『アナログバイリンガル』（ショートショートnote杯）

　なるほど。話しかけても全く取り合ってもらえなくて大変傷ついたというわけなんですね。
　――旦那さんは？　全く反応もしてもらえなかったのはこちらの方だと？　そうなんですか。それに……働いてもいないのに、いつしか家事もやらなくなってぐうたら寝てばかり。むしろこちらが慰謝料をもらいたいと。　
　――なんです？　全く違う？　そもそも大した稼ぎもないくせに子供の世話も一切やらずに休日は寝てばかりだと。え、毎日遅くまで働いているんだから休日くらいは休ませろ？　まぁまぁ旦那さんも奥さんも落ち着いてください。
　――え、「奥さん」という呼び方が気に入らない？　そうですか、ではなんとお呼びすれば……ああお名前で。そうですか失礼いたしました……

　日々こうして働いていると、その場に全員いるのにまったく違う言語で話しているのではないかと思う瞬間がよくある。まるでアナログのバイリンガルだ、なんて私は思うのである。【ある調停委員の手記】

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