スライダースパイラル【ショートショート】【#85】
「君はウォータースライダーは好きかね?」
「そうですね。好きだと思います」
「なるほど。では……君、子供はいるかね?」
「ええ、4歳の男の子がいます」
「であれば想像しやすいのではないかな。今年の夏は非常に暑く、プールなどにも行っただろう?」
「はい、行きました。おっしゃるように今年は大変暑いですから。普通に外で遊ぶには心配ですし、いろんなプールに連れていきましたよ」
「プールにはいろんなウォータースライダーがあったと思うが、子供がその年だと身長制限があって、まだ乗ることができない。……そうだろう? そして君自身がスライダーをやってみたいな、と思ったとしても、子供が滑れないのに自分だけ滑るわけにはいかない。そう思ったことがあるだろう?」
「そうですね。乗りたいって言いだすと厄介なので、なるべく見せないようにしたりして……。私も、子供のころはプールでスライダーを楽しみましたからね。早く一緒に楽しめるといいんですけど」
「うむ。しかし、実際には子供が大きくなったころには、すぐに言いだすだろう。『親となんて一緒に行きたくない。友達と行く』とね」
「ああー、それはそうかもしれませんね。悲しいですけど僕にもそういう記憶がありますから仕方ないんでしょうね」
「それ自体は確かに仕方がない。だが君は気が付いたかな?」
「……何にですか?」
「つまり、どれだけウォータースライダーに乗りたい気持ちがあったとしても、子供が小さいうちは制限があって我々はスライダーに乗れない。子供が少し大きくなってくればプールに付き合うこともなくなり、我々はスライダーに乗る機会がない」
「あー……つまり、大人になってしまうと、サイクル的にもうスライダーには乗れないと……」
「その通り。これこそが『スライダースパイラル』だよ。我々は心の奥底にあるスライダーに乗りたいという欲求を、長年、鬱積させながらも、それをかなえることはもう二度とできないのだよ」
「それはたしかに悲しいですね」
「だからこそ私は、この『スライダースパイラル』という呪いを解消すべくこれを開発した、――というわけなのだよ」
「お、先生。やっと話が戻ってきましたね。でも先生。失礼を承知でお伺いしますとですね、……その動機からできたものが、これでいいんですか?」
「何がいかんというのだ! 積もった欲求は爆発する危険性がある。どこかで解消せねばならん。そのために私は、長い年月をかけ、持てる力のすべてをかけてこれを開発したのだ。どこに出しても恥ずかしくない一品だ」
「そうですか。どうも動機には納得がいきませんが、まあ発明は発明ですからね。……えっと、『大人用哺乳瓶』でしたっけ?」
「そうだ。形状、質感、耐久性と、現在の技術の粋がつまっておる」
「なんなら夢と希望もつまってそうですね」
「君もなかなかうまいことを言うではないか」
「ああ……そうですか。なんかすいません」
「謝ることはない。さあ全世界にこれを売り込んでくれたまえ。期待しているぞ」
「……ええ。はい。わかりました……。ご期待にそえるよう頑張ります……多分」
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