睡眠研究の第一人者『Dr SLEEP』【ショートショート】【#127】

「じゃあいきなりのお電話ですみませんが、早速お聞きしていきましょうか。教授、よろしくお願いいたします」
「はいお願いします」
「睡眠の質の話からなんですが、近年はやはりストレスが増えているせいか睡眠の質が悪くなっているんじゃないか、という意見がありますが、そのことについてどうお考えでしょうか?」
「……睡眠の質ね。まあ周りからの危険にさらされている場合……つまりストレスフルな状態だね。そういう状況だと安眠できないという環境要因は俄然としてあるようで、実際飼いならされてしまった子たちなんかだと睡眠時間は長いという研究があるね。正直どっちがいいのかよくわからないけれど、まぁ取りまく環境は大事ってことは確かだね」
「そうなんですか~。その……ちなみに『飼いならされている』というのは、その環境に適応している、ということですか?」
「そうだねぇ。やっぱり睡眠ってのは本能との闘いだから、どんなにいい環境でもストレスを感じる子はいるからね」
「なるほどなるほど。何かこう、睡眠の質を向上するためにしたほうがいいことというのはありますでしょうか?」
「ひとつはさっき言ったように環境の改善だね。外敵からの恐怖を極力減らすなど、ストレスを極力減らす。ま、大自然に囲まれていたらこれはかなり難しいことだけれど、安全性の高い、きちんとした寝床が確保できていることとかかな。あとはタンパク質を多くとると『レム睡眠』が増えると言われているね」
「おっ、そういうのもっとください」
「『レム睡眠』というのは脳が活発に動いていて体は休んでいる状態でね。この時間帯は筋肉に力が入らず、最も逃げることが困難な状態にあたる状態だ。一方で、ライオンなどの肉食動物も高タンパクだからこそ、レム睡眠が長く……ひいては睡眠時間自体が長いということにつながっているようだね」
「ということはタンパク質を沢山とれば、眠りやすくなるということですか?」
「まあ環境要因もあるが、そう言っても間違いではないだろう」
「『睡眠改善はタンパク質から!』――いい見出しですねこれ!」
「……とはいえ、あの子たちはもともと4時間くらいのショートスリーパーだからね。実際すべての危険要因を排して、何世代か実験してみたら食べ物に関係なく8時間くらい眠るようになるかもしれないけどね」
「――教授? 『あの子たち』とは? 最近の若い子たちですか? みんな睡眠短いですもんね」
「いや年齢にかかわらずみんなそのくらいの睡眠時間だよ」
「だって僕なんかは結構寝る人なんで8時間は寝ないと調子悪くなっちゃいますよ? 平均で4時間ってのは流石に少なくないですか?」
「きみはなにを言っているんだ? 人間の話なんてまったくしとらんよ」
「……はい? ちょっと待ってください。人間の話はしていない? ――ということはえっと、先程の『タンパク質がいい』というのも、もちろんその――人間の話ではない、と?」
「無論だ」
「えっ……その、あなたは睡眠研究の第一人者ですよね? もちろんその人間の。『Dr SLEEP(ドクタースリープ)』って呼ばれてる著名な方なんですよね?」
「誰だねそいつは。私は『Dr SHEEP(ドクターシープ)』とまで言われる著名な羊学者だ。羊の話に決まっているだろ。いきなり電話してきておいて人違いとは失礼にもほどがあるぞ」



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