【超短編】男女の友情ってあると思う?
「私、男女の友情って信じないんだよね」
由華はバーのカウンター席で、強いカクテルを飲みながら言った。
「えー。私はあると思うけど…」
「楓は職場でも仲いい男性多いけどさ、美人だから単純にモテてるだけだよ。羨ましい~」
ムスっとしてグラスの中身を飲み干した由華の頬は、紅潮している。
こんな顔、男性には見せないのだろう。
私は女だから、友達だから見せてくれるのだ。
「ちょっと飲み過ぎだよ。そのくらいにしておきな」
私はバーテンダーに帰る合図を送り、財布を出した。
「ねぇ、楓ってさ。なんでいっつも払おうとするの~?同期なんだから割り勘が普通でしょ~」
酔いで喋り方もだらしなくなっている由華は、小さくて可愛らしい財布を取り出す。
そして私に何枚かのお札を渡した後、お手洗いに立った。
私はお釣りの清算を待ちながら、彼女が入ったトイレの方を見ていた。
それは男女兼用で、ドアには男子のマークと女子のマークが並んでいる。
私は当たり前に、男女の友情は成立し、存在すると思っていた。
ただ、幼い頃から特定の同性との友情だけが成立しないことがあったのだ。
最近の“特定の誰か”は、あのドアの向こうにいる由華なのだけど。
トイレから出てきた彼女の足取りは、ふらふらとしていて危なっかしい。
「家まで送るから」
「ふふ。楓って、本当に彼氏みたいだよね。楓が男だったらよかったのにな~」
店を出て彼女の腕を支えると、由華は私にもたれ掛かるようにして歩き出した。
コート越しにも熱い体温が伝わってくるようで、私の鼓動はひとりぼっちのまま速くなる。
耳まで赤らめている無防備な由華を見ていられなくて、私は歩幅に合わせて揺れるお気に入りのスカートを見つめながら歩いた。
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