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早くてもどうにもならない【ショートショート】【#134】

「なんで僕と結婚できないんだ!」

 彼はなみだを流しながらつっぷし、床にこぶしを何度も叩きつけていた。

「……僕のことが嫌いなの?」

「あなたのことは大好きよ。それこそ目に入れてもいたくないわ」

「じゃあなんで僕じゃダメなの?」

「だって……ほら年齢の差があるし」

「そんなの関係ないよ! 好きなら年なんて関係ないでしょ!」

 攻められてばっかりもすこし悔しい。私は彼を正面から見すえ、語りかけた。

「まあね、それはそうかもしれないけど……。でもこの前、カナちゃんのことも好きって言ってたでしょ? 私、知ってるんだから」

「ち……違うよ! あれは『一時の気のまよい』ってやつ。あんなのホントじゃない」

「ふーんそうなの。そうねぇ……じゃ、いい? よく聞いて。実はね、私はもう結婚しているの」

「えっ……ウソだ!」

 彼は明らかに狼狽しているようだ。そんなことはまったく考えたこともなかったのだろう。あまり言いたくないけれど、こうして詰めが甘いところは私とそっくりだ。

「ウソじゃないわよ。それに相手はあなたも良く知っている人よ」

「なんだって……! それは、それは……誰なの?」

「ふふふ……誰でしょうか? 実は結婚したのは5年も前になります」

「そんな前から……」

「そうなの。だからあなたのことは大好きだけど、まぁこれは『遅すぎた出会い』ってところね」

「……誰、誰なの! その相手って!」

「えー……どうしよっかなー?」

「いじわるすると……、いじわるすると言いつけるから! お父さんに言いつけるからね!」

「うん、いいと思うよ。どんどん言いつけなー。それからお父さんに聞いてみな。『お母さんは誰と結婚してるの?』ってね」



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