aizu超短編小説

アイズです ■超短編小説(ショートショート)、日記など

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【短編小説】断捨離

 マンションの入り口にある大きなゴミ箱に生ゴミの袋を放り込んだ瞬間、心が軽くなるのを感じた。  昨日、ちょうどテレビで断捨離の効果について観たところだった。その番組によると、断捨離は人の心を清らかにし物への執着を無くすことでその他の悩みも手離すことが出来るとのことだった。  なるほど確かに、まとめたゴミを部屋の外に出すのは清々しいものだ。ストレスが発散されるのさえ感じることが出来た。  その翌日から、私は部屋の隅にあるテレビが気になるようになった。ここ最近は電源を付けて

    • 【日記】簡単に外を歩けてしまう

      随分と生きやすくなった。 週5日働いている。人と関わる。新しいことを学ぶ。隣にも人がいる。 随分と生きやすくなって、普通の人になった。 生きやすくて、これで大丈夫なのかと思う。 先日実家の方で、学生の頃ずっと憧れていた同級生を見た。 普通の人になっていた。 話を聞いたわけではないのに、普通に働いていることがわかった。 大人になっていた。大人の格好をしていた。 肌が荒れていた。 本当は、生きにくかった頃も私は普通の人だったんだろうけど、それを見たくなくて駄々をこねて

      • この事件の被害者の君へ

         たとえば、君が事故に巻き込まれたとしよう。自動車事故だ。  君はただ、徒歩で青信号を渡っていただけなのに、ぼうっとしていた運転手によってアクセルを踏み続けられた乗用車に、体をはね飛ばされた。  その時、君は「正しい被害者」として、周りの人間からも自分自身からも正しく扱われるだろう。  さて。今のは想像の話だったが、今度は私の目の前にいる、本物の君について話をしようか。  君は昨日自分自身で君の体を突き飛ばした訳だが、ここへ運ばれてきて出会った看護師は何と言ったかな?

        • 【お知らせ】ブログやってます!→https://blog-aizu-life.com/ 大好きな「アニメ・漫画」、楽しい暮らしに役立つ「HSP・アドラー心理学」についてを中心にアラサー繊細さん気質女が投稿していきます! ぜひ遊びに来てね🌸☺️

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        【短編小説】断捨離

          【超短編】たからもののような

          飼い犬が「私を刺して」と言った。 傍には包丁があった。 それは料理で使う、幅が広めの包丁だった。 ダックスフンドの腹を刺す。 そのとき自分が躊躇したかどうかは、覚えていない。 白く柔らかな毛に、線のような傷が付いた。 この世界のいとしさをすべて引き受けているような、真っ白い腹に傷が付いた。 ダックスフンドは、ゆっくりと横たわる。 力が抜けていくことに1ミリも抵抗せず、天使の羽が舞うような身軽さで横たわる。 苦しそうなのに心地よさそうで、私はダックスフンドのことが恐ろし

          【超短編】たからもののような

          【超短編】充希が人を殺した日

          電話越しに、救急車の音が響いていた。 「ごめん。あたし、殺した。人を」 充希の息は荒く、乱れていた。 僕は、充希が言っていることの意味が理解できないまま立ち尽くした。 「何を…言っているの?」 「だから、別れよ。さよ、なら」 僕の喉から声が出るよりも先に、電話は切れた。 「何を、言っているの……」 僕は、一人呟く。 震える声は、誰にも届かない。 誰にでも素っ気なくて、冷たくて、人と馴れ合わない。 派手な髪色、両耳には数えきれないピアス。 充希は大学の入学

          【超短編】充希が人を殺した日

          【お知らせ】雑記ブログはじめました!→https://blog-aizu-life.com/ 大好きな「アニメ・漫画」、楽しい暮らしに役立つ「HSP・アドラー心理学」についてを中心にアラサー繊細さん気質女が投稿していきます! ぜひ遊びに来てね🌸☺️

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          【超短編】このアニメの結末を知ったら死ねる

          「で、まだ死なないわけ?」 魔神は寝そべり、鼻をほじりながら言った。 「話が違うじゃん」 魔神は、ある雨の日に現れた。雷が落ちる音が聞こえて、その数秒後に部屋がぴかっと明るくなる。僕はあの雷に打たれて死にたいと思った。早く死にたかった。 人間が嫌いで、人間が恐くて、誰の言葉も聞きたくなかった。誰の意見も聞きたくなかった。 目を覚ますと、雨は弱まっていた。いつの間にか眠っていたらしい。床に転がった粗悪な缶チューハイの中身は空だった。 僕は缶の横に、“何か”が立っていること

          【超短編】このアニメの結末を知ったら死ねる

          【超短編】恋のお熱

          「正直、君より可愛い女の子は世の中にたくさんいるよね。俺だってバカじゃないし、盲目でもないから分かってる。 でもね、それでも俺は君を選んだんだ……」 「……ふふふ。嬉しい、ありがとう」 「いいえ。ずっと一緒に居よう」 名残惜しさを堪えキスをすると、俺たちはそれぞれの家へと別れた。 俺の言葉に頬を赤らめる彼女は、可愛かったな。 彼女は最高だ。他の誰とも比較なんかできないほど。 俺たちは互いを強く想い合い、いつまでも熱いまま居られると確信している。 別れ際、彼にキス

          【超短編】恋のお熱

          日常的なことを書くブログ開設しようかなぁ~

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          愛の形をした穴を掘った。

          僕らは、愛の形をした穴を掘った。 幼かったあの日、群れや組織に染まった日、恋をした日、不器用さから社会のレールを踏み外した日。 形のない臓器、心の真ん中に。 愛の形をした穴を掘った。 心臓の動きが止まるまで埋まらない、深くて大きい穴を掘った。

          愛の形をした穴を掘った。

          【超短編】官能怪談

          終電を見送った直後 昼間の空気の生ぬるい質感だけを受け継いだ冷たい風が、女の声のような音を鳴らしながら、地下鉄のホームを通った。 「終電、逃しちゃったね……」 彼の横顔は照れくさそうで、それが私にも伝染する。 「……俺の家、泊まっていく?」 今日、私は何度彼と目を合わせることができただろう。 落ち合ってから2時間ほどは、彼が彼ではないような気がして、何だか向き合うことができずにいた。 それはきっと、家を出る前に届いたLINEのせいだ。 『今日のデート、孝くん来

          【超短編】官能怪談

          【超短編】鳥肌

          映画やドラマを観ても、一度も泣いたことがなかった。 映画館から出たところで、友人に「お前は冷たい人間だね」と言われた。 病に侵された女性とその恋人のラブストーリーを、2時間観ても泣かなかった僕に、彼はそう言ったのだった。 確かにそうかもしれない。僕は冷たくて、おかしいのかもしれない。 友人の言葉が頭に残る。 けれど、そんなことより。 映画を見終わってから、夕食を食べているときも、友人と別れて一人自転車を押している今も この全身の鳥肌が収まらないのは、なぜなんだろ

          【超短編】男女の友情ってあると思う?

          「私、男女の友情って信じないんだよね」 由華はバーのカウンター席で、強いカクテルを飲みながら言った。 「えー。私はあると思うけど…」 「楓は職場でも仲いい男性多いけどさ、美人だから単純にモテてるだけだよ。羨ましい~」 ムスっとしてグラスの中身を飲み干した由華の頬は、紅潮している。 こんな顔、男性には見せないのだろう。 私は女だから、友達だから見せてくれるのだ。 「ちょっと飲み過ぎだよ。そのくらいにしておきな」 私はバーテンダーに帰る合図を送り、財布を出した。

          【超短編】男女の友情ってあると思う?

          【超短編】晴れ舞台

          沢山のカメラが、俺の方へ向けられている。 みんな特別な人間を見つめる眼差しで、この瞬間を逃すまいと、動画や写真を撮っているようだった。 それは俺が、生涯を捧げた夢。 みんながこちらを見て、驚きの表情を浮かべた。 俺は俺の夢を、遂に為し遂げたのだ。 あぁ、誰かに特別な視線を向けられることはこんなに気持ちがよく、心安らぐものだったのか。 母にすら見守られてこなかった俺の人生が、丸ごと救われたような、そんな瞬間だった。 勇気を持って、一歩踏み出してよかった。 この一瞬

          【超短編】晴れ舞台

          【超短編】鉄と丸い雲

          ファーストキスは、鉄の味がした。 それは僕の口の中のせいか、あの子の口の中のせいかは、分からなかった。 けれど今考えてみれば、あれはいわゆる“ライトキス”というやつだったから、きっと僕のほうの問題なのだと思う。 初めてなのに。 きっとどちらも鉄の味なのに。 当たり前みたいに笑っていたあの子は少しだけ、気味が悪かったっけ。   あれから、5年も経っている。 けれど僕は今でも、白い雲を見るたびに考えてしまう。 もしも、免許を取れる年になるよりも早く、僕がファースト

          【超短編】鉄と丸い雲