も帰る。なんで帰りよった?」
と言って外に出て、
タクシーを拾おうとして30分位歩き周りました。
付き添う私を不審者だと認識するので、何を言っても通じません。
長男さんに来てもらい、ホームに連れ帰って貰いましたが、その後も居室でお話しし、結局一睡もしませんでした。

私も泊まりました。

次の日も似たような感じでした。

このように対策しました

3日間そのような日が続きました。
本人は記憶できないので別府に帰ろうとする気持ちは痛いほどわかります。
ただ、実際に別府に帰っても10年前の生活はなく、
親類はもとより知人友人がいる訳でも、活躍する場所がある訳ではありません。
それなので、ここで本人らしい生活を組み立てていくしかありません。
それなので、支援を関係者全員で統一して行っていく事で本人がここでの生活を納得できるようにしたいと考え、ケアの方針と対応をまとめました。

ケアの方針

実際に本人の認知症のステージをみると、ひとり暮らしはかなり難しく限界に来ていたと考える。
本人が言っている事は少し前の記憶によるものであり、金銭や物の管理はできていなく、今ここに来たのは適切な関わりであった。
それなので、場所はご自宅ではないが、本人の言う「していた生活」をここでもすることができるように関わり、家庭の範囲内での医療的支援も定期的に行えるようにする。

当面の対応

ただ、本人にしてみれば、ここに居る理由が見つからないので家に帰ろうとする。
本人が少しづつ納得できるように、職員・家族間で以下の内容で関わる。
※考え方としては、「騙して居てもらう」というより、本人が「居る必要」を感じる事ができるように本人の表情を伺って話しを合わせていく。整合性が取れないと「騙している」と感じるので内容を統一する。
統一内容は以下の通り。

ここに居る理由

  • ここに居る理由としては、膝と高血圧が心配だから、ここで少しの間療養して欲しい

  • ここは、療養をしながら膝とか高血圧を治療できる場所。医者や看護婦や歯医者や整体師が来てくれる

  • ここは、泊まれるデイサービスみたいな所だから、治療の時以外はみんなでカラオケしたり、詩吟をしたり、生花をしたり、御飯作ったり、好きなようにできる

  • ここは大分県大分市のホームがある実際の町名

  • 家族がお母さんを心配して、ここを借りてくれた

  • 長男夫婦のお二人もお母さんが心配で、大分市のホテルに止まって仕事をしている

  • 毎日、お母さんが心配で来ると思う

  • 同時に、「家の物がなくなっていたりして、(今どき強盗が入ったりするから)お母さんが心配だからここを押さえてくれた。ここは、中々泊まれるところじゃなく、長男さんが探し回って一番良いところを見つけてくれた

  • 乗ってきた車のことを心配している。ここに来る過程で乗って来ているので、実際に心配なのと、帰る手段として気にしている。
    実際には、長い間運転していなく、車も修理が必要な状態になっている。
    それなので、「長男さんが一旦預かっていたが、廃車にした」で統一

  • 帰る手段として、タクシーを呼んでくれと頼まれたら
    「大分市から別府までタクシー使ったら、いくらかかると思ってるの?お金勿体ないから、(明日朝)バスにしたらどうですか?」

  • 支払いは長男さんがが支払っているから大丈夫
    息子さんがお母さんに払わせる訳ないでしょ。息子として、お母さんの前で支払いする姿なんが見せられるはずがじゃないですか

  • ノーシンを持ってきてくれたので、用法どおり1日3回迄で服用。服用したら排泄表に赤ペンで記入する

  • 温泉の湯の入浴剤を購入する
    別府温泉にすると、違いがわかってしまうので、何か違うとろみがある物を購入して、
    「ここでも湧いているんですよ。どうぞ、入ってみて」でやってみる

  • 生花・詩吟について
    「住んでいた町の公民館は、少し休んだらどうですか。良くなったら、いつでもできるし、詩吟・カラオケ・生花はここで、やりましょうよ」とできる限りここでもできる事を伝える

  • 「腕時計がない」と言われたら「家の事はわかりません」と答え、なくなった経緯などを聞いて、本人の気持ちに共感する

御家族にお願いする事

上の対応もお伝えして一緒に取り組んもらうのですが、特にお願いしたのは

  1. 午前中に息子さんのどちらかから本人の携帯に電話を入れて、体のお加減を聞いたりする

  2. 夕飯時にホームに来る。一緒にご飯を食べたりしても良いし、近くにいるだけでも良い。また、少しでも時間でも構わないのでお母さんに顔を出す

①②を一定期間(1か月位)行う事で、私達が言っている内容とホームでの生活の整合性が取れてきて本人が納得してくれると考えています。

まとめ

ご本人は、認知症の為、言葉をそのまま受け取れなくなってしまっています。それなので、対策をご家族と職員で毎日繰り返す事で行動を通して少しづつ理解してもらいたいです。

この対応にしてから、ご家族から定期的に連絡や訪問する事がわかり、
帰ろうとしない日が数日続いています。



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