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No.66~70

No.66 答える、答えない

「指を一本立てる」「“あなたはバカです”」「二本立てる」「“あなたはどうしようもないバカです”」「人差し指の中指は」「悪意」「中指と薬指は」「好意。……じゃあ、君は僕のことを?」「……」「そっか」

No.67 died down

 潮の満ち引きは、駆け引きです。干潮し、凪ぐ波すらない泥濘に膝まで浸かります。ここまで来れば、容易には戻れません。このまま大波に攫われるのを待つか。差し迫る死に恐怖するのが先か。私は、目を閉じています。

No.68 管制塔

 私は管制塔です。ええ、ええ。わかっています。ここには、もう誰もいません。往く舟も帰る舟もありません。けれど、私は管制塔です。何十年、何百年先でも構いません。「皆さん」が戻るのを、お待ちしています。

No.69 抄

「本当、楽しいことばかりだったね」床に臥す君が、そう言うなら。不幸より幸福に焦点を合わせる方が。恨み言の一つや二つはあったはずなのに。もう、いじわるは言えないよ。どうか幸福なまま、幕を閉じて下さい。

No.70 霧を食らう

 五里霧中。霞を食えるのなら、霧も食えるのでは。しかし、いくら口を開けても腹は満たされない。喉が多少潤うばかり。いっそのこと乾涸びてしまえば――。いや。霧でも霞でもいい。俺は、このまま行き倒れるなど、

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