【超短編】晴れ舞台


沢山のカメラが、俺の方へ向けられている。

みんな特別な人間を見つめる眼差しで、この瞬間を逃すまいと、動画や写真を撮っているようだった。

それは俺が、生涯を捧げた夢。

みんながこちらを見て、驚きの表情を浮かべた。

俺は俺の夢を、遂に為し遂げたのだ。


あぁ、誰かに特別な視線を向けられることはこんなに気持ちがよく、心安らぐものだったのか。

母にすら見守られてこなかった俺の人生が、丸ごと救われたような、そんな瞬間だった。
勇気を持って、一歩踏み出してよかった。

この一瞬、流れ星のように輝いた俺の人生は、成功だったと言える。

成功だった。やっと、完成した。そんな気持ちだ。

しかし、なぜだろう。
何となく、大成功とは言い難い。


まぁいいか。
一度の成功も感じられず他人にカメラを向けるだけで終わっていく、奴らの人生と比べたら、俺のそれは傑作だから。


眩しかったフラッシュを遮って、誰かが俺の前に立った。

おそらくトラックの運転手である平凡な男のボロボロの靴が目に入り、腹が立つ。

邪魔だな。
そんなことをしたら、俺の勇姿が写真に映らなくなるだろうが。

そいつは何か大声を出していたが、俺にはその言葉を理解することはできなかった。

目の前が少しずつ暗くなる。
しかしそんな時ですら、俺は満足感に包まれていた。

最後まで迷ったけれど、一歩踏み出して、道に飛び出してよかった。

もしもう一方の選択肢の、自殺配信を選んでいたら、奴らのリアクションを見られないまま、終わっていたのだから。

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