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きんぴらごぼう。

県境をまたいだ移動が解禁され、駅は混んでいた。

人は自由に歌ったり踊ったり、絵を描いたりするのに、移動の時だけはどんな人でも自分の限られた小さな場所にとどまっている。いつもちょっとだけ滑稽な気がする。

昼過ぎ。密を避けるために開けられた会社の窓から生ぬるいにおいがしてきた。雨だ。

乾いた道路に隠れてた あらゆるにおいの種たち。以前、アスファルトの匂いだよ。と誰かに聞いたことがあるけど、このにおいは「私はここにいるよ」という彼らのアピールのような気がするし、その方が素敵だと私は思う。

家に帰り、昨日のとん汁を取り出そうと冷蔵庫の扉に手をかけると脇にごぼうが佇んでいる。

ごぼうを洗い、ささがきにしようと包丁を動かすもうまくいかない。小学生の頃、鉛筆削りも上手くはなかった。。。

だったらとピーラーに持ち替えてごぼうをコロコロ回しながらピーラーで撫でる。

茶色いごぼうは白い肌を見せ、ひとつふたつとまな板の上で飛び跳ねた。

フライパンにごま油を敷いて、ごぼうを入れて火にかける。

ごぼうがしんなりしてきたら、砂糖を大さじ1。塩をひとつまみとお醤油も大さじ1。

水分がなくなって、白ごまを好きなだけまぶせば、キラキラ輝くごぼうのきんぴらがそこにいる。

昨日のとん汁を電子レンジにかけ食卓に並べる。

その横には、甘辛くシャキシャキで、土のにおいがほのかに香る。小高い山。





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