あそこの席の女性

30代の知的な女性が二人で来店した。そのうちの髪の長い彼女が話してくれた。

「大学のときの先生が女性向きのイタリアンレストランを始めたんですよ」
シェフとしてというわけではなく、オーナーとして。
彼は、都内O線沿いのおしゃれな街に、女性ウケを狙ったおしゃれなイタリアンレストランを始めた。わりと順調にお客さんが入り始めた。
お客さんが
「ああ、あそこの席に座っている女性、きれいですね」
っていうんですけど、誰も座っていないんです。
「でも、その大学の先生も、そういうの見えるって、私、知っているんです。その先生も、同じ席を見て『あそこの席の女性、きれいだね。他のお客さんでもそう言う人多いんだよね』って言うんです。でも、誰も座っていないんですよね」

よくよく考えてみたら、女性ウケを狙って作ったイタリアンなのに、来店している客はみんな男性で、その多くの人が、あそこの席をチラチラ見ている。

飲食店のジンクスで、「幽霊のいる店は流行る」というものがあるけれど・・・。

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