パワートレーニングの用語を理解する -TSS, CTL, ATL & TSB-
今回の記事はパワートレーニングを実施する際に登場する用語について説明してくれている海外記事をご紹介します。
これらの用語は以前にもご紹介していますので、そちらと共に読んでもらえるとより理解を深めてもらえるかと思います。
今回もTrainerRoadの記事から意訳、要約させてもらいました。
用語の理解を深め、パワートレーニングの効果を高めていきましょう。
ご紹介する記事
Training Stress Score:TSS
TSSとは何か?
トレーニングストレススコア(TSS)は1回のワークアウトがどれだけ体にストレスを与えたかを示す数値です。
TSSの数値をモニタリングすることで、過度ではない適応可能なストレス量を把握し、トレーニングの効果を最大化させます。
TSSの数値は、FTP(1時間持続できるパワー)強度で1時間漕いだときに100になるよう設定され、強度や時間が変わっても適切に値が得られます。
TSSの計算は以下の式で算出されます。
TSS = 時間(分)/60 × 強度係数(IF)の二乗 ×100
※ご紹介記事の算出方式から分かりやすい表現に変更しています。
強度係数(IF:Intensity Factor):FTPを基準に、ワークアウトがどの程度の強度であったかを表す数値
標準化パワー(NP:Normalized Power):1回のワークアウトのパワー推移を、単純平均ではなく重みづけを行って補正した平均パワー
なぜTSSが重要なのか
TSSで表されるトレーニング負荷量(体が受けたストレスの量)を知ることは、トレーニングによって得られるあなたの“フィットネス”(発揮するパフォーマンス)を推測することに非常に有用です。
加えてTSSの推移と体の反応の関係を把握することで、トレーニングの量(時間)と強度をより効果的な配分にすることができます。
回復が妨げられたり、パフォーマンスが期待と一致しない場合は、TSS を確認することで原因を見つけることもできます。
このようにTSSは便利な数値ですが、各ワークアウトで計算されるTSSは数値が等しければどんなトレーニングも体へ同様のストレスを与えている訳ではないことには注意が必要です。
それはこのTSSが時間と強度の掛け算である点に起因します。
たとえば、
・軽めの強度での2時間ライド
・かなりハードな1時間に満たないワークアウト
この2つは計算上同じTSSになり得ます。
しかしこの2つのワークアウトは体へ異なった種類のストレスを与え、異なった適応が起こると考えられます。
そのため週単位で積み重ねられたTSSは意味ある数値ではありますが、その解釈にあたってはワークアウトの強度についても加味する必要があります。
Cronic Training Load:CTL
CTLとは何か?
長期トレーニング負荷(CTL) は、TSSをもとにして過去 6 週間から数か月にわたるトレーニングの一貫性、量(時間)、強度が反映された数値です。
あなたの体はCTLの数値(長期トレーニング負荷量)に応じた適応反応が起こっていて、それが現実世界のフィットネス(パフォーマンス)に現れます。
一般的にCTLは直近6週間分のTSSを加重平均(現在に近いほど、値に重みづけを行う方式)で計算されています。
CTLがなぜ需要なのか
良く計画されたトレーニングを継続することでサイクリストはパフォーマンスを向上させることができ、それはCTLの向上として数値的に捉えることができます。
CTLが上昇することは、より高度な体の適応を獲得できていることを意味します。
一つ勘違いしてほしくないことは、CTLを高めるためには非常に高いTSSのトレーニングを行わなければならない訳ではありません。
CTLの向上は一過性の非常に高いTSSのトレーニングを行わずとも、継続的に現在のCTLよりも少し高いTSSレベルのトレーニングを行うことで向上します。
現在のCTLがそこまで高くない場合は、週に3日のトレーニングでも現在より高いCTLを積み上げることが十分にでき、パフォーマンスの向上が見込めます。
Acute Training Load:ATL
ATLとは何か?
急性トレーニング負荷(ATL)は体の疲労状態を表すものです。
ATLはCTL(長期トレーニング負荷)に比べると、短期間のTSSが反映されます(7日前後)。
ATLはなぜ重要なのか
ATLは体の疲労状態を数字で表したものになり、この値をマネジメントすることでパフォーマンスを最大限発揮するためにはどれくらいリカバリーをしなければないかを把握できます。
たとえば数日間非常に高いTSSのトレーニングを実施し、1週間で積み上げたTSSが急上昇した場合、ATLも非常に高まり疲労によってトレーニングに支障をきたすことが予想されます。
現在のトレーニングストレスに体の適応が遅れないよう、ATLが急上昇した後はリカバリーに充てるべきでしょう。
このように疲労を適切に管理するためには、ATLの推移を把握しておくことが大切です。
Training Stress Balance:TSB
TSBとは何か?
トレーニングストレスバランス(TSB)はCTLとATLの値から計算され、通常はフォーム(コンディション、体の調子)の指標とされます。
CTLが全体的なフィットネス(潜在的なパフォーマンス)の指標として用いられるのに対して、トレーニングストレスバランス(TCB)はCTLと直近の疲労(ATL)の両面が考慮されたものです。
TSBの計算はシンプルで、CTL-ATLによって求まります。
そのためATL(疲労)がCTL(長期適応度)よりも高い場合、TSBの値はマイナスになり、逆にATL(疲労)がCTL(長期適応度)よりも低い場合はTSBの値が+になります。
プラスのTSBはあなたの体がフレッシュであることを示しています。(が、高ければ高いほど良いものでもありません。人それぞれに、適した値の範囲があります)。
TSBは何故重要なのか?
TSB の背後にある考え方は非常に直感的です。
疲労が溜まりすぎるとベストパフォーマンスを発揮できないため、できるだけフレッシュな状態でレース当日を迎える必要があることはみなさんも経験的にご存知でしょう。
TSBが大きいマイナスの値である場合、それは疲労が蓄積されていることを意味し、テーパリング(トレーニングを間引いて疲労を小さくすること)が効果的に行えていないことを示しています。
ただし、TSBは誤解を招くことがよくあります。
多くのアスリートがTSBを客観的な指標として捉えていますが、実際のところTSBはざっくりとした推測値です(なぜなら、シンプルにCTLの値からATLの値を引いているにすぎません)。
一般的には大事なレースや大会がある直前の週にハードなトレーニングを行うことは懸命ではなく、テーパリング(トレーニングを間引く)することが体をフレッシュな状態にするために得策です。
しかし、テーパリングはCTLで表されるフィットネス(潜在的なパフォーマンス)を下げることにもなるので、テーパリングをどの程度行うかには慎重になるべきです。
テーパリングを行うとCTLは下がりますが、TSBは高まり(疲労を示すATLの低下幅がCTLの低下幅よりも大きいため)、体のフレッシュさを高めることができます。
テーパリングは継続的なトレーニングによって高めたCTLを少し犠牲にする変わりに体のフレッシュさを高め、目的のレースの日に調子を合わせることを目的としています。
テーパリングの必要性は調子のピークを作ることと、長期のトレーニング効果の累積を一挙両どりすることが困難であることや、ピークを長期間にわたって継続できない理由の説明にもなります。
覚えておいて欲しいことは、体の適応はトレーニングから6週間遅れてもたらされることです。
そのためレース日間近に行われたトレーニングほど、その効果がレース当日に反映されるとは言い難く、体のフレッシュさにとってはマイナスの影響を与えかねません。
トレーニング計画の全体像
再度強調しますが、ピークフィットネス(ピークパフォーマンス)はトレーニングストレスと疲労のバランスにかかっています。
今までご説明してきたTSSやCTLなどの数値は互いに密接に関わりあっており、それを元にトレーニングストレスを管理することができます。
もしTSSやCTLなどの客観的な指標がなければ、体系化され、構造化されたトレーニングを行うことは困難です。
サイクリストは目指すレースや大会のためにトレーニングストレス(トレーニング負荷)を管理することが必要です。
今回ご紹介したようにトレーニングを数値として把握することがトレーニングを効率的なものに変え、ハードなトレーニングがあなたの体にもたらす適応について理解することにつながるでしょう。
多くのトライ&エラーを繰り返すことで、その精度は高まります。
おわりに
用語の意味を知ることは時に面倒臭いものです。
しかしその用語の意味や計算の仕方が何となくでも分かっていると、トレーニングの効果を把握することやトレーニングを計画することが断然簡単に思えるようになります。
また最近のアプリでは自動でみなさんの需要に合わせてトレーニングメニューを作成してくれるものもあり、そのバックには今回ご紹介したような数値が使われ、トレーニングが組み立てられています。
今後私の記事でもこれらの用語が出てくる機会がありますので、用語の全体観をこの記事で掴んでいただけると嬉しいです。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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