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盗まれた黒鍵【ショートショート】【#32】【掌編小説(だったもの)】

その日、世界から黒鍵が盗まれた。

「黒鍵」とはもちろんピアノの黒い鍵盤のことだ。世界中にある星の数ほどのピアノ。そのすべてから、その日、黒い鍵盤だけが盗まれたのだ。

最初に気がついたのはドイツの少年だった。
その日、誰よりも朝早く起きて発表会の練習をしようと意気込んでピアノの蓋を開けたときに、目前に広がる白一色の平原を発見する。自らの前に広がる光景に、理解は追いつかず動くことさえできなかった。しばらくしてから彼の母親が、ピアノの前に座りまったく動かない彼を発見したとき、同時にピアノに黒鍵が無くなっていることに気がついた。それが始まりだった。

世界中のピアノのどれもが同じタイミングで盗まれたわけではない。
ピアノが置いてあるだけで、何年も放置してるような家庭では、未だに盗まれていることに気がついていない家もあるだろう。防音室にこもって、一晩中ピアノを弾き続けていた音大生の家では、明け方、眠気覚ましのつもりでシャワーを浴びたときに盗まれた。昼夜を問わず、誰の目も途絶えることのないピアノなど存在しない。犯人は、その一瞬がどんな短い「一瞬」であったとしても、その機会を逃すことなく、すべてのピアノから黒鍵を抜き去っていったのだ。

最初は、何が起こったのかわからなかった人々も、近所のピアノからも黒鍵がなくなっていたことを聞き、まずはSNSを中心に、それが自分の周りだけでなく、全国中、全世界中で起こっていることが認識されていく。テレビが取り上げだしたときには、未曾有の大災害のような仰々しい扱いになった。それも仕方が無いだろう。何せ世界中からピアノの黒鍵がなくなったのだ。それも一日にしてすべてだ。もはや説明もつくはずがない。人々は、ただ白一色になったピアノを眺めて立ち尽くすしかなかった。

そしておののく人々を尻目に、犯行声明が出された。

黒鍵というのはそもそもめんどくさい。何故、世界には黒鍵なんてものがあるんだろうと、疲れに鈍くなった頭で、私はそんなことを考えていた。今週の小説のネタがさっぱり無い。えらいのかえらくないのか。そんな事実に目を背けずに、とりあえず下書きにある、これ書いてみたらいいではないか。書き始めたら何かが進みだして、ひょうたんから駒が出てくるのかもしれない。そう割り切って私はひたすら筆を進めてみる。しかしながら、ここまで読んでいただいた皆様はご存知のように、まったく向かう方向が見えないまま。まさに白一色の平原を突き進むがのごとく。そこに意図がないのだから当然だ。黒鍵を盗んだやつも、きっと特別な意図はなかったんじゃないかと。そう、世界中の人は考えただろう。きっとドイツ人の少年もそう思ったはずだ。

……って私は何を書いているんだ(笑
でも今週は忙しかったからなぞの文章かいても一日くらい許してよ(笑 今日はきっと、私の元からも「筆」という名の黒い鍵は盗まれてしまったのです(無理やり


#小説 #掌編小説 #掌編小説だったもの #掌編小説になりたかったもの

「欲しいものリスト」に眠っている本を買いたいです!(*´ω`*)