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世界が一つになった日【#1200文字のスペースオペラ賞】【ショートショート】【#55】

西暦2150年。宇宙戦争が始まってからもう10年近くになる。
戦争の相手は「宇宙人」だ。

21世紀の人類は希望をもって広大な宇宙を見つめ、まだ見ぬ「宇宙人」に思いをはせた。少しづつ宇宙へ活動範囲を広げ、人類の3割は火星やスペースコロニーで生活するようになる。そして来たる西暦2142年。人類はついに宇宙人と遭遇する。しかしそれは我々が思い描いたような華やかなものではなかった。

その日、緊急の火星大統領演説が行なわれた。
内容は『火星軍が唐突に攻撃を受けた。相手は宇宙人である』という衝撃的なものだった。加えて宇宙人は一切交渉に応じないこと、こちらのことはかなり詳細に調べてある模様であること、火星軍の1割程度がすでに破壊されたことなどが説明された。

宇宙人はどこから来たのか。どんな生態なのか。会見場には様々な質問が飛びかったが、ほぼすべての質問に対し「現在調査中」以外の回答はなかった。そうやって人類にとって理由も相手も定かでないまま、唐突に宇宙戦争は始まったのだ。

ファーストコンタクトの後も、毎日のように交戦は行われ、様々な被害が伝えられていた。幸い22世紀の戦闘は、無人機による交戦が主になっており、死傷者はほとんど出ない。しかし相手の目的や生態がわからないことは恐怖心を誘い、様々な憶測が飛び交いまた恐怖をあおる。

負の連鎖のはけ口は、防衛費の拡大を後押した。国ごとに違いはあるものの平均で各国GDPに対して10%程度の支出を記録する。米国の21世紀初頭の比率は3%程度であり、優にその3倍をつぎ込んでいることになる。

あるものは学業を切り上げ、あるものは育児を親に任せ、人類総出で軍需産業の拡充を支えることになった。人種や国などもはや関係がない。「宇宙人」という未知で未曾有の危機から人類を守るため、初めて世界は一つになったのだ。


その日、火星大統領は米国大統領と会談をしていた。

「それで、計画ではいつまでを思い描いているのかね?」
「そうですね。あと3年で火星移住50周年が来ますから、そこまではこの状態は維持しておくつもりです。反対運動も出てきているので、そのあたりで一度沈静化をはかるのも悪くないでしょう」
「我が米国も、戦争にはかなり恩恵を受けたからな。まあそのあたりが潮時かもしれん。しかし……『宇宙人と戦争を始めましょう』と言い出したときは気でも狂ったかと思ったぞ」
「我ながら傑作なアイデアでしょう。戦争は儲かりますからね。架空の相手を作り国民の恐怖をあおり、軍需産業を徹底的に盛り上げる。情報さえ管理できていれば自由に敵を作り出せるわけです。宇宙は広いですから……」
「そして、ほとぼりが覚めたあたりで、今度は別の宇宙人を出し戦争を始めれば、また儲かるというわけだ」

二人はひざを叩いて笑いあった。


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