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#18 テーパリングは強度を保って行うと効果が高い

ある期間トレーニングの負荷を落として疲労を減らし、持っているパフォーマンスを最大限発揮できる状態を目指すことをテーパリングと言います。

前回のレビューではトレーニング負荷のうち、時間や距離といったトレーニング量を調節した論文をご紹介しました。

今回はテーパリングで「トレーニング強度」は落とした方が効果が高いのか、それとも強度はそのままの方が効果が高いのかという疑問を検証しています。

結果としては、強度を落とさない方が効果的であると示されました。また良いテーパリングでは疲労を軽減するだけではなく、筋線維の適応を促すことも同時に検証されています。

サクッと読み進められるよう記事を作成してみましたので、是非読み進めてみてくださいね。




はじめに

前回の記事でもご紹介させていただいた内容にはなりますが、もう一度テーパリングの要点をまとめておきますね。

ある期間トレーニングの負荷を落として疲労を減らし、持っているパフォーマンスを最大限発揮できる状態を目指すことをテーパリングと言います。

大会前に行うこともあれば、トレーニングの一環として計画に組み込んでいらっしゃる方もいることと思います。

トレーニングの負荷を下げるこのテーパリング、方策は大きく分けて3つの要素で調節を行います。

  • トレーニングの量(時間、距離)を減らす

  • トレーニングの強度(ワット数)を減らす

  • トレーニングの頻度(週に何回か)を減らす

今回は三つの要素のうち、「トレーニング強度」は下げた方がいいのか、それとも維持した方がいいのか?に注目しています。

たとえば今までの期間、普段皆さまがFTPよりやや下の強度として200ワットで60分間のトレーニングに取り組んでいたとします。

テーパリングを行う場合、このメニューをどのように調整すると良いでしょうか?この論文では、2つのパターンを比較しています。

強度そのままテーパリング
強度(200ワット)はそのままで、時間を減らします。つまり60分ではなく45分、35分とトレーニング量を減らしていきます。記事内では、このようなテーパリングを「強度そのままテーパリング」と呼ぶことにします。

時間そのままテーパリング
60分という時間はそのままで、強度を減らしてテーパリングを実施します。たとえば、200ワットを180ワットに減らして行うといった形です。記事内では、このようなテーパリングを「時間そのままテーパリング」と呼ぶことにします。

上記2つのテーパリング、どちらの方が効果が高いか?を今回の論文は検証しています。


検証方法

検証には一般男性サイクリストが参加しています。

参加者には7週間のトレーニングが処方され、その後1週間のテーパリング期間が設けられました

7週間のトレーニングとして最大心拍数の85-90%で60分漕ぐことを週に4日実施。FTP強度よりもやや下の強度かと思います。

7週間のトレーニング終了時、そしてテーパリング終了時に40kmTTをローラーで実施。どのようにタイムが変化するかが検証されました。

比較する3つのグループは、テーパリング期間に以下の内容をそれぞれ実施。

  • <テーパリングなし群>。7週間のトレーニングと同じメニューを実施。テーパリング効果を見るための比較対象群です。

  • <強度そのままテーパリング群>。強度はそのままに、トレーニング時間を45分→35分→25分→20分と徐々に減らす。

  • <時間そのままテーパリング群>。時間はそのままに、トレーニング強度を最大心拍数の85%→75%→65%→55%と徐々に減らす

またこの検証ではテーパリングによる40kmタイムトライアルの変化に加えて、筋線維の有酸素能力の評価も行っています。

直接外側広筋(大腿四頭筋)の筋線維を採取して、有酸素能力をつかさどる酵素やタンパク質量を測定し、40kmタイムトライアルのパフォーマンスとの関連が調査されました。


検証結果

検証の結果、強度そのまま群で40kmタイムトライアルのタイムが平均して2分50秒の向上がみられました。

一方でテーパリングなし群、時間そのまま群では40kmタイムトライアルの結果は変化なしという結果に。

筋線維の有酸素能力に関するタンパク質量は、テーパリング前後で強度そのまま群で遅筋線維(タイプⅠ)、速筋線維(タイプⅡ)で増加が見られ、時間そのまま群でも遅筋線維で増加が見られました。

このタンパク質量と40kmタイムトライアルのタイム向上の関係も調べられており、有酸素能力に関するタンパク質量の増加幅が大きかった選手ほど、タイムトライアルのタイム向上が大きいという関係性も見られています。

論文の筆者はこれらの結果から、テーパリングでは疲労を除くことが大きな目的であるが、テーパリングの方法によって筋線維の適応反応が変わってくることも注目すべき現象であることを述べています。


まとめ

検証の結果、1週間のテーパリングでは強度をそのままに、時間を減らすテーパリングの効果が高そうであるということが分かりました。

インターバルトレーニングを行うなら、同じ強度でセット数を減らすという方法が良さそうですね。

またトレーニング負荷の下げ方一つで筋線維適応も変わってくるという結果は、何とも興味深いものだと感じました。というのも、この論文の検証結果を読む前は筋線維の適応に差は出ないのと予想していました。

というのも私はトレーニングによる筋線維適応(能力向上)の過程を、

トレーニング→回復→適応→トレーニング→回復→適応→・・・

という繰り返しをイメージしていました。つまり、テーパリングの方法に関わらず7週間のトレーニング分の筋線維の適応は全てのグループで同じで、テーパリング期の一週間があったとしてもそれほど適応に差はなさそうと考えていました。

しかし結果としては、3つの比較群でかなり違った筋線維の適応が見られています。

つまり、トレーニングの積み方も大切だけれども、その回復の仕方(テーパリング)が体の適応に大きな差をもたらす可能性があると言えそうです。

テーパリングの検証論文の多くは6週間前後のトレーニング後に、1-2週のテーパリングを実施して、テーパリングの効果を確かめています。この一まとまりのトレーニング計画は、私たちの実際のトレーニングにも参考になりそうです。

しっかりとトレーニングを行う時期、そしてしっかりと適応を促す時期、目的をもったトレーニング計画をしていきたいですね。

今回も最後までお読みくださりありがとうございます。スキ、フォローを頂けると大変励みになります!

今後の記事も、是非読んでみてくださいね。


ご紹介した論文

Neary, J. P., Martin, T. P., & Quinney, H. A. (2003). Effects of Taper on Endurance Cycling Capacity and Single Muscle Fiber Properties. Medicine and Science in Sports and Exercise, 35(11), 1875–1881. https://doi.org/10.1249/01.MSS.0000093617.28237.20


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