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体力向上の源は6週間分のトレーニングにあり

前回の記事ではパワー・トレーニング・バイブルというトレーニングの教科書とも言える本が紹介している理論モデルをもとに、疲労というものをグラフ化してみました。疲労という言葉の理解からもう一歩進んで、視覚的にそして感覚的に疲労の推移を紹介することが前回の記事の目的でもありました。今回は同著の「疲労」と対となる「長期的なトレーニング負荷の蓄積」(=体力向上の源)について書いてみたいと思います。トレーニングの効果がどのように蓄積され、体力の向上につながるのかを前回同様に視覚的にお伝えします。今回の記事で皆さんのトレーニングへのモチベーションが高まったり、日々の体力の変化を楽しむことに繋がれば幸いです。

1.疲労についてのおさらい

まず疲労についてまとめ直すと、年齢によっても異なりますが直近1-2週間分のトレーニングが疲労としてカウントされます。下の図が疲労のイメージです。棒グラフが一日のトレーニングを表していて、折れ線グラフが疲労度合いの推移です。

 今日感じられる疲労は1週間前よりも昨日や一昨日といったより直近のトレーニングが強く反映されているはずですので、パワー・トレーニング・バイブルでは数学的な理論モデル(指数加重移動平均)を使ってそのあたりも考慮され、疲労が数値化されています。
 また、疲労の推移(図では折れ線グラフ)はトレーニングをしていると0にはなりません。ですので、0=完全回復ということではなく、「今自分はどのくらいの疲労ポイントを溜めているか」というイメージがいいと思います。いつも疲労ポイントが10前後で推移している人にとって、疲労ポイントが50になればかなり疲れを感じるでしょうし、普段50ポイントくらいで推移している人にとって10ポイントに下がるほど休みを取れば、かなり体は軽く感じるかもしれません。いずれにしても、疲労は最近のトレーニングの影響を受けていて、年齢を重ねることで2週間前のトレーニングでさえも疲労ポイントとしてカウントされるようになります(疲労が抜けにくくなるということです)。


2.体力向上の源、長期トレーニング負荷について

それでは本題の体力向上の源、長期的なトレーニング負荷の蓄積についてです。パワー・トレーニング・バイブルでは、長期的なトレーニング負荷が蓄積されることによって、体力の向上が期待できることがモデル化されています。「疲労」が最近1-2週間のトレーニングを反映したものであるのに対して、「長期トレーニング負荷」の蓄積は過去42日間(6週間)のトレーニングを反映するようにモデル化されています。

長期トレーニング負荷は過去42日間、トレーニングをたくさんした日や少しした日、友達とライドに出かけた日や休息の日などなどを全て含めて数字をならすので、数値の上下も疲労の推移にくらべて小さなものになります。つまり長期トレーニング負荷の蓄積は徐々にしか進みません。1日かなりハードなトレーニングをしても、長期的な視点でみるとそれだけではトレーニング効果は大きくはないでしょう。逆にオフを数日間挟んだとしても、それによって長期トレーニング負荷のポイントがガクッと落ちることもありません。小さなトレーニングも継続的に行うことで、徐々にトレーニング効果も積みあがっていきます。この「長期トレーニング負荷」も「疲労」のモデルと同様に、直近のトレーニングが色濃く反映されています。一日一日の変動は少ないものの、6週間も経てばその差は歴然。みなさんの日々の努力の積み重ねは体力の向上として実を結ぶことでしょう。6週間で体が変わることは、プロロードレーサーであった土井雪広さんも著書で語っています。

ここでジロ・デ・イタリアなどで活躍されていた土井選手の著書からトレーニング効果について書かれていた部分を抜粋させてもらいます。土井選手も同様のトレーニングモデルを活用していたことが伺えます。

ヨーロッパでは40日・6週間がトレーニングの大きなサイクルになっていた。

40日間 みっちりトレーニングを積む と、パワーデータがはっきりと変わる。そして、トレーニングプランを修正して次の段階に進む。これがトレーニングの大きな単位だ。


3.長期トレーニング負荷の蓄積と体力の向上

では実際に6週間ほどトレーニングを重ねると、どれくらい体力(パワー)が向上するものなのでしょうか?具体例があるとイメージがしやすいので、論文のデータをもとにシュミレーションしてみました(論文のデータからFTP値等を推定していますが、正確ではありません。また論文の内容とは関係がないことをご承知おきください。記事末尾の参考文献を参照ください)。こちらの論文ではサイクリングを趣味としている平均46歳の人を対象に、8週間の中で1時間のセッションを16回実施しています。その前後でパワー値がどれくらい上がったか?がデータとして記載されています。FTPを推定すると、だいたい体力レベルは並(年齢別FTP値基準表参照)と評価される方が対象になっています。結果としては、FTP値が平均して0.2向上したようです。FTP値基準表で言えばランクが一つ上がった形です。FTPが0.2向上すれば、体感的にも違いをはっきり感じると思います。

この例では普段あまりトレーニングを行っていない人を対象に行われた実験で、長期トレーニング負荷の蓄積はトレーニングストレススコアというもので換算すると5から15に上がり、その結果FTPが+0.2向上しています。長期トレーニング負荷の蓄積度合いと体力の向上度合いの関係は人それぞれの状況で違ってきますので、このあたりの話はまたトレーニングストレススコアの解説などで行っていきたいと思います。

6週間で体が変わるという話に戻すと、6週間ほどの期間を1つのかたまりとして捉えると(土井選手は1クールと呼んでいます)、例えば今から目標とする大会まであと4ヶ月半ほどあるすると(富士ヒルクライムまでだいたいそのくらい)、トレーニングとして3クールの期間を確保することができます。1クール6週間のトレーニングで体感できるほどの体力向上が見込め、それが3クールあると考えると、目標到達へのモチベーションも高まりますね。


4.おまけ:プロのトレーニングの凄まじさ

最後に、先ほどご紹介させていただいた土井選手の著書の内容をもとに、プロ選手と一般の私たちのトレーニング量の違いをグラフにしてみました。縦軸は今後ご紹介しようと思っている、トレーニングストレススコアというもので、その人のFTP(1時間維持し続けられる最大のパワー値)で1時間トレーニングした場合100ポイントになるように換算したスコアです。こちらを利用すると、私たちとプロ選手では発揮できるパワー値こそ違えど同じ尺度でトレーニングを比べられます。例えば私たちのFTPが200、プロ選手のFTPが400だとしても、トレーニングストレススコア100のトレーニングは共にFTP強度で1時間走ったほどのキツさになり、感じる辛さは私たちもプロ選手も同等のはずです。ですので、トレーニングストレススコアは友人やプロ選手が行っているトレーニングを自分に置き換えられる大変便利なスコアです。という前置きをした上で、下の図を見てみてください。プロ選手のトレーニング量、半端じゃないですね。私たちが6週間かけて行うようなトレーニング量をたったの3日間で行っています。


今回もお読みいただきありがというございました。次回は引き続きパワー・トレーニング・バイブルから「トレーニングストレススコア」について書いてみたいと思います。皆様の日頃のトレーニングがより実りあるものなりますように。


〈参考文献〉

  1. ハンター・アレン, アンドリュー・コーガン. パワー・トレーニング・バイブル第2版.

  2. 土井雪広. 土井雪広の世界で戦うためのロードバイク・トレーニング (p.100). 東京書籍

  3. Klika, R. J., Alderdice, M., Alderdice, M. S., Kvale, J. J., & Kearney, J. T. (2007). Efficacy of cycling training based on a power field test. The Journal of Strength and Conditioning Research, 21(1), 265–269. https://doi.org/10.1519/R-19085.1


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