理由なんてなかったと、今も私は信じてる【ショートショート】【#126】
……ねぇあなた。
あなたはどうしていなくなってしまったんでしょう。今となってはもう直接聞くこともできません。でも全く見なくなったというだけで、死んでなくなったわけではないと私は信じています。だから方々に訪ねて歩けば、またあなたに会うことができるのかもしれません。
ただそれがあなたと私にとって最良の選択なのか。それが今となっては判断できなくなってしまいました。元号だってかわりました。長い、長い年月が流れてしまいましたから……。
最後にあなたに会ったのはもう何年前でしょうか。正直、今ではあなたの顔もよく覚えていません。私が覚えているのはあなたを初めて見たときの胸の高鳴り。どこまでも繊細なあなたを、吸い込まれるようにジロジロと眺めてしまったことは、今思い出しても恥ずかしくなります。
今でも何かの「きっかけ」があったわけではないと私はそう思っています。いえ……そう信じたいのです。長年連れ添った夫婦の心が、徐々に離れていってしまうように、少しずつ疎遠になっていった。そのうちに出来た溝の大きさに気がついて、もう戻ることができなくなってしまった。そんな風であったと信じていたいのです。だって私の心は変わっていなかったはずですから。
変わったとすれば、それはあなたの心……いえ、勝手な憶測で語るのはやめましょう。あなたにもきっと何かの理由があったのでしょう。私の知らないところで、あなたは大勢の人を相手にしていました。そういう星に生まれついた人ですからね。私なんかのもとに留まるような小さな器ではなかったのかもしれません。
でも……、一つだけ変わらないことがあります。今でも私はあなたのことが変わらずに好きだということ。そして私のところに戻ってきてくれるなら、いつでもあなたを迎え入れたい。そんなあなたを思うこの気持ちに一点の曇りもないということです。あら……2つになってしまいましたね。でもいいんです。だってどちらも本当の気持ちですから。
いつかまた私のところに帰ってきてくれることを、心より願っています。私の『二千円札』さん。
「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)