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転がしパーティー【ショートショート】【#178】

「ああ、いくつになっても"こま"の回転は美しいですからね」
「回転といえばまずは"こま"ですからね。知名度、美しさ、バリエーションと三拍子そろっています」

 あるBARを貸しきって行われた会合には多くの人がひしめきあっており、互いの趣向を披露しあっていた。 

「そうでしょうそうでしょう。いやぁ、今日は本当にきて良かったなぁ。私、"こま"が好きかというとちょっと違っていて、回転するものが好きなんですよね」
「本日はまさにそういう方のための会ですから。変わり者と見られることもありますが、世の中にはあなたのような人が結構いるんですよ」

 男の言うように、この会の趣旨はすこし変わっている。テーマは『回すもの・転がすもの・回転するもの』。まわるもの、転がるものを愛好する人が集まるパーティなのだ。

「そういうあなたはどんなものが?」
「私はですね、ハンドスピナーが大好きでして……」
「ほう、あの少し前に流行った……」
「そうですそうです! 今日も持ってきたんですよ」

 そう言いながら男が取り出したのはメタリックに彩られた小ぶりなものだった。もしかしたらなにか凝った逸品なのかもしれない。

「うちにもありましたよ。子供が欲しいというのでひとつ買ってみたのですが……ただ回るだけですからね。すぐに飽きてしまって……ってああ! すみません。お好きなんですもんね。これは失礼いたしました」
「いいんです。実際そういう方は多いですから……」

 そうはいうものの男はやはり少し寂しそうだった。

「大丈夫ですよ。先ほど私が話した方が技術職の方でベアリングが大好きでしょうがないと言っていました。彼なら間違いないでしょう。後程、ご紹介しましょう」
「おお、本当ですが! ありがたいです。実際、子供のおもちゃだとバカにされることも多いですから……。一度は同士にあってみたかったのです」

 男はここにきてやっと力が抜けたのか、かなりほっとした顔をしていた。

「それで……、あなたは? あなたはどんなものがお好きなんですか?」

 私は端のほうにたたずんでいた男に声をかけた。この男もきっとすこし人にいいづらいものを好んでいるのだろう。そういう人をつなぎ合わせるのも主催の務めだ。

「いえその、私は今日ここに来てしまったは間違いだったと思っているところなので……」

 そんなことを言われては聞きずてならない。なんとかフォローしなくてはと私は前のめりになった。

「何をおっしゃいます。現段階で趣味の合致する人に出会っていなくても私がご案内いたしますし、まだまだこれから来る人も沢山いますから。そんなことおっしゃらないでください。さあ言ってみてください。どんなものがお好きなのですか?」

 男はしばしの間、なおも言いよどんでいたが、意を決して口をひらいた。

「私が、好きなのはですね……」
「はいはい、あなたがお好きなのは……?」
「その、……土地です土地」
「……土地?」
「ええ。私、不動産をなりわいにしておりまして。土地を転がすのが大好きなんです」


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「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)