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1杯目のかけソバ【ショートショート】【#14】

おじいさん:「こんな寒い日なのに、お前たちに満足に食わせてやる金もなくてな。すまねぇなぁ。年金だって削られる一方で、お年玉だってあげることもできねぇ。やっとソバの一杯をおごってやることが、今の俺にできる最大級のもてなしなのよ。許してくれな。おーいかけソバ1杯頼むよ!」
孫1:「じいじ、お金ないのー?」
孫2:「じいじ、ソバ好きー?」
おじいさん:「働かなくなってだいぶになるしな。正直な事言えばお前らをどこまで食わせてやれるのかもわからねぇ。それでもこんな寒々しい師走だ。温かいものでも入れなきゃやってられねぇ。家族3人で1杯のかけソバなんて乙なもんじゃねーか。お前ら知ってるか?昔『1杯のかけソバ』って話があったんだ?どうだ?知ってるか?」
孫1:「知らなーい!」
孫2:「聞いたことなーい!」
おじいさん:「お金がない家族がな、今日みたいな寒い日にかけソバ食べに来るんだよ。でも金がないからってお母さんと子ども2人の家族3人で1杯だけ。それを楽しみに毎年食べにくるわけだ。まさに今のワシらみたいな感じだろう?」
孫1:「よくわかんなーい」
孫2:「なーい!」
おじいさん:「ま、それでよ。その家族はいつしかこなくなっちまうんだけど、数年たって子供たちが成長して、お母さんを連れてそのソバ屋に戻ってくるわけだ。今度は3杯のかけソバを頼んだってオチよ。立派になってまあ。これが実話をもとにしてるってんだからびっくりだぜ。お前らも大きくなったときに、じいちゃんに上手いもんおごって返してくれればいいってもんよ。ほらっもう出来るぞ!」
孫1:「てゆうかー……じいじ。孫1……ソバ食べれない」
孫2:「孫2もー!アレルギーってゆうんだって。かゆいかゆいってなるの」
おじいさん:「…………は!?お前たち、ソバダメなのか?アレルギーだって?全然ダメってことか?なんで先に言わなかったんだ!?」
孫1:「……だって、いいとこ連れてってやるーってそれしか聞いてないもん」
孫2:「とにかくこい!ってじいじが……」
おじいさん:「おいおいもうソバ頼んじまったよ……金だってないんだぞ!お前ら、俺がどんな気持ちでソバおごってやろうって……なぁおい」
孫1:「…………」
孫2:「………」
ソバ屋の大将:「……お客さん。もうソバ作っちまったけどさ。いいよ、子供アレルギーなんだろ?お金いいから、その子らにうどんでも食わせてやりなよ。うちを出て右に5分も行けば、チェーンのうどん屋あるからよ。あそこも結構旨いし……あんまり言いたかねぇけどな、そっち行けばうどん2杯は頼めるからよ」
おじいさん:「……大将。お気持ちはありがてえ。でも『二杯のかけうどん』じゃあ、語呂が悪いじゃねぇか……」


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