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No.36~40

No.36 もしくは、終末によくあること

 片腕が取れました。どちらですか。左です。不幸中の幸いですね、もしも利き腕だったら……。私の利き腕は左です。これは失礼しました。いいえどのみち関係ありません、私たちは少しずつ朽ちているのですから。

No.37 蛇が言うことには

 舌先が割れているんです。これは、極めて稀なことらしいです。私たちより発達しているはずのヒトに、舌を割らんとする者もいるらしいのです。私たちは、選ばれた者ではないのに。たた、舌先が割れているだけなのに。

No.38 スノウ・モーション

 雪、降ってる。雪じゃないよ。雪だよ。灰だよ、君が知ってる人の。あの人は、「死んだら雪になるんだ」って言ってた。……。ねえ、このおぼつかない、どこに着地すればいいのかわからない感じ、あの人にそっくり。

No.39 エコー、名称未設定

「エコー」あの人は、毎日現れた。一日一箱。決して、カートでは買おうとしなかった。「セブンスター」その日、あの人は言った。目の前にいるのは、間違いなくあの人だ。それ以来、あの人の姿を見ていない。

No.40 月下(偽)

 彼女は毎晩、月を見せてくれた。円形の蛍光灯の、常夜灯の橙色の月。「本物なんて、くそくらえ」彼女の口癖。彼女が失踪したとき、僕は本物の月を見上げた。「本物になったのかな」彼女は今、きっとあそこにいる。

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