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『おはよう』を告げるネコ【ショートショート】【#151】

「親方! おはようございます!」

 目が覚めたら枕元にネコがいた。それも3匹。右からトラ柄、黒猫、またトラ柄の順番だ。真ん中の黒ネコは他より少し大きく、ボスのような存在なのかもしれない。俺にしゃべりかけてきたのもこいつだった。
 ――そう、この黒いネコは流暢な日本語をしゃべっていた。

「親方。朝からすみませんね。実は、先日助けていただいたネコの件でして……」

 一度ならずも二度までも話しかけられた。我ながら寝ぼけているのかと思ったけれど、どうやら寝ぼけているわけではないらしい。現場監督の仕事をしている俺は親方と呼ばれることがあるし、やはり俺に話しかけているのだろう。
 俺は目をこすりながら大きくノビをした。そんな動作に驚いたのか、ネコの言葉が一瞬つまる。しかしすぐに気を取りなおし、ネコは話をつづけた。

「――ほら、先日助けていただいたネコがいるでしょう。あの子はワタシのすえっ子でしてね。もう足腰も弱くなってきたけれど、親方が『まだ頑張れる』って言ってくれて、危うく命を救っていただいたってわけです。その上、キレイに身づくろいもしてくださって……。ワタシ、これは一度ちゃんとお礼にうかがわないとと思いまして、こうして朝からお邪魔させてもらったんですよ」

「……ちょっと、待ってくれ。ネコを助けた覚えがまったくないんだが……。悪いけどなにかの間違いじゃないのか?」

「いえいえ、あなた様に間違いありません。――あ、あなたに助けていただいた『ネコ』っていうのはですね、確かにワタシとは腹違いと言いますか、毛並みが違うと言いますか。ほらいるでしょう? 親方のお持ちの倉庫のほうに何匹か……」黒ネコは、なんとなく顔を動かして、俺の仕事道具なんかが置いてある倉庫の方をしめした。

「今はサビちゃって見る影もありませんけど、むかしは紺色でスッとなめるような毛並みが素敵でね。ヌッと2本の腕が伸びて、足はまあるく車輪がひとつ。あの子、うちのすぐ横で生まれたんですよ。ワタシらと一緒にネコ、ネコ呼ばれてるから、いつのまにか愛着がわいちゃいまして……。今では末っ子のように思っているんです」

 そこで俺は思いだした。確かにこのまえ捨てられそうになっていたネコを救った。大事に使えばまだ使えるから。洗えばまだまだキレイだから。そう言って廃棄されるのを止めたのだ、紺色の毛並みの、台車……通常『ネコ車』を。

「それでお礼としては、極上のまたたびか、まるまる太ったネズミかどちらがよろしいでしょうか? どちらも絶品ですよ?」

 黒ネコのしっぽは嬉しそうに揺れていた。




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