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『バ美肉』という麻薬【ショートショート】【#29】

「しばらく顔見なかったじゃん?なにしてたの?」
「今、ハマってることがあってな。それにずっと入り浸っていた」
「入り浸るってことは、なんかの集まりとか?それともネトゲとか?そういうの?」
「いや近いけど違う。……お前『バ美肉』って知ってるか?」
「なにそれ、聞いただけでキモイんですけど」
「ちげーよ!いやまあ聞け。『バ美肉』ってのは、『バーチャル美少女受肉』のことだ」
「……キモッ!あたし帰りまーす!」
「おい、ちょっと待てよ!話くらい聞けよ!確かに単語としては気持ち悪いかもしんないけど、マジでこれはすげーんだ!」
「はぁ……じゃわかった、2分だけ聞いてあげる」
「よし、あのなバ美肉ってのはな、わかりやすくいうと『バーチャルで美少女になりきること』だ。男である俺が、かわいい女の子の容姿をまとってVTuber活動とかができる、それがバ美肉だ」
「……つまり、ネトゲで女性キャラをやる?みたいな感じのあれ?」
「似ている部分はある。ただ、一番違うのは目的だ。ゲームをする過程で、女性キャラを選択したわけじゃなくて、バ美肉は、『見目麗しい女の子になること』自体が目的で、要するに俺はかわいい女の子になってちやほやされたい」
「素でキモイんですけど……」
「だが、お前だってちやほやされれば嬉しいだろう?」
「いや、そりゃそうだけど……」
「相当のイケメンでもなければ、『ちやほやされる』など絶対に経験できない。それがバ美肉すれば瞬時に可能だ。もちろん人気を得ようと思えば努力が必要だ。だが中身がおっさんであっても全く関係のない平等な世界だ。容姿がかわいいというのは正義なのだ」
「そんなこと言ってると怒られるよ……それこそモテる子にはモテる子なりの苦労もあるんだろうし」
「そんな苦労はバ身肉には存在しない。うざいファンもたまにはいるが、やめようと思ったらすぐにやめられるし、個人情報はどこにも出ていない。肉体的接触もありえないから、非常にクリーンだ。何よりも『ちやほやされる』ことがこんなに楽しいなんて……これまで四半世紀以上を生きてきてこれほどの快楽を得たことは一度もない。ただの一度もだ。もやはこれは麻薬、いや麻薬以上だろう。なぜ俺は、今の今までバ美肉に手を出してこなかったのか……バ美肉のない人生など考えられない」
「はぁ……」
「今はまだ考えていないが、もし俺が仕事をやめて『VTuberになる』、とか言い出したらまあそういうことだ。その時は、多くを聞かずに応援してくれ。アカウントは教える」
「あー……うん、そうね、頑張ってね。応援してるわ。じゃあもうきっと会うことは無いだろうけど」
「悲しいことだが、俺にも負けられない戦いというのがある。確かに次会うときは『地獄』かもしれないな」
「なにそれ。あたしが地獄に落ちるってゆうの?」
「いや、バ美肉界隈は『おじさんが自分自身で絵を描いて、おじさんが自分自身を美少女に変え、寄り集まってワイワイしている』という闇の深さから、『地獄』と評されるのだ」
「早く地獄に落ちたらいい。色んな意味で」
「ありがとう。暖かい声援痛み入る」
「もう好きにして……」


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