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【韓国文化研究者のリアル韓国考察】2022年韓国の地下鉄に見える文化

 文化を教えることにおいて、常に問題となってくるのが個別性と変化です。
 個別性とは「韓国人は〜である」ということの危険性(SNSでも、属性で話をくくることを「主語が大きい」とよく諌めていますね)のこと。こうしたステレオタイプ的発言は「〜人は背が高くてかっこいい」「〜人は英語ができて頭がいい」といった「褒め」につながるときは気付きませんが、「〜人はすぐ人を騙す」「〜人はすぐ人を恨む」といったヘイトにも簡単に発展します。
 変化とは、街の様子、食べ物、流行など見えるものもそうですし、考え方や慣習など見えないものも変わっていくということ。30年前に書かれた韓国文化論は今の韓国社会を映す鏡にはなりません。
 だから、リアルな韓国を肌で感じる経験は、個別性で捉えられるようにするため、変化を感じ取っていくためになくてはならないものです。


 コロナで中断していましたが、この秋からようやく留学が再開しました。引率でひさびさに韓国を訪れ、地下鉄に初めて乗る日本人学生をエスコートしました。10人以上の引率。コンビニでTマネーカードを各自購入させたいところでしたが、時間がなかったので、現金で購入することに。券売機の使用方法は、留学準備講座という授業で、丁寧に作られたyoutube動画で事前学習していました(そこまでするんか!というのもある)が、いざ実践となると勝手が違います。面白いくらいにうまくいかないのです笑。
 紙幣を券売機に入れるのですが、まず入らない。何人もの学生が苦戦しています。確かに日本の券売機よりお金が戻ってきてしまう率が高いかもしれません。
券売機は日本語で表示できるのですが、もたもたしているとすぐに最初の画面に戻ります。スピードについていけず、最初からやり直しになる学生が続出です。
 駅名を選んでいると時間がかかるので、近い駅なので「基本料金ボタンを」と叫びながら購入していきました。「降りた駅で、デポジットの分の料金を換金機で換金せよ」という説明もなかなか伝わらず、それらの説明を全てショートカットできるTマネーカードの偉大さを痛感しました。

 ソウルの地下鉄は1−10号線など数字で呼ばれ、2号線が緑、5号線が紫といった色で表示するので分かりやすい!なんて紹介されていましたが、自分が乗るべきなのは上り方面か下り方面かなど、主要駅や終着駅の名前を知らないと判断がつきません。時間を掛ければ、次の駅名やサイネージに表示された駅名を検索するなどして調べられますが、「電車がホームに来てる! さあ乗れ!」ととっさの判断はできません(日本の電車でも同じことが起きますね)。

鐘路3街駅のサイネージ。どこ行の電車が、今どの駅の近くにおり、何分後に当駅に到着するのかを表示

地下鉄のファン広告

 ニューヨークや平壌でも地下鉄に乗りましたが、地下鉄ってその町や国柄みたいなものが分かって面白ですね。
 地下鉄の通路などで、俳優やアイドルのファン広告が見られるようになって久しいですね。ちょうどBTSジョングクの誕生日直後だったので、偶然ファン広告を見つけました。

広告を作成したファンクラブ名が並び、BTSジョングクの誕生日を祝うとともにファン投票への参加を促している
「ジョイ姫の誕生日をお祝いします」と書かれたRed Velvetジョイの誕生日広告


 韓国は休戦中の国ですから、地下鉄施設が待避所つまり爆撃時などのシェルターの役割をしています。地下空間がやけに広く感じるのは、そういうわけです。なので、乗り換え時はかなり歩くこともあります。

東大門歴史文化公園駅

 駅自体から、その街のコンセプトを感じることもできます。東大門歴史文化公園駅(旧東大門運動場駅)には、88年のソウル五輪のマスコットキャラクターが壁にずらりと並んでいます。ここは、86年アジア大会と88年ソウル五輪のメインスタジアムである「ソウル総合運動場」が蚕室にできるまで、「ソウル運動場」と呼ばれるソウル最大の総合競技場があった場所なのです。ソウル五輪ではサッカーの競技が行われました。

東大門歴史文化公園駅

「ソウル総合運動場」ができたことで、その後は「東大門運動場」に改称され、それも再開発で取り壊されて、2014年にDDP(東大門デジタルプラザ)が建っています。最近の学生は、DDPがスタジアムの跡地に立てられたことを知りません。説明すると、なぜ東大門歴史文化公園駅周辺にボーリングの玉などスポーツ関連店が多いのか納得していました。

広すぎる地下空間

 広すぎる地下空間という「無駄な空間」を、平常時の文化空間に作り替える試みも見物できます。駅中開発は日本でも盛んですが、「文化」に力を入れているところが、韓国ならではです。

 芸術舞台があったり

「地下鉄芸術舞台」と書かれたスペース。地下鉄路上ライブができる場所ということでしょうか

 ゆっくりおしゃべりできる空間があったり

「トーキングゾーン 連れと対話したり少しゆっくりしたいときに!」と書かれている

ストレスチェックをするブースがあったり。

「私のストレス数値を調べましょう」と書かれており、10の質問にいくつ当てはまるかによって、ストレス度を評価

 韓国は「早く早く(パルリパルリ)文化」だと言われてきましたが、スローライフや心のゆとりを大事にしようとしているのが伺えます。ストレスフル社会なだけに、その解消のために地下鉄が工夫しているのですね。

 驚いたのはこれ。5号線の踏十里駅にあったその名も「メトロファーム」。

メトロファーム

 ソウル東部の場末感がある中心街からはまあまあ外れたスペースで、水耕栽培をして、自販機で販売していました。品切れで買えなかったけど。「採れたて野菜を地下鉄駅で買う」は近未来を感じました笑

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