憧れのおやつ

こどもを育てていると、自分の時はどうだったかな、と思い出すことがよくある。

当然、時代の差があるし、私の出身は長野県、こどもたちは東京で育っていて、更にそれぞれの学校のルール、家庭環境など違うことだらけだから、「お母さんがこどもの時はね…」と話すとびっくりされるようなこともよくある。


その中でもかなり笑われたのが「きゅうり」だ。


私が通っていた小学校では行事の中に登山があった。
全校生徒が同じ山の、1、2年生は途中の神社まで、3年生からは頂上まで登る。
学校からぞろぞろと登山口まで歩き、頂上まで登って下りて、学校からまた歩いて家に帰る。

私は登山が嫌いだったからつらすぎると感じていたのかなと思って標高を調べたら、高尾山の倍くらいあった!
登山好きにはなんてことない高さなんだろうけど、室内でダラダラしていたい小学生の私には、いや、現在の私でも行きたくないと駄々をこねるレベルだ。
その登山が6年間、毎年あったので「遠足」といわれれば「嫌だったな」という気持ちと一緒に思い出してしまう。

それに比べてこどもたちの遠足は楽しそうだ。
水族館、科学館、みかん狩り…遠足のしおりを見ながらリュックの中身を準備をする。

そして行き先よりも羨ましいのがおやつの準備だ。
バスの中やお弁当の後に食べる、グミとかチョコとか好きなお菓子を持っていっていいらしい。
たくさん買った中からうれしそうに選んだり、
自分でお金を持ってワクワクしながら買いに行く。

そういうの、いいなぁ。

私にもおやつ持参の遠足が無かった訳じゃない。でも私の「遠足」の代表、小学校の毎年の登山ではそんなのはなかった。



ある日の夕ごはん

「いいなぁ、お母さんも、おやつ持って行きたかった」

「お母さん、おやつなかったの?」

「うーん、正確に言うと、おやつっていうか…
疲れた時の、補食?…お菓子じゃなかったんだよね。

……きゅうりだった。」


「…え、野菜の?」

「そうだよ、きゅうり。お弁当もダメで、
おにぎりと、きゅうり一本て決まってたの。」


そう、私の小学校の遠足は
『おにぎりときゅうり一本(と味噌)』と決まっていて、おかずもデザートも無しだった。
きゅうりは一本まるのまま、切ったりもせず、
味噌をグイッと付けてそのままをかじって食べる。

「きゅうりがおやつなの⁈」

「まあ、おやつっていうか、休憩の時にきゅうりにお味噌付けて食べるの。お味噌だけ小さいタッパーに入れてさ、人によっては自家製味噌だったりして。」


ここまで話した時、私以外の家族3人は完全に、ニヤリと笑っていた。


「え、かっぱなの?笑」

「何その質問。かっぱじゃないし。」

「みんなでペタペタ歩いてたんでしょ。笑」
「かっぱの先生の後を、かっぱのこどもが。」

「いや、だから、かっぱじゃないってば。」

「休憩〜!きゅうり食べろー!って小さいかっぱが一列で!笑」
「みんなー、頭濡らせー!ってひょうたんから水出すんでしょ!」

「かっぱじゃないもん!」

「えーっと、えーっと、帰りは、えーっと」

「かっぱエピソード頑張って作らなくていいから!」

「山から下る時は、みんなで川を流れてくるんでしょ!」


「お母さん、かっぱなの?笑」


完全にバカにされている。
私はただ、おやつが羨ましいって話をしていただけだ。
まさか「かっぱなの?」なんて聞かれるなんて思ってもみなかった。
ごはん中の話題には向かないなと思うほど全員が笑ったのだった。


この会話以来、私のこども時代の話になると誰かがこの話を思い出し、「きゅうり」と言っては笑い出す。

…そんなに笑ってもらって良かったよ。私がそんなに爆笑されるエピソードを持っていたなんて知らなかった。
イヤイヤ行っていた遠足も、何十年も経ってから大笑いに変わったよ、と小学生の私に言ってあげたい。

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