#11 「メンタルが疲れている」は言い訳ではなく本当にワット数が落ちる
今日は仕事で何だか疲れたなぁ。そんな時ほどいつものトレーニングメニューが辛く感じるときがありませんか?それは単純にやる気の問題だけではなく、メンタルの疲労がトレーニングを辛く感じさせている可能性があるよという結果になった論文をご紹介します。心と体は一心同体。自分を責めすぎないためにも、是非読み進めてみてください。
はじめに
みなさんこんにちは。川崎です。今回も記事に目を通してくださりありがとうございます。私自身が今まで読んだ中で面白いな、勉強になったなと思う論文を紹介して11本目になりました。これからもトレーニングやスポーツ科学にまつわる論文をご紹介していこうと考えていますが、しっかりと押さえておきたいのはメンタルの問題です。体がトレーニングに対してどう適応して強くなるのか、どういったトレーニングが有効かといった科学的な知識は大変興味深く、大事なことです。しかしメンタルとの関係性を無視してトレーニングに励むと、人生を豊かにするためのトレーニングのはずが、いつからか苦行に変わりかねません。
今回の論文ではメンタルの疲れはやる気とは無関係に疲労感を増幅させ、出力できるワット数が減ってしまうことを指摘しています。うまくトレーニングが消化できなかった日、自分を責めすぎないためにもこの論文で心と体の関係性を見ていきましょう。
この論文が検証したこと
前述したように、仕事などでメンタルが疲れたときにパフォーマンスが落ちる経験をされた方も多いと思います。そんな時ほどトレーニングの結果を振り返って、「パフォーマンスが下がった」とか、「やる気が出ないなんて自分は弱い」と思って気分が落ち込んでしまいます。しかし、果たしてそれはやる気の問題だけで片付くものなのでしょうか?
もしかしたら、メンタルの疲労によってパフォーマンスが落ちた原因は心臓や筋肉の機能を抑制してしまっていたりするのでは?もしくは疲労感などの感覚が強くなるのではないか?という疑問が浮かびます。今回の論文ではこの疑問を晴らすべく、メンタルの疲労によってパフォーマンスが落ちたとき、体や感覚にどのような変化があったのかを検証しています。
検証方法
今回の実験には20代中ごろの平均的な体力の男女が参加しています。参加者たちにはある2つの作業のどちらかを行ってもらった後に、ランプテスト(徐々に負荷が重くなっていくテスト)を実施してもらいます。2つの作業は以下の2つ。
90分間、「世界の車窓から」のような感情の起伏が少ない映画を鑑賞する
90分間、不慣れで煩わしいパソコン作業を実施する
参加者はこれらの作業後すぐにランプテストを実施します。またこの2つの作業を別日にどちらも行って比較しています。
ランプテストをする際に心拍数や血圧、血中乳酸値などの身体的な項目の測定に加えて、モチベーションやRPE(主観的運動強度)といった心理的な項目の測定も実施。リラックスした状態(映画鑑賞)とメンタルが疲労した状態(パソコン作業)でどのような差があったのかを比較検討しています。
知識の整理:RPE(Rating of Perceived Exertion)
今回の結果を理解する上で重要なRPEについて整理しておきます。日本語訳は主観的運動強度で、トレーニングを行ったときなどに感じた主観的な負担度を数値で表したものです。「今日のトレーニング、キツさはどうだった?」これを数値化します。数値の設定の仕方にはバリエーションがありますが、今回は広く普及しているボルグの提唱した6から20の数値と主観的な表現を対応させる方法を採用しています。以前の記事でも話題に挙げているので、そちらもご参照ください。
検証結果
検証の結果、2つの作業後のモチベーションは同じほどであったにも関わらず(やるぞ!を数値化して質問しています)、ランプテストではパソコン作業によって2分ほど持続できた時間が大幅に短くなりました。しかし心拍数や血中乳酸値などの身体的な機能面で変化は生じていませんでした。一方RPEはパソコン作業後の方がランプテスト実施中、常に高い結果となりました。下の絵の左図では横軸にランプテストの継続時間が、縦軸にRPEが示されています。パソコン作業後が黒丸で、映画鑑賞後が白丸で表されていて、RPEは終始パソコン作業後のランプテストで高いことが伺えます。
このことから同じやる気で取り組んだとしても、メンタルの疲労によって同じ強度でもキツく感じることは私たち個人だけでなく、一般的に言えることが分かりました。
まとめ
メンタルの疲労によりパフォーマンスが落ちるのは何が要因かを検証した結果、体の機能に変化はありませんでした。一方で主観的なキツさが増すことが共通していました。
メンタルが疲れている日にパフォーマンスが出なかったのは体力が落ちた訳ではなく、またやる気がなかった訳でもなく、脳が無意識的に主観的なキツさを増すようにコントロールしていることが主な要因であると考えられます。うまくトレーニングが出来なかった日は、あまり自分を責めすぎないことも大切です。
今回はメンタルの疲労によってパフォーマンスが左右されることを検証した論文をご紹介しました。次回の論文レビュー記事では、限界はメンタルが決めているという話題を紹介したいと思います。根性論だけで物事を進めるのは危ないですが、そうは言っても根性も大事。そんな内容を予定しています。是非お読みくださいね。
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ご紹介した論文
Marcora, S. M., Staiano, W., & Manning, V. (2009). Mental fatigue impairs physical performance in humans. J Appl Physiol, 106, 857–864. https://doi.org/10.1152/japplphysiol.91324.2008.-Mental
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